- 作者: 齋藤孝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 新書
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身体論とコミュニケーション論を組み合わせた独自のメソッドは、先生ご自身も書かれているように何で今まで誰も教えてなかったんだろう、ということだらけ。もし日本人が全員この特別授業を受けたら、海外から言われる「日本人のイメージ」はかなり変わるんじゃないかと思う。
いかに人とうち解けるか、自分をオープンにするか、人の話をどう聞けば自分の記憶に定着させ、さらに関係を密にすることができるか。プレゼンや取引などにもすぐ役に立つし、自分を人にわかってもらえる技術も身につくと思う。
簡単なことだが、やるとやらないでは大違い。本では授業と同様に課題が出されるので、実際にやってみるのがお勧めです。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
再生方式
「人の話はわかったつもりになっていても、もう一度再生しろと言われたら、再生できないことがほとんどである」このことを忘れてはいけません。聞いただけでは、自分の身になっていない、吸収できていないということです。しかし実際は、私たちが話を聞くとき、ほとんどは聞いただけの状態です。ですから私の授業では、初日に「私の話を2分で再現してください」という課題を与えるのです。
これが私の考えた「再生方式」というやり方です。(中略)聞いただけでは記憶は定着しません。しかしそれを再生すれば、記憶に残るようになります。だから同じ話を2、3人に向かって続けざまに話すと、話は完全に定着します。言ってみれば、古典落語のようなものです。何度も話しているうちにうまくなる。
聞きながらメモを取る
普通に聞いている状態は、ほとんど聞いていない状態と同じである、と気付くところから、私の授業はスタートします。話すことを前提に聞く。そしてメモを取る。
メモを取る際、私の授業では三色ボールペンを使います。非常に大切なところは赤で、まあまあ大事というところは青で、自分で考えたり、思いついたりしたところは緑でメモします。実はこの緑が非常に大切です。私の話によって触発されて思いついたことや、これを質問したいということ、自分ではこう思うといった考えを緑でどんどん書き入れていきます。すると私の場合は、ノートが半分くらい緑になっています。
普通、メモといえば相手の話を記録することだと思いがちですが、それでは聞き上手、話し上手になれません。緑の部分がうまく書けることが重要です。その中から一番いいものを、相手に質問したり、意見を述べたりする。それが質問力、コメント力になるわけです。たまたま思いついたことだけを、場当たり的に質問したり、コメントしたりすると、当たり外れがあります。しかし、たくさんメモをした中から厳選して選ぶと、精鋭部隊の質問やコメントになるので、非常に質の高いものが出せるのです。
実際に話してみる
読者のみなさんは、ここまで読んできた内容を、2分間で要約して話してください。本当は家族か、友人か、近くにいる誰かに話すのがいちばんいいのですが、本を読んでいる状況で、それが難しければ、ペットでも、ぬいぐるみでも、鏡の中の自分でもかまいません。とにかく声に出して発表するのです。それが話す訓練になります。
ちなみに私は、テープレコーダーに吹き込むことをよくやりました。しかもテープに「なになにがテン、なになにがマル」と句読点まで言うのです。すると、きちんとした文章で話す訓練ができるようになります。
普通、私たちが話しているときは、主語と述語がねじれていたり、おかしな日本語を使っていたりすることがよくあります。それらを防ぐために、自分の話をテープで吹き込み、聞いてみる。すると、これはまったく日本語になっていないな、ということが自覚できます。みなさんも一度やってみる価値があるのではないでしょうか。少々恥ずかしい経験ですが、自分の話がいかに支離滅裂がわかると思います。
内容を再生してみる
この再生方式は、日常のあらゆる場面で使えます。たとえば子供にアニメ番組を見せるとき、あらすじを言うことを必ずセットにする。あるいは大人でも映画を見たら、その映画のストーリーを誰かに話してみる。テレビや雑誌、新聞を見たら、必ず要約して、ポイントを3つくらいに絞って話す習慣をつけておくと、話がまとまります。これを日常生活の中で繰り返していくと、その人の話のネタがどんどん増え、面白い話を上手に話すことができるようになるのです。
質問力をつける
質問の質によって、その人の理解力や話に対する積極性を計ることができます。いい質問をすると、相手の人もどんどん話がしたくなる。これも話し上手、聞き上手になる技のひとつです。ですから質問について、常に意識的になることが、単なる聞いている状態から脱するための方法です。
話を聞きながら、いつも質問をメモする習慣をつけると、質問力は上達します。質問事項をメモする人は少ないので、ぜひみなさんに実践してもらいたいことです。
ネタ帳を作る
まず1ページに1つ、上のスペースにテーマを書きます。そしてそのテーマに関するキーワード、つまりポイントを書いていきます。さらにそれぞれのキーワードについて何が面白いのか、何がすごいのか、簡単なメモにしてさらに書き留めておきます。それを見ながら話す練習をすると、話し方が上達します。
もちろん文章でしっかり書いておくにこしたことはありませんが、時間がないときはポイントを3つだけ絞り込んで書いておくだけでもかまいません。少なくともそこだけは記憶できるので、小ネタくらいにはなります。そんな風にノートを作って、ネタ帳を殖やしていくと、含有率のある話ができるようになるのです。
自分の経験と結びつける
私は授業で再生方式をやるときに、単に要約するだけでなく、「自分の経験と関わる部分を1つ交えて話してください」と言うことがあります。たとえば私の話を2分で要約して発表してもらうときに、「自分のエピソードを1つ入れて話してください」という指示を出します。すると私の話だけではなくて、その人自身の話が加わって、2つの文章が絡まり合う。それを、私の話の要約ではなく、あたかもその人自身が考えたことのように相手の人に話してもらいます。すると、自分のエピソードとセットになっているので、話しやすいのでしょう。まるでその人が考えたオリジナルの考えのように伝わってきます。自分の経験(3色ボールペン方式で言うと、緑の部分になります)を入れるだけで、人の話を自分の話に変換できる。これが、聞いた話を上手に自分のものにしていくコツです。
身体をほぐす
人間は疲れてくると、酸素が欠乏します。そこで体操をして息を入れ替える。すると仕切りなおしができます。また肩胛骨の体操は、苦手な相手と話をするときに役立ちます。肩胛骨を回して身体をほぐした状態で臨むと、不思議と「まあいいか」という感じになり、相手に対して寛容な気持ちで接することができます。スポーツをするとき、軽くウォーミングアップをしますね。それと同じです。会話をスポーツと考えると、肩胛骨や首の辺りを柔らかくすることで、会話のスポーツ感をより楽しめるようになるのです。
偏愛マップの効用
話し上手、聞き上手になるための最も確実な方法は、相手の好きなものについて話をすることです。相手が何を好きなのかをキャッチすれば、その後の話の展開が非常に楽です。好きなものについて話し合っているときは、互いに相手をいい人だと思っています。誰だって、自分が好きなものを好きだ、と言っている相手を嫌いになるわけはありません。
故人の偏愛マップを作ってみたら
当人たちには大変失礼な話ですが、私がその人たちの本を読み、たぶん、この人たちが生きていたらこんなものが好きだっただろうな、という偏愛マップを作ったのです。それは面白い体験でした。その人の考え方や思想、人間性など内面を追求せずとも、好きなものをマップにするだけで、彼らの世界がわかる。むしろ内面を掘り下げて、その人の本質を探ろうとすると、かえってタマネギの皮をむくように何もなくなったり、迷宮に迷い込んでしまうことがあります。しかしその人が好きなワールドをマップにすると、たとえば寺山修司なら、競馬が好きで、ボクシングが好きで、演劇が好きで、覗きが好きで、ストリップが好き……といろいろ集まり、「これが寺山修司ワールドだ!」ということになります。好きなものを見ただけで、誰のマップかわかるかわけです。
さわりは知っておく
つまり、一応のことを知っていることによって、より聞き上手になれるわけです。何も知識がなくて聞き上手ということはあり得ません。まったく何も知らずに、「はあ、そうですか。何も知らないのでお願いします」という人に向かって丹念に教えられる人がいるでしょうか?それができるのはよほどの暇人か、天性の教師だけです。
次につなげる
そして実際に次に会ったときに、それを記憶しておくことが聞き上手になるテクニックです。たとえば、ある人に映画を勧められたとします。「実際にあの映画を見てみたんですが、よかったですよ」と1年後ぐらいに言ってみせる。すると相手は大いに感動します。何しろあれから1年もたっているのです。それなのに、そのときのことを覚えていてくれた。それだけでも感動ものなのに、その映画を見た感想が1年後に報告されるなどというのは、なかなかダイナミックで忘れられない出来事になります。
本を読む
そして本をたくさん読んでいる人は日本語が上達して、「話す」「聞く」のレベルがアップします。実は話し上手、聞き上手の基礎訓練の中に、「書き言葉で話せる」ということがあります。テープ起こしのところでも少しふれましたが、きちんとした日本語の文章で話すことのできる人が、話し上手な人です。正しい日本語は、本を読むことによって相当鍛えられます。たとえ、話し言葉のように書かれている本だとしても、そもそも本は緊密な構成になっていて、日本語として崩れがないようにできています。ですから本を読めば読むほど、ただし日本語が話せるようになるのです。
締めの言葉は決めておく
プレゼンテーションでも、いちばん最後の一文だけをまず考えておくのがコツです。最後の締めの言葉だけはちゃんと決めておいて、それをメモっておきます。そしてプレゼンの最後に、「いろいろと話してきましたが、以上をひと言で言いますと○○です」という感じでピシッと決めると、聴衆も拍手がしやすい。人が拍手しやすいような話し方をするのがコツです。
モードチェンジ
この“演技する身体”が、日常生活でも非常に重要になってきます。他人に対して過剰に演技しろということではなく、「○○として」今はこの人とつき合っている、という状態が大切なのです。たとえば自分は部下としてこの人と話しているとか、友達として話しているとか、初対面の人と話しているといった役割の違いで身体をギアチェンジしていく。そのモードチェンジする身体を、演劇は的確に教えてくれるのです。
質問力が試される
「質問力」というのは、元来私の造語ですが、(『質問力』ちくま文庫)、そのねらいは、日本社会において軽視されている質問の重要性を、もっと認識してもらおうということです。質問をしているときの態度や、面接を受けるときの簡潔な受け答えで、その人がどれくらい不各質問を理解しているか、あるいは本質をついた質問をしているかがわかります。
言葉を受け取める
読書をしているときでも、著者が自分1人に語ってくれているのだ、と思って読むと効果的です。言葉が響いてきて、心に刻み込まれます。そして心の習慣、生活の習慣を変えるようなひと言に出会う。それが本当の聞き上手です。いつでも柔らかい心を持って臨み、人の言葉に影響を受けるのも、聞き上手になる大切な技だと思います。
「大事な言葉ノート」を1冊作って、自分の心の琴線にふれた言葉を書きためていくのもいい方法です。集めた言葉から「自分の心の中の琴線がどういうものなのか」を、逆に知ることもできます。
アイデンティティについて
私がなぜこれほど『マクベス』にこだわるのかというと、そもそもコミュニケーションは、上手に演技できるオープンな身体を作ったほうがうまくいくからです。素のままの自分、本当の自分を理解してもらいたいと思っていると、かえって苦しくなる。自分は本当の自分を出すことができない、あるいは他人は本当の自分を理解してくれない、と思い悩むようになり、かえって人との間に溝を作ってしまいます。
それは自分というものを、1本のものとして考えているからです。自己は、もっとしなやかな束が何十本もより合わさってできている、と考えてはどうでしょうか?ちょうど綱引きの綱のイメージです。私は綱引きの綱を切ったことがあるのですが、これがもうとてつもなく大変な作業でした。何本もの綱が寄り合わされてできていて、それを分解していくと、さらにまた1本1本が何本もの綱で寄り合わされてできています。さすがに何十年も引っ張り続けても、切れないわけです。こういう感じが自己の作り方としてはいいと思うのです。何本もあって、その中のどれか1本だけが本当の自分、というのではない。1本1本は強くありませんが、合わさることで強くなるのです。
これはアイデンティティとも関わることです。みなさんは「アイデンティティ」という言葉を聞いても、何のことだかピンとこないと思います。意味としては、自分の存在証明ということになりますが、それではピンときません。自己同一性などと直訳すると、いよいよわからない。簡単に言ってしまうと、「自分は○○である」というのがアイデンティティです。たとえば、「自分は秋田県出身である」といえば、それがアイデンティティですし、「長女である」といえばそれがアイデンティティです。血液型にこだわりたい人は、「自分はO型である」とか言ってもいいですし、自分はさそり座であるとか、阪神ファンであるというのもアイデンティティになります。ある学校に入学して、「○○高校、○○部員です」と言えば、それもアイデンティティになる。
つまり自分が心の張りを持って、「自分はこれです」と言えるものがアイデンティティだと思います。そういうものがいくつも絡まって、1人の人物を作っています。そして人は、経験を積み重ねることによって、アイデンティティが増えていくものです。
(中略)
私は時々学生たちに、自分のアイデンティティを思い返してシートに書かせています。「自分は○○である、の○○のところを思い出せるだけ書いてみましょう」と言って書かせる。そしてそれぞれについて、エピソードを1、2個考えてもらいます。たとえば秋田県出身だったら、その秋田にまつわる話を書いてもらいます。そうやって思い返していくことで、「自分は○○である」という誇りを持てるものをいくつも見つけていきます。人間はやはり自分に誇りを持つことが大事です。それがたった1つしかないと、その1つを否定されたときに自殺することがあります。たとえば「自分は作家である」とだけ思い込んでいると、作家としての才能がなくなったとき、死を選んでしまう。しかし、本当は作家も大切だけれど、他にいろんなアイデンティティがあり得たわけです。アイデンティティはシンプルにすると強くなりますが、ポッキリ折れてしまう可能性もあるということを覚えておいてください。
メモする習慣
何を学んだかをはっきり言葉にすることで、意識に残ります。自分のノートや手帳に「ここで学んだこと」メモする習慣をつけると、次のステップが違ってきます。
人の会話を聞いてみる
例えば、喫茶店やファミレスを「話し上手、聞き上手」の道場にする。友達と夜通ししゃべり合うのも1つ。でも、それだけじゃありません。近くの席の人たちの会話を聞いて、勉強するんです。「話し方がモタモタしてるなあ」「あ〜とか、はあとか相づちが下手だな」「敬語が乱れてる」「うまく話を偏愛の方に持って行ってふくらめてる」「人におすすめするのがうまい」「すごさを伝えるのが上手」といったように、人の会話をテキストに、会話のコツを把握すればいい。その場が、メタ・ディスカッション(注・ディスカッションを上から眺める視点で観察する)の空間になります。