決断力 (角川oneテーマ21) 羽生 善治 角川書店 2005-07 価格 ¥ 720 by G-Tools |
もともと私は将棋はまったくわからない*2。昔から何となく羽生さんは好きだが、それは頭がよさそうとかすごい人オーラが出ている、といったたわいもない理由からだ。将棋では時々1時間以上考え込む「長考」というものがあるが、あれは何を考えているんだろうとか、有力棋士の頭はコンピュータのようなものだとよく言われるがどういう意味なんだろう、といった素朴な疑問がこの本でかなり解決された。また、もちろん全編通して将棋の話なのだが、ビジネスや他のことにも使えるヒントがたくさんあった。頭の使い方を教えてくれる本と言ってもいいと思う。なかなか面白く読めた。
特に面白いな、と思ったのは持ち時間*3がなくなった終盤、ごくわずかな時間で次の指し手を決めなければならない時の話。たとえばその時ふたつ、AとBという手を考える。どちらもあまりよくないと判断した場合どちらかましな方を選ぶのではなく、どちらでもないCという手を指すことがあるそうだ。AとBの可能性は考えてよくないと判断したので、思い切って別の手を使うのだという。今までそういう発想はしたことがなかったが、冷静に考えればせっかく時間をかけて「AB共に使えない」と判断したのだから、どちらでもない手を使った方がまだ可能性は残るということがよくわかる。
他にも「決断とリスクはワンセットである」「直感の7割は正しい」「集中するために前後に空白の時間を作る」など、興味をそそられるテーマがいろいろある。学者や専門家の書いた理論的な本もいいが、最前線で活躍されている人の本はやはりためになる。
羽生さんは文章を書くプロではないし、天才ならではの文章なので慣れるまで少し読みづらいかもしれないが、得られるものは多いと思う。ちょっとでも将棋に興味のある方はぜひ。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
「キス・アプローチ」でやれ
KISSというのは“Keep it simple, stupid”の頭文字である。軍隊用語から来た俗語で、軍曹が部下に「もっと簡単にやれ、バカモン」という感じだという。これはエンジニアリングの基本的な考え方で、コンピュータの能力が低い時代は、よいアイデアでもコンピュータの解ける範囲に、無理に押し込めなければならなかった。
「(コンピュータの進歩した)このごろはむしろ、問題を、定義されたままに解いた方がいいのです。当然ながら鮮やかにかつ正しく解けますから、かえって実現も意外とやさしい」と、だから学生にはごちゃごちゃ考えないで「キスで行け」と言うのだという(※これはカーネギー・メロン大学の金出武雄先生のお話です)。
パソコンの使い方
いずれにしてもパソコンを私は予備データとしてしか使っていない。パソコンは、ここから先はこんな手がある、とは教えてくれない。何事であれ、最終的には自力で考える覚悟がないと、情報の山に埋もれるだけである。パソコンで勉強したからといって、将棋が強くなるとはいえないのだ。
情報は「選ぶ」より「いかに捨てるか」が重要
私はパソコンで知った情報は、「その形にどれぐらいの深さがあるか」で、研究するか、しないかを決める。「これは半年もすれば通用しなくなるな」と思えば、それまで。「これは掘り下げる余地がありそうだ」と感じられれば、将棋盤に実際に駒を並べて分析、研究を進めていく。そこの判断基準は勘であり、直感だ。
つまり、情報をいくら分析、整理しても、どこが問題かをしっかりとらえないと正しく分析できない。さらにいうなら、山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには、「選ぶ」より「いかに捨てるか」の方が重要なのである。