毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

奇跡の銅メダルをもたらしたのは☆☆☆

4087813908夏から夏へ
佐藤 多佳子
集英社 2008-07
価格 ¥ 1,575

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著者の佐藤多佳子さんは作家だ。「一瞬の風になれ」という長編小説で2007年の本屋大賞を受賞しているのでご存じの方も多いと思う。この本は、「作家の書いたドキュメンタリー」という異色の作品だ。
「一瞬の風になれ」は高校の陸上部を舞台にした作品で、実際に何年も取材をして書いたのだそうだ。そしてその後、著者の興味はさらに大きな舞台へと向かう。この本は、4×100メートルリレー日本代表・男子について書かれたドキュメンタリーである。

男子の4×100メートルリレー。それは、北京オリンピックで銅メダルを獲得した、全体に低調だった日本勢を最後にきっちり締めてくれたあの素晴らしいレースだ。この本は今年の7月、オリンピック直前に出ているので、これを読んであの決勝を見た人はレースが何倍にも楽しめただろうと思う。もちろん、終わったあとに読んでも楽しめる。個人的には佐藤さんの書く文章が「一瞬の風になれ」*1で好きになったので、あの文章でドキュメンタリーが読めることに心底ワクワクした。

これを読むと、レースの時にテレビで見るだけではわからないいろんなことを教えてくれる。なぜ日本はバトンパスのミスが少ないのか。なぜこれは「日本短距離界の伝統が勝ち取ったメダル」と言われるのか。4選手の歩んできた歴史、陸上への取り組み方や考え方がひとりひとり違うのも面白い。

たとえば、バトンパスは生き物のように日々変わるのだそうだ。どのタイミングで受け渡しをするのか、毎回バトンゾーンを歩いて何歩目、と数えて決めているが、その日の調子で微妙に変えたりと本当に細やかに準備をする。「100メートルのタイムが早い選手が4人集まってもリレーは早く走れない」*2といい、だから日本の選手はバトン練習を長年きっちりやってきたのだそうだ。
ほかにも、性格や走りの傾向から走順も決まってくるというのも面白い。コーナーワークが苦手とか、バトンパスの相性も考えるのだそうだ。中でもつい笑ってしまったのが「朝原選手はバトンを受け取れるが渡せない」という監督の言葉。ずっとアンカーを走っていたのはそういうこともあるらしい。


北京を最後に引退した朝原選手を他の3選手がどれだけ慕っているか、この本を読めばよくわかる。朝原選手の長年トップであり続ける重圧や、自分の先を行く選手がいないために常に自分で考えて進むしかない孤独は胸を打たれた。為末大選手に興味を持ったことから*3朝原選手も注目していたのだが、だからリレーは選手がまとまって銅メダルという結果に結びついたのだな、と改めて感じた。


そしてもうひとつ、レースを見るだけでは絶対にわからないこと。それはリザーブ、いわゆる補欠選手の存在だ。小島茂之選手は去年の世界陸上北京オリンピックのどちらもリザーブとして同行し、出場はしなかった。バトンパスなどの関係で、メンバーは緊急事態が起きない限り変わらない。それでも、レース直前のウォーミングアップでケガをすることもあるので、本当に最後の最後まで自分が出るつもりで一緒にアップするのだそうだ。そして極限まで自分を高めながら、最後には4人を送り出す。誰にでもできることではないだろう。栄光の陰にはたくさんの人の支えがあるのだ。


陸上じゃなくても、少しでもスポーツを見ることが好きならきっと楽しめる1冊。著者自身がワクワクしながら書いているのがそのまま伝わってきて、読んだあとはとてもすがすがしい気持ちになります。

*1:全3冊のうちまだ1冊目しか読んでいません。図書館の順番待ち…

*2:そういうチームはバトン練習をほとんどしないため、北京オリンピックのように失格になることが多いらしい

*3:大阪ガスの先輩後輩で、為末選手がプロに転向したあとも仲がいいそうです