著者・篠原菊紀さんは諏訪東京理科大学教授で、専門は「脳・人システム」。テレビのコメントなどによく登場されているので、ご存じの方も多いと思う。
この本では「脳科学」と「臨床心理学」を合体させ、脳のメカニズムからいかに勉強にハマれるようにするかを教えてくれる。ありそうでなかった本だと思う。
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といっても、むずかしい本ではない。「ゴールを決める」「ひとまとまりにすると覚えやすい」「忘却曲線」などの、今までどこかで聞いたことがあるようなコツを、脳のしくみから解説してあるので、とても納得できるのだ。
たとえば、何かにハマる時、脳の中では何が起きているのか。著者はパチンコ依存症の人の脳を調べたことがあり、その経験からこう書いている。
特にドーパミン系は差に対して反応しますから、ベースラインが沈静化してくれれば、その分、快感がより強く感じられ、印象づけられていくのです。
つまり、単に「ドキドキしている」「わくわくする」と感じるだけではなく、それをしていると「ほっとする」「落ち着く」「それがないと変な感じがする」。沈静化の状態をいかに実現するかが、「ハマる」上で重要なのです。(P82)
ドキドキ・ワクワクの興奮状態だけが大事なのではないことがわかる。
また、脳科学的に見れば「3日坊主」は当たり前なのだそうだ。初めてのことにはドーパミンが出るが、慣れてくると徐々にその量は減ってくる。
「よしやるぞ」、と問題集をスタートさせても、3日目、もしくは、3回目には、どうやっても初回の「やる気」はうせてしまうわけです。
「人は3日坊主」。やる気や集中力の維持を考える上では、これが基本です。(P88)
だから、仕切り直してまた始めることが大切なのだ。
そして、脳は感情で動き、感情が動くことでより記憶されやすいという。
「試験勉強のため」よりは、「世のため」「人のため」という意識で学ぶ方が、集中力も、記憶力も高まります。(P198)
やみくもにやるのではなく、脳のしくみや心の動きを味方につけて、効率よく勉強するためにいい本だと思う。受験だけではなく、資格試験を控えている人にもお勧めです。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
「依存」を避けつつ、うまく「ハマる」にはどうすればいいでしょうか?(P53)
そのためのポイントは、日常生活の満足感です。日常生活の中に、きちんと快感や満足感を見出しておくことが重要になります。
定番動作で脳をハメる(P70)
線条体は、たとえば自転車が乗れるようになった時、跳び箱ができるようになった時などに、その無意識的な運動プログラムが蓄えられる場所です。卵をそっと割れないようにつかむ、そういう微細なコントロールにも関わります。
この線条体で、無意識的な行動と「快感」が結びつけられる。これこそが、「やる気」の正体です。実際、簡単なゲーム時の「やる気の度合い」と「線条体の活動」が相関するという報告もあります。
何となくそうするのが「いい感じ」。
よくわからないが、そうしようと思う。
無意識的な行動と快感の結びつきこそ、「やる気」なのです!
その回路が、線条体を中心とするシステムです。
ハマることで癒される(P76)
週20時間以上パチンコをするパチンカーは、そうでないパチンカーよりも多くのエンドルフィンやドーパミンが出ていました。大当たり時のエンドルフィンでは約2倍。大当たり後、30分でのドーパミンでは約3倍でした。
(中略)
ひんぱんにパチンコ屋さんに通っている常連さんは、確かに「大当たりで興奮」していますが、実はその反面「ほっとしている」のです。「なごんでいたり、癒されたりしている」のです。
だからこそ、パチンコにハマって常連さんはになっているのです。興奮だけでは長続きしません。
暗示テクニックのコツ(P107)
暗示語を使う場合、ポイントになるのは、「そうなろうとしないこと」です。
たとえば自律訓練法では、腕を重くしようとか、手のひらを温かくしようとか、意識的にそうしようとするとうまくいきません。
ただ頭に言葉を浮かべ、ただ繰り返します。その受動性が暗示の成功率を高めるのです。
頭を使う方が記憶は定着しやすい?(P129)
「美しいノート」での脳活動の特徴のひとつは、ブローカ野からそのやや上にかけての、前頭前野外側部の活動の強さです。ここがワーキングメモリを担う部位です。
もうひとつの特徴は、頭頂連合野が活動することです。ここは空間的な位置関係の把握や出力に関わります。また受動的な注意や、ワーキングメモリの処理にも関わるところです。
つまり、「美しいノート」をとる時には、先生の話や板書の内容を心の中で繰り返しつつ、ノート上でわかりやすい空間配置になるようにバランスを考えているのだろうと思われます。
そしてそのことが、ただ漠然とノートをとったり、PCでノートをとる以上に、前頭葉外側部を使うことになります。ワーキングメモリで「深い」処理が実行されることになります。
わかりやすく表現すること。
わかりやすく表現しようとすること。
そう考えながら頭を使うこと。(P130)
いずれにしても、「目」と「音」で覚えようとすることは、ワーキングメモリをうまく使うことになります。それが動画になればなおうまい。(P139)
3割忘れるときがチャンス!(P148)
記憶力がいい人は、3〜4割記憶が失われるタイミングで記憶し直すのです。しかも、できるだけ簡単におさらいできる工夫をしています。
おさらいを重視するためには、おさらいに時間をかけない工夫が必要です。そのためには、おさらいの時、さっと見るだけでおさらいできるように、覚えたいことをわかりやすい形でまとめておく。
記憶しやすい形を作るのには時間を割きましょう。
記憶とは、情報そのものを覚えることではありません。情報にまとまりを作り、他の情報とつながりを持たせることなのです。
遠回りのようでも、ちゃんと理解することが効果的な記憶を促進します。(P151)
何かを覚えたら、目をつぶってリコールする。これはワーキングメモリの刺激にもなります。(P163)
林成之教授がオリンピック水泳チームにレクチャーした“勝負脳の作り方”(P166)
- ライバルに勝とうとするのではなく、自己記録の更新にこだわる
- 常に、自己ベストの3割増の力を出そうとする
- 疲れた、大変だというような否定的な言葉を使わない
- 調子のいい時は休まず、アグレッシブにやり続ける
- 最後まで「勝った」と思わない
- プールと自分が一体化するイメージを持ち、自分の世界を作る
その道のプロたるには、どんな些細な課題に対しても前頭葉を活性化させ続けて、前頭葉以外の脳の処理力をさらにレベルアップしようとし続けることが必要なようです。
慣れてしまう事柄もルーティン化させない。なお気持ちを込めて、脳を活性化させることが、一歩先行くための必須条件のようです。(P172)
慣れてくるとパフォーマンスが向上してきます。それは同時に、前頭葉を活性化させなくてもよくなること、気合いを入れなくてもいいようになることを意味します。
そうなってきた時に、今以上に気持ちを込める、前頭葉を活性化させる、ひとムチ入れる、さらに厳しい課題を自分に課す。
それが、自己限界を超えていくコツです。
この時の敵は他者ではありません。自分です。(P176)
勉強を始める前に、これからどれだけの時間、勉強するかを決めましょう。
それから、どこまで勉強するかを決めましょう。
そこまでできたら、自分をほめましょう。
可能なら、ほめてくれる人を用意しましょう。(P186)
勉強では60分をひとまとまりとする(P191)
60分で何かをする時、
- はじめの15分で、この60分で何を学習するのかその全体像を見通します。
- 次の15分で、記憶が必要なら記憶項目を記憶しやすい形で書き出します。
- 次の15分で記憶、理解します。
- 次の15分で理解を確かめます。
起承転結。15分の4セットで60分の勉強を考えます。