楽天大学・学長の仲山進也さんの本。“楽天大学”という言葉を初めて聞いたが、楽天市場に出店した人が売上げを伸ばし、店を成長させるための教育機関だそうだ。
そして、ただ売上げを伸ばすだけではなく、出店者の成長をサポート・応援するのも仕事。
学長の仕事を通して経営者の成長を見続けてきた著者によれば、成長には4つのステージがあるそうだ。そして、どのタイミングでどうすれば次のステージに行けるのか、この本には著者の経験がぎっしり詰まっている。
一番説得力があったのは、これからの時代に自力で生きていける人を育てるために何をすればいいか。
新米漁師に何を教えるか、というたとえ話が出ている。
「『釣り方を編み出せるようになるため』の魚の観察のしかたを教えること」です(P214)。
これからの時代は、やり方を教えてもそれがいつまでも有効とは限らない。そんな時に役に立つのは、自分で試行錯誤して実力を身につけるために必要な、観察する視点・視座。なので、そこを教えるのがいいそうだ。
それは、著者が楽天で「前年のやり方」がまったく使いものにならない状況で得たものだ。ついつい私たちは経験から何かを導き出そうとするが、これから必要なものはそこからは得られないのだ。
視点・視座という言葉がくり返し登場することでもわかるように、ビジネスの考え方、ものの見方を教えてくれる。先日読んだ渋井真帆さんの『何をやってもダメだった私が、教わったこと。気づいたこと。実行したこと。』とも通じることがたくさんあって、復習になった。
ネットショップやインターネットビジネスに関わる人だけではなく、すべてのビジネスパーソンに役に立つ本。この本を読んで、著者が言うところの「夢中な自走人」*1を目指しましょう。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
夢中な自走人 4つの成長ステージ(P7)
ステージ1:価値伝達――今ある価値をうまく伝えることで伸びるステージ
ステージ2:価値創造――新たな価値を作り出すことで伸びるステージ
ステージ3:チーム化――チームが強くなることで伸びるステージ
ステージ4:志・理念――時代の潮流を見据えつつ志を練ることで伸びるステージ
成長できる人とは、ちょっと高みからものごとを見ている(P49)
まわりがよく見えているからこそ、目の前のやるべきことに、落ち着いて、集中して取り組むことができる。
コストはお金だけではない(5大コスト)(P87)
1.お金(経済的コスト)
2.時間(時間的コスト)
3.労力・手間(肉体的コスト)
4.考えること(頭脳的コスト)
5.気を遣うこと(精神的コスト)
コストを5つの視点で考えることができるようになると、価格を下げる以外にもお客さんにとってのコストを下げる方法が思いつくようになり、「安売りだけが策じゃないな」ということが見えてくるようになります。つまり、安売りに依存しなくてすむようになるのです。
楽しさの5要素(P94)
1.カラダが喜ぶ(SENSE)→五感
2.ココロが喜ぶ(FEEL)→感動、安らぎ、心地よさ
3.アタマが喜ぶ(THINK)→ワクワクイメージ、アイデア発想
4.ステキな生き方(ACT)→夢中、体験、ライフスタイル
5.人とのつながり(RELATE)→共感、信用、信頼
知識を提供するよりも、「まず相手のアンテナ感度吸収力を高めてあげること」の方が重要(P110)。
自分の存在が社会に大きく役立つと思えた瞬間(P144)
人間にはものすごいエネルギーが湧いてきます。自走のためのエンジンの馬力が上がり、ガソリンも満タンになるのです。
価値を創造する力は(P145)
・自分の規格や商品を使った相手が
・どんなストーリー展開で
・どんな風にハッピーになるのか
という「つながりストーリー(因果関係)」を作る力に比例するのです。
「1.1」の視点(P176)
まず、「ふつうの状態」を「1.0」とします。
ちょっとネガティブな、ちょっとテンションが低い、ちょっとアンテナ感度が低い状態を「0.9」。
ちょっとポジティブな、ちょっとテンションが高い、ちょっとアンテナ感度が高い状態を「1.1」と考えてみましょう。
その状態の積み重ねが人生だとすると……
0.9×0.9×0.9×……(0.9の人生)
1.1×1.1×1.1×……(1.1の人生)
と表せます。
「0.9」は30乗すると「0.04」になるのに対して、「1.1」は30乗すると「17」にもなります。100乗なんてしちゃった暁には、「0.00003」と「13781」です。ものすごい差!
「1.1」の意味(P179)
「1.1であり続ける」といっても、「0.9になってはいけない」という意味ではありません。
誰でもヘコむ時はあります。ですので、「0.9にならないことが大事」なのではなく、「0.9になった時に、すぐ1.1に自分を修正できるスキルがあるかどうか」が大事になるのです。
マジックワード「それはちょうどいい!」
ピンチの時にまず「それはちょうどいい!」と口に出して言ってみる。
「それはちょうどいい!」に続いて出てくる言葉は、
・起こった問題を受け入れた上で、
・マイナスをゼロに戻すのではなく、
・プラスに持って行くにはどうしたよいか
を考えるような内容になる。このマジックワードを使うことで、あら不思議、ピンチをチャンスに変えるフレーズが自然と続いて出てくるようになるのです。
(中略)
ポイントは、
・深く考えないで、思いついたモノをそのまま答える
・起こった問題を解決するのではなく、発想を転換する
・楽しむ(プラスになるようにする)
「それはちょうどいい!」が無意識にできるようになると、ピンチのたびに成長できてしまうようになります。
「1.1」を考える時の最重要キーワード(P195)
それは「自己重要感」です。
「自分の存在が重要である(意味がある)と感じられていること」をいいます。「自己重要感を感じている状態」が「1.1」で、「自己重要感が失われている状態」が「0.9」といってもよいでしょう。「モチベーションコントロール」と「エンパワーメントコミュニケーション」の両方についてベースとなるのが、この「自己重要感」です。
「教わる」のではなく「つかむ」(P217)
何かをマスターしようと思った時は、「教わる」のではなく「つかむ」ことです。教わったものは他人のもの、つかんだものは自分のものなのです。
感動というのは、「期待値を超えた時」に生まれる感情です(P249)。
感動してもらうには、「100%を1ミリでも超える」ことが必要(P251)
感動というのは、「実感値」が「期待値」を超えた時に生まれる感情です。実感値と期待値のギャップの大きさが、感動の大きさになります。
ここを踏まえつつ、「期待値を超えやすい状況を作る工夫」をするのが自走人の腕の見せどころです。
そのためのキーワードは
1.期待値をコントロールすること(低く抑える/ムダに上げない)
2.相手が期待していない部分(ゼロポイント)で上回ること
「感動」というのはそんな大げさなものである必要はない(P257)
相手が期待していない部分でちょっとした心遣いをしてあげること、つまりアクナレッジメントをしてあげることが、お客さんの心に「あぁ、このお店は私のことを思ってくれているんだな」という小さな感動を生み出すのです。その積み重ねが大きな信頼につながっていきます。
期待値コントロールにしても、ゼロポイントにしても、相手の期待値がどこにあるのかがわかっていることが大前提になります。
大切なのは、「相手を意のままにコントロールして感動させよう」ということではなく、お客さんに興味を持って観察し、その視点・視座を知ることです。
お客点の視点・視座を理解してしまえば、「相手が欲しいと気づいてないけど、手にしたらうれしいもの」を提案・提供してあげられるようになります。
*1:著者の定義は「変化の激しい時代に成長できる人」。「自立」ではなく「自走」なのは、行動力やスピード感を表現するため、もうひとつは依存型の人が寄りかかれず、一緒に走るしかなくなるからだそうです