毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

“走るパイオニア”の自伝☆☆☆

金哲彦さんと言えば、マラソンや駅伝中継の時の解説でおなじみ。穏やかな口調で、声も素敵なのでいつも楽しみにしている。市民ランナー指導の第一人者で、ランニングに関する本も多い。以前紹介した『体幹ランニング』も金さんの著書だ。

ただ、ご自身がどんなランナーだったのか、私はほとんど知らなかった。知っていたのは早稲田で箱根駅伝に4年連続出場した、ということくらいだ。
今年の初め、たまたま家族が買ってきたランニングの本で金さんが大腸ガンで手術をされていたことを知り、驚いた。この本にはその経緯も含めて金さんがどんな人生を送ってきたのかが包み隠さず書かれていて、思わず引き込まれた。


金さんは在日韓国人だが、大学を出るまでは通称名として木下姓を名乗っていたそうだ。在日であることが大きく金さんの人生を左右してきた。就職も、結婚も、優秀なランナーであれば、当然目指したいオリンピックも。当たり前のことなのだが、日本国籍がなければ日本代表にはなれないのだ。
当時の早稲田の監督が、韓国代表としてソウル五輪に出ることを画策したそうだが、さまざまな事情があって断念。そのことで気持ちの行き違いがあり、監督からは波紋を言い渡されたという。
あの爽やかな話し方からはまったく想像できない、「壮絶な」と言いたくなる人生だ。

とにかく金さんはガッツの人で、しゃにむにがんばって不可能を可能にしてきた人だ、と思った。希望していたスポーツ推薦が得られず、早稲田で走るためにがむしゃらに勉強して現役で合格した話。入学直後はタイムがずば抜けていたわけではないのに、気合いと根性で監督の目にとまり、1年の時から箱根駅伝で花形の山登り区間を走ることになった話。リクルートに入社してから、金さんの活躍によってランニングクラブ*1ができた話。
読んでいて感じたのは

僕の前に
道はない
僕の後ろに
道は出来る
高村光太郎 “道程”冒頭)

を地でいく人生だなあ、ということだ。


行く先々で結果的にパイオニアになってしまうのだ。ボルダーの高地合宿を日本で初めて取り入れたのも、日本初の市民ランニングクラブを立ち上げたのも金さんだ。その熱さ、がむしゃらさには頭が下がる。私はこんなに何かに本気で取り組んだことがあるだろうか、と反省した。

ランニングやマラソンのことと在日韓国人であること、そして大腸ガンのことが全部入っていて、時代も前後するので読みやすいとは言えないが、読むと前向きになれる本だと思う。

私はランニングのことはまったくわからないが、ランニングをする人にとって役に立つ情報もいろいろあると思う。また、大腸ガンの手術や術後のこと、抗ガン剤を断った経緯なども、参考になる人は多いはずだ。

*1:のちに小出監督を招聘し、有森裕子さんや高橋尚子さんらが入社します