著者は慶応大学名誉教授で、専門は言語社会学。長年日本語の国際普及に尽力してきた人だ。
「日本語教」とは刺激的だが、著者の目的は“日本以外にも日本語を使える人を増やす”こと。「自虐的歴史観」という言葉があるが、著者によれば日本人は日本語に対しても評価が不当に低いという。その誤解をひとつひとつていにいに解説している。
たとえば日本の文盲率の圧倒的な低さや、専門外の人でもむずかしい用語の意味がある程度推測できるなど、漢字の用法を独自に進化させた日本語ならではのすばらしい点がたくさんあるそうだ。
読み終わる頃には日本語に対する自信や誇りのようなものまで芽生えてくる。
私がこの本の魅力として感じたのは次の3つ。
1.「言語学」のフィールドを越えた面白さ
「言語社会学」と書いてあるだけあって、一般的な言葉の専門家が書いた本よりテーマが広い。虹は何色かとか、「オレンジ色」という言葉が表す色の範囲など、比較文化論を読むようで発見がある。また、「日本語がいかに優れた言語か」という冒頭の主張も日本人なら納得できると思う。
2.文章がみずみずしい
プロフィールによれば、著者は大正15年生まれ。かなりのご高齢だ。学者でお年を召した方といえば、文章も固く、内容も頑固なイメージを持つが、びっくりするくらい柔軟で読みやすい(内容によっては、少しむずかしく感じる部分もありますが)。こういうテーマが好きな私はするするっと読めた。
3.日本語に対する深い愛情
著者の年齢であれば、明治時代の「日本語廃止論」はともかく、第二次世界大戦敗戦後にGHQによって日本語を低く扱われたことは、生々しい体験だったと思われる。
こんな風に日本語のすばらしさを論理的に説き、日本語を広めるのが真の世界貢献につながると真剣に考えて活動する人がいるんだ、というのはとても心強く感じた。それもすべて日本語を愛すればこそだ。
使っている人数が世界で少ないからといって、卑下することはないのだ。もっと胸を張って日本語を使い、大事にしようと思った。
英語より日本語のすばらしい点を、ぜひこの本を読んで知ってください。