アスリートの本を「知的生産」カテゴリに入れたのは、たぶん初めてだと思う。でも、この本はトレーニングが、とかメンタルやイメージが、という内容ではない。もっと普遍的な何かを受け取れる本だ。
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“処世術”と言ってしまったら安っぽく聞こえるが、突出したパワーも、技術もない田口選手がメジャーで生き残るためにどう考え、どう行動したかがつぶさにわかる。そして、その経験がいろんな人の役に立つ。
自分は主役ではない、と潔く認め、彼が目指したのは「監督が使いやすい選手になる」。つまり、監督の頭の中を理解できる選手になることだった。カージナルスでのワールドシリーズ制覇はその努力の賜だ。
本当は誰だって主役でいたい。自分を大事に扱ってほしい。だが、その気持ちを殺して自分を活かす方法を考えるのだ。なかなかできることじゃないと思う。
最後の章は、そんな風に自分と向き合い続けた田口選手へのご褒美のようなできごとが書いてある。映画にできるんじゃないかと思った。大泣きしてしまった*1。
田口選手のブログが面白い、文章がうまい、というのはいろんなところでよく聞いていたが、読んでみてなるほどと思った。その意味でも、単なるアスリート本を超えている。読みものとしても充分楽しめる。
すべての野球ファンに、野球がわからなくてもたくさんの人に読んでもらいたい本。
自分を知り、活かすひとつの答がここにあります。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
勝ち負けは自分で決められる(P114)
運をコントロールすることはできません。
でも、運がよかったか悪かったかがわかるのは、いつだって結果論です。
ならば、運を引き寄せる努力をすることが大切なのではないでしょうか。僕らの仕事でいえば、あきらめないということ、逃げないということ、勝負するということ。
そして、勝ち負けは自分で決められるということ。
自分の価値観も大切にする(P116)
もしも自分なりの価値観を持つことができた上で、世間の価値観と向き合うのなら、その尺度は絶対的なものではなく、あくまでも参考程度の気楽さが生まれてくるように思うのです。
ローラー作戦(P117)
僕は自分のやり方*2を、グラウンドを地道に平坦にする作業になぞらえて、「ローラー作戦」と勝手に名づけています*3。点ではなく線で人生をとらえる時、この「ローラー作戦」は、確かな成果を結ぶような気がしてなりません。
頭は基本的にじゃまをする(P128)
ぼくが「無の境地」に興味を持ったのも、ある空手家の先生とお会いすることができたからなのです。先生の戦いにおける境地は、いたってシンプルなものでした。
「考えないことです」
つまり、無が一番だということ。
実際、自分の打撃で考えてみても、好調な時ほど、何も考えずに打席に立っているのです。打席にサッと入る。来た球を何も考えずにガッと振る。結果、ヒットになる。ところが、ひとたび調子が狂うと、体よりも先に頭で考えようとしてしまうんですね。
最悪の境地とは(P192)
周囲に誰ひとりとして自分の支えになってくれる人がいない状況を指すのではないでしょうか。そして、そこまで最悪の環境があるとするなら、それは自分自身の側にも問題があるのではないでしょうか。
自分研究をすると(P202)
自分のいいところ、悪いところをきちんと判断することによって、初めて見えてくるものもあります。相手に「これが俺だ!」と押しつけるのではなく、つきあいやすい人間であるように、プラスの部分をなるべくアピールして、マイナス部分は上手にカバーする。そんなことができるようになってはじめて、「らしい力」発揮することができるようになるのかもしれません。