毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

スポーツと脳の最新海外事情☆☆

著者はNHKのディレクターで、この本の元になっているのは『クローズアップ現代』の「勝負強さは“脳”が決め手」(2009年5月放送)のための取材だそうだ。番組の反響が大きかったのと、紹介しきれなかったエピソードがたくさんあるため、本になったという。


この取材を始めたきっかけはこのブログでも紹介した林成之先生の『<勝負脳>の鍛え方』だったそうで、第1章は北京オリンピックの競泳代表チームに対する講義など、すでによく知られている話をまとめたものだ。私はたまたまこの章に出てくる北島康介選手と平井伯昌コーチの本や篠原菊紀先生の本、福島大学陸上部の川本和久監督の本を読んでいたので復習がてら読めた。
ところが、ここから先がぐっと面白くなるのだ*1。話は日本だけにとどまらない。

海外でも脳を鍛えているという情報を得た著者は、アメリカに渡る。さらにバンクーバーオリンピックに向けた訓練を取材するためにカナダにも足を伸ばしている。ここでは、ほぼ理論だけの日本と違い、さまざまなソフトを使ってメンタルトレーニングをする例がいくつも出てくる。また、スポーツ選手だけではなく、ストレスの多いビジネスマンにまで、“どんな状況下でもリラックスして最高のパフォーマンスを行う”ための訓練は広がってきているのだという。

その方法を「ニューロフィードバックシステム」というそうだが、実はこれはてんかんなど、脳の治療のために始められたものなのだそうだ。現代医学で思うような成果が上がらない疾患(PTSDやADHDなど)を持つ患者が、実際に治療としてこの訓練を受けているという。スポーツにとどまらず、この方法の歴史まで触れられていて、とても興味深い。

最後の章では、なぜ海外に比べて日本はこの分野が著しく遅れているのか、そのことについて書かれている。日本ではまだまだ「根性論」が幅をきかせていて、資金面でもなかなかむずかしそうだ。とはいえ、メダルの数がなかなか増えない近年のオリンピック結果を見れば、やはり日本は遅れているのだろう。その差がメンタルトレーニングだけとは言わないが、大きな理由のひとつになっているように感じた。


多少マニアックな本だと思うが、脳波の周波数による分類や、メンタル面をいい状態に維持するためのポイントも出てくるので、本番で実力が発揮できない、と悩む人にはヒントになるかもしれない。個人的には補完・代替療法に分類されるニューロフィードバックシステムのおかれた環境や扱われ方が、私がやっている自然療法にとても近いので、その意味でも勉強になった。


以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。

ACミランの脳に関する秘密トレーニング(P54)

イタリアのプロサッカー・リーグ、セリエAに属しているACミランが、「マインド・ルーム」という部屋で秘密裏にトレーニングを行っているという。(アメリカの雑誌『GQ』記事から一部引用《2008年10月号》)
選手たちは、練習の後、マインド・ルームと呼ばれる部屋で、20分間の脳のトレーニングを受けている。彼らの目的はひとつ。極度のプレッシャーの中でも、落ち着いてプレーをすることだ。そのため選手たちは、過去の最悪のプレーの映像を見ながら、そんな逆境の中でも自分たちが最も落ち着いている時と同じ“脳波の状態”を作りだそうと試みているのだ。

集中するといっても、体の力を抜いた状態でリラックスをしていることが大事なのである。(P70)

“無思考”を作り出す(P97)

最高のパフォーマンスを実現するためには、意識をせずにパフォーマンスを行えるようにしなければならず、“無思考”の状態にあることが理想だという結果が出ている。
(中略)
無思考の状態に近づくためには「左脳でのアルファ波の活動(中略)を活性化させる。さらに、左側頭中央部で記録される12Hz活動(無思考を妨げる自問自答《Self-talk》)を抑制することが必要」であるとしている。

ピエール・ブシャンプ博士*2の研究成果(P98)

ある選手がゾーン*3に入っていると思われる状態、つまり、ピーク・パフォーマンスを実現していると思われる状態をみると、その選手は肉体的にも精神的にもリラックスをしていることがわかりました。

理想的な脳波は人によって違う(P99)

(ブシャンプ博士続き)
最近の研究では、北京オリンピックでの金メダリストの脳波を調べたところ、競技種目によって、最適な脳波の状態が違っていたというデータも出てています。これが意味するところは、個人によっても脳プロファイルは異なりますし、種目によっても*4違ってくるということです。

ゾーンに入るために大切なのはバランス(P100)

博士によると、ゾーンに入るために重要なのは、シータ波、アルファ1、2、そしてベータ1、2、3など、それぞれの脳波のバランスなのだという。
アルファ波の活動が低ければ、その選手はリラックスできていないことを示しているし、ベータ2や3の活動が高ければ、思考が働き過ぎてネガティブな自問自答をしているかもしれない。あるひとつの脳波が単に他より高ければよいというわけではなく、あくまでも、すべての脳波のバランスが重要なのだという。

ニューロフィードバックトレーニングを受けているビジネスマン、リチャード・マッテ氏のことば(P142)

今では、トレーニングでやったことを思い出しながら、ひとりでいる時もそれを再現できるようになりました。機械を使わなくても、単純にリラックスして、呼吸をして、心臓のリズムを一致させて、目を閉じて、アルファ波の状態に入れるようになったのです。
レーニングで学んだのは、こうしたモードに入る方法です。1時間半に1回、仕事の手を止めます。そして5分程度、脳をアルファ波の状態に戻し、呼吸をしてから仕事に戻るのですが、毎回、リフレッシュした気分になります。

ニューロフィードバックの世界的権威、エリック・ペパー博士のことば(P152)

まず、みなさんに知ってもらいたいのは、心と身体はつながっているということです。つまり、私たちの思考や感情がいかに身体に影響を与えているかに気づいてほしいのです。喜びや愛情から、悲しみや不安、怒りや嫉妬などの感情は、無意識のうちに、身体に大きな影響を与えています。これが、人々の間では、意外に理解されていません。近代西洋医学の考え方の基礎となっている、デカルトが主張した『心と身体は別々のものだ』という二元論に対して、バイオ/ニューロフィードバックは、心と身体は不可分だという立場を取っています。

ペパー博士が出した面白い宿題(P155)

それは、1日の中で「自分が呼吸を止めている」ことを、気づくたびに記録するというものだった。
「大事なのは、身体の生理的な信号に耳を傾けることです。私たちが生きていくために、一番大事な行為は呼吸です。ですので、まずは、日常生活の中で、自分がどんな時に呼吸を止めているのか観察することで、あなたたち自身で自分の呼吸パターンに気づいてほしいのです」
(中略)
しかし、博士は日常生活を送りながらも、どんな時に呼吸をしていないのか、また、どんな状況で呼吸が速く、もしくは遅くなるのかに気づくことができれば、呼吸を意識的に変化させることができるようになるという。そしてそれができれば、健康を促進する安静呼吸のトレーニングがしやすくなる。

*1:どこに面白さを感じるかは個人差があるようで、この本を借りてきた家族は第1章が一番面白かったそうです

*2:バンクーバーオリンピック、カナダナショナルチームのピーク・パフォーマンスコーチ

*3:フロー状態とも。この本ではZONEと表されていますが、ここではカタカナ表記にしています

*4:同じスポーツでもポジションの違いもある