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著者・寺田啓佐さんは婿養子として、300年続く千葉の老舗蔵元「寺田本家」を継いだ人だ。その人生は病気をしたことがきっかけで仕事も生き方も大きく変わったのだそうだ。
この本は大きく分けて3つの読み方ができる。内容が多すぎて何だかもったいないくらいだ。
私は主に2を目的として読んだ。とはいえ、この3つが複雑に絡み合っている。
著者の病気とはなんと、「腸が腐る」というものだったそうだ。腸内細菌が正常に働かなくなると、最終的には腸は腐ってしまうらしい。その病床で、発酵と腐敗の違いは何か、なぜ自分は腐敗してしまったのかを考えたという。そして、利益最優先で作っていたお酒を一から考え直したのだ。
本来、日本酒は微生物の助けを借りて作るもの。ところが、効率や利益を考えると、“微生物におまかせ”はできなくなる。その結果、日本のほとんどの酒造メーカーは「百薬の長」とはとても言えない日本酒を造っているのだという。著者は微生物が楽しく働いた結果できた日本酒は腸内細菌を増やし、それが健康につながると考えた。そして体にいいものを追求した結果、なんと玄米からお酒を造ってしまったという。そして、それが実際に血糖値を下げたり、健康回復にもつながっているのだそうだ。
私が感銘を受けたのは、微生物は「共生」していて、争わないということだ。著者が「微生物から学んだこと」はどれもイキイキしていて説得力がある。ところどころにスピリチュアルなことが当然のように書いてあるので驚くが、酒造りを研究するうちにたどりついたのだとしたら素直に読める。特に、「いいお酒を作るには環境(特に言葉)をポジティブにすることが大切」というくだりには衝撃を受けた。微細なことが大きくいろんなことに関わってくるのだ。
プロの書き手ではないので散漫なところもあるが、受け取れるものは多い。今の生き方に何となく違和感を感じる、という方はぜひ読んでみてください。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
哲学者・常岡一郎氏のことば(P60)
「中心が何であるか、どこにあるか。これをはっきりつかむことが、人類生存の尊い唯一の道である」「たとえば綱渡りの曲芸師は、中心を外せば転げ落ちる。中心をとるコツは、いつもまわりを見ながらバランスをとっていくことだから、足元を見つめていたのではバランスを崩していく。だから自分のことばかりを考えるな。自分の都合は捨てろ。相手の喜ぶことを、まわりが喜ぶことを第一に考えなさい」
変わらなければ腐る(P86)
発酵というのは変化の連続だなあと思う。変わるから腐らない。逆に言えば、変わらなければ腐るということなのだと。
発酵に影響を及ぼすもの(P97)
それは人間の「言葉」や「意識」である。本当のところ、私はこれが一番大事だと思っている。不思議なことだが、プラスの言葉を使ったりプラスの意識を持つのと、マイナスの言葉を使ったりマイナスの意識を持つのでは、場というか環境はいかようにでも変わっていく。
その人以上の酒はできない(P97)
だから私が酒を造る場合、私以上の酒はできない。自分が偽物であれば、偽物の酒しかできない。どうあがいたって、その人以上の酒はできないのだ。
微生物は自分好き(P115)
それは決して嫌々やっていることではなく、微生物にとってそうすることが快くて、自分の好きなことをしている。そして、楽しく働いている。私には、そう感じられる。生命のおもむく方向へ、自ら進んでいっているのではないかと。
きっとそうやって自分らしく生きることが、微生物にとっては自然なのだろう。まさに微生物というのは、本当の意味で自分のために生きている、「自分好き」なのだ。
居心地よいことが最大の条件(P126)
酒造りでなにより大事なことは、微生物によい働きをしてもらうことなのだが、そのためには微生物の棲み家である「場」が居心地よいことが最大の条件だ。その場が快か不快かによって、本来微生物が持っている力を発揮できるかどうかが決まってくる。微生物にとって快い場では、すばらしい発酵が始まり、不快な場では腐敗が始まる。
京都「一燈園」石川洋さんの自分で自分を叱る言葉「自戒」(P135)
つらいことが多いのは 感謝をしらないからだ
苦しいことが多いのは 自分に甘えがあるからだ
心配することが多いのは
今をけんめいに生きていないからだ
行き詰まりが多いのは 自分が裸になれないからだ
「感謝にまさる能力なし」(P136)
当たり前のことを、どう感謝につなげていくか。いいことも悪いことも、何があっても感謝につなげていくという生き方があるのだということを。
ふつうはいやなことに対して、感謝などとてもできない。けれど、病気でも事故でも失敗でも、どんな不幸もかつて自分がやらかしたことの償いだと考えると、悪いことが起こったことは自分がしてしまったことがチャラになったと考えられる。
チャラにしてくれていることへ感動し、マイナスの出来事も感謝で受け止められる。「流す」ということができるようになって、すべてが「よかった、よかった」と思えるようになっていくのだ。
微生物から教えられた3つの「快法則」(P163)
1.「自分らしく」
自分を好きになって、自分のために生きるということだ。
(中略)
2.「楽しく」
自分が信じたこと、心から好きなことを、楽しんでしていくことだ。
(中略)
3.「仲よく」
何よりも争わないこと、そのためには勝たないことだ。微生物の世界は、全く競争がなく、お互いに助け合い、支えあっている世界だ。それぞれを尊重して共生している。
(中略)
違ったものを排除することで、うまくいくことなどないというのも、酒造りの中で気づいたことだった。多種多様な微生物が参加することによって、生命力のある、命の宿った酒ができる。
虫も住めない腸内環境(P180)
ひとつの原因としてあげられるのは、水道の塩素消毒だろう。それがいかに有用な微生物まで殺してしまうかということだ。塩素消毒は、水の中の菌を殺すだけでなく、それを飲んだ人間のお腹の中の菌も殺してしまうのだ。
共生とは(P222)
競争しない、争わない、仲よしの世界のことだ。「負けちゃう、損しちゃう、謝っちゃう」、むしろ積極的にこういう姿勢にしていく。肩の力をフッと抜き、がんばるのをやめてみた時、みんなとつながれることに気づくはずだ。
何があっても笑っちゃう。どんな時でも「ありがとう」(P250)
そしてその実践の究極には、「笑っちゃう」があるのだ。これは、「何があっても笑っちゃう」ということである。いいことが起きたら笑っちゃうというならふつうだが、何があっても笑っちゃうのだから、これはちょっとむずかしい。
悲しいことがあっても、淋しいことがあっても、苦労して悩んでも、問題が起きても笑っちゃう。これが笑えないから、みんなうれしくなくなってしまう。楽しくなくなってしまう。そして不安や恐怖がでてくるのだ。
(中略)
人間は、自ら生まれ変わることができる。意識を変えることは、簡単にできるのだ。「何があっても笑っちゃう」という心境になれたら、何もかもがうれしいことになる。そして、ありがたいことになっていく。面白くても、面白くなくても笑っちゃえば、苦がなくなって、道が開けるのだ。
略して『ニコあり』(P253)
ひとりひとりがニコニコ「ありがとうございます」と言っていれば、ブクブクと発酵している酒蔵のタンクの中のように、どんどんおいしくなっていく。すべてのことが、解決に向かっていく。幸福に向かっていく。
この『ニコニコ「ありがとうございます」』を、略して「ニコあり」と私は言っているが、「ニコあり」はまさに微生物のように生きる方法であり、これさえ実行していれば何がきたって大丈夫なのだ。