この本はNHK生活人新書の脳3部作*2のあとに書かれている。字も大きく、パラパラ見た感じでは復習としてサラッと読めばいいかな、と思ったが読んでみたらまったく印象が違った。この本は“より具体的な実践編”なのだ。
12の困った状態にどう対処すればいいのかをわかりやすく教えてくれる。12とは
- やる気が起こらない
- 集中力がない
- 早起きを定着させられない
- 抑制の力が落ちている
- 「空気が読めない」と言われる
- 自分の考えをまとめられない
- 思い出せない言葉が増えている
- アイデアが浮かばない
- 時間を無駄遣いしてしまう
- 同じ失敗を繰り返す
- ネガティブ思考に陥りやすい
- 変化への対応力がない
という、誰でもいくつかは心あたりがありそうなものばかり。
朝早起きをするとか、同じ作業を続けないなど、当たり前のことを当たり前のように書いてあるので、レビューでは「もの足りない」という人が多かったが、私にとっては目からウロコの本だった。
脳に関する本は興味があるのでいろいろと読んでいる方だと思うが、今まで脳の機能は知っていても、それと自分の日常生活はほとんど結びついていなかった。だが、この本を読んで初めて知識を実践として使う方法がわかったのだ。これは画期的なことだと思う。言われていることは既知のことかもしれないが、それが脳のどの機能によるものなのかがわかれば、取り組み方が変わってくる。
たとえば、「集中力が続かない」という悩み。脳はいつでもいつまでも集中できると思いがちだが、実は脳にもバイオリズムのようなものがある。著者は1日に2回か3回、集中する時間を決めているそうだ。そして、そこに何の仕事をするかをあらかじめ決めておき、そこさえきっちりできればあとは比較的のんびりしていてもいい、と割り切っているという。
今までいろんな本にメリハリや緩急をつけろ、と書いてあるのを読んだが、それは脳のリズムと上手につき合うという意味なのか、と腑に落ちた。
他にも、脳の仕組みをわかって生活のリズムを組み立てると無駄がないし、納得して実践できる。私は今までいくらいろんな本で読んでも“平日も休日も同じ時間に起きる”ことができなかったが、この本を読んで初めて目覚ましを毎日同じ時間にセットした。人によって違うかもしれないが、「納得できれば動ける」タイプの人には素晴らしい本だと思う。
また、著者の時間の使い方や朝の過ごし方などが紹介されているので、こちらも参考になる。
脳の仕組みに関しては、非常に大まかなとらえ方をしてある。日常生活に活かすための仕組みさえわかればいいので、割り切って書かれているようだ。その辺も「脳そのものに興味がある」人がもの足りなく感じる点なのかもしれない。逆にむずかしいことは苦手でも、今の自分を何とかしたい人には助けになるはずだ。
残念ながらこの本は新書ではない。同じNHK出版なのになぜ、と思うが、今の自分を変えたい人はぜひ読んでみてください。築山先生の他の本を読んだことがない方は、この本から読むのがおすすめです*3。
私もこの本を読んでがぜんやる気が出てきたので、またブログで報告していきます。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
「小さな課題」に分解して「小さなやる気」を得る(P22)
脳の中で、感情系の機能を担っている辺縁系は、「分析する」ということができません。
そのため、これからやらなければいけない仕事や勉強の全体像ばかり見てしまうと、その大きさに圧倒され、「逃げたい」という感情を発生させてしまいます。
それを防ぐためには、思考系の機能を担う大脳が、いつも仕事や勉強の全体像を分析し、細かく砕いて、「これならできそうだ」と思える小さな課題だけを取り出してあげなければいけません。やる気を起こすのがヘタな人たちは、そういうことを充分に行っていないのではないかと思います。
「やる気が起こらない自分」を変える3つのポイント(P27)
・やる気は行動することによって蓄積されるエネルギーであると考える。
・適度な運動と作業により、脳の血流をよくし、また作業興奮を起こさせる。
・仕事や勉強を小さな課題に分解し、感情系の協力を得やすくする。
著者の1日のタイムスケジュール(P35)
私は午前8時半〜11時半を集中して仕事に取り組む時間帯と決め、朝5時半に起床してからの3時間を、そのためのウォーミングアップにあてています。
犬を散歩に連れて行ったり、部屋の片付けなどの簡単な雑用をしたり、家族や職場の人たちに挨拶をしたりしながら、脳の状態を上向かせていく。
そして、仕事開始からの3時間で、その日の大事な仕事を一気に片づけてしまおうと決めているのです。
午後は、職業柄もあり来客が多いので、流動的にならざるを得ないのですが、基本的には夕方までにもう1回、夕方から午後8時半頃帰宅するまでにもう1回、集中して仕事に取り組む時間帯を作れれば理想的と考えています。
脳にも波がある(P32)
起きている時間の中でも、脳がさらなる覚醒に向かおうとしている時と、どちらかといえば睡眠(休息)に向かいたがっている時とがある。
脳の覚醒水準が落ちてしまうのはこんな時(P36)
・体を動かしていない
・変化がない
・作業をせず、同じことを考え続けている
・時間の制約がない
「脳が冴える時間帯」を固定する(P38)
目覚まし時計を使って毎朝同じ時間に起きようとしていると、そのうち目覚まし時計を使わなくても、その時間になると自然と目が覚めるようになるものですが、それと同じように、毎日同じ時間に覚醒水準を上げようとしていると、その時間帯になると自然と脳が冴えるようになってきます。脳がその活動リズムに慣れてくるのです。
私の場合は、朝8時半〜11時半の3時間が、完全に固定してある時間帯で、その時間になると、脳が覚醒しやすくなっています。それ以外の時間帯は、前述のような努力をしても、集中力が長続きしないこともある、というくらいに割り切っています。
可能であれば、午前と午後に1回ずつは、そういう固定された時間帯を持てると理想的だと思います…。
(中略)
そういう時間帯を作る大きなメリットのひとつは、「1日が長く感じられるようになる」ということです。
集中して仕事や勉強に取り組む時間帯が決まっていて、実際にその時に仕事や勉強がはかどるので、それ以外の時間は比較的自由に使っていいと思えるようになります。
1年の中でも「覚醒水準の波」を意識する(P41)
脳は1年中ピークの状態を維持することはできません。
そういうことを望むと、序盤に力を使い果たしたマラソン選手のようになってしまい、後半に深刻な失速を招くことにもなりがちです。ある程度がんばりどころを決めて、そこに覚醒水準のピークが重なるように調整することを考えた方がいいと思います。
朝起きることを「快」にする(P55)
覚醒水準が下がっている時は、どうしても感情系優位になりやすくなっています。
寝起きの感情系が求めるのは、「もっと寝ていたい」ということでしょう。
そこで、感情系に「起きたい」と思わせる快を与えてあげることが重要になってきます。
(中略)
大切なのは、
ただ「そうしよう」と思うだけでなく、実際に行動し、それを何日か続けて、その快を脳に憶えさせること
です。それがうまく行くと、寝起きの布団の中で「起きたい」という意欲を起こしやすくなります。
最初から早起き事態を定着させようとするより、まず早朝の「自分にとって快である習慣」を定着させようとした方が実現は楽でしょう。
(中略)
そういう朝の楽しみを自分なりに持てると、早起きは苦にならなくなります。
朝目が覚めてからの行動(P57)
起きて最初にすることは…明け方の空を観察し、家の中を片付け、愛犬を散歩に連れて行くことです。その楽しみを実行したくなって、結局は気持ちよく目が覚めます。
あとは、足を動かして歩いたり、手を動かして作業をしたり、口を動かして挨拶をしたりして、脳をさらなる覚醒に向かわせていけばいいわけです。
覚醒水準が上がってくるにつれ、寝起きの頭では「大変そうだ」としか思えなかった仕事よりも、より冷静に分析できるようになり、たとえば
「今日はこの点とこの点についてだけ成果を出せればいい。それくらいなら充分できそうだ」
という風に、実現可能な課題を見つけ出すことができて、「それをやろう」という意欲が起こりやすくなります。冴えない頭で考えているために、実際以上に大変だと感じてしまっていることもあるのです。
早起きを定着させる3つのポイント(P59)
・朝一定の時間に起きることは、脳の活動、特に感情の安定に効果をもたらす。
・昼間は日光を浴びて活動し、夜は暗い場所で安静にする。メリハリをつけよう。
・早起き自体の定着を目指すより、快い早朝の習慣を作ろうとする方が楽。
脳から考えた理想的な1日の時間割(P60)
午前中は、脳に情報を入力する活動、午後は、脳の中にある情報を活かして仕事をしたり、人と交流したりする活動に向いていると思います。夜は明日の準備をして、できるだけ早く寝るべきでしょう。ただし、その時間割に縛られすぎるのもよくないかもしれません。
「やめられない」時の対処法(P75)
「まずは目だけを動かそう」と考えることです。
…止まった状態でいると、脳の活動は停滞に向かいます。その結果、感情系優位になり、今の状態から動きたくなくなる。要するに、だらだら続けてしまう。
その状態から脱却するには、脳に変化を与えることが有効と考えられます。
(中略)
そういう時に、「まずは目だけを動かそう」と考えるのです。
たとえば、テレビを見ていることがやめられない時には、まず視線を画面から外して、違う風景をしばらく眺めてください。行動を起こすのが面倒な時でも、目だけを動かすことなら楽にできると思います。
その上で、足を動かして場所を変え、手を動かして状況を変えましょう。たとえば、台所に移動して紅茶を淹れる。
そうやって、少しずつより大きな変化に脳を対応させていくと、「やめなければ」と思っている思考系の優位が取り戻せてきます。
「アイデアが浮かばない」自分を変える3つのポイント(P131)
・ひらめきは「応用問題を解く力」であると考え、基礎固めに力を入れる。
・前提となる情報を確実に脳に入力する。そのための復習を重んじる。
・よいアイデアにたどり着くまでの学習と取捨選択のプロセスを惜しまない。
パソコンを使っている時の時間の浪費を防ぐ(P134)
私はパソコンで何か作業をする時、開始時間をふせんに書いて、目立つところに貼っておくようにしています。
時間を無駄遣いさせる「2大悪」(P141)
…本当に集中して仕事や勉強に取り組める時間は、1回につき2〜3時間が限度だと思います。その時間帯も、作ろうとしなければ作れない。
その「集中力を発揮できる時間帯」を
・1回も作れなかった時
・作ったものの活かせなかった時
私は「今日は時間を無駄にした」と感じます。
作れなかった時の原因を分析してみると、ほとんどの場合、「睡眠不足」か「過労」です。
「時間を無駄遣いしてしまう」自分を変える3つのポイント(P146)
・時間を浪費しやすいことを何となくは始めない。開始時間を明記する。
・毎日「充実した数時間」を作るために、睡眠不足と過労を極力避ける。
・「今日、何をどこまで」を明確に、スケジュール管理を重視する。
中日ドラゴンズ・落合博満監督の言葉(P166)
精神的なスランプからは、なかなか抜け出すことができない。根本的な原因は、食事や睡眠のような基本的なことにあるのに、それ以外のところから原因を探してしまうからだ。
『コーチング 言葉と信念の魔法』ダイヤモンド社
ネガティブ思考から抜け出すための3つのポイント(P176)
・脳と体の不調はネガティブ思考を招く。まずはその状態を上向かせよう。
・感情の安全地帯を作る。「確実にできること」をしている時間を増やす。
・自分にとって価値があると思えることを実行し、その成果を確認する。
「変化への対応力」の要素とは(P178)
・やる気や集中力を自分で高めることができる
・抑制の力がある程度鍛えられている
・社会性が高く保たれている――周囲と強調できる
・主体性が高く保たれている――自分で考えられる
「規則性のある生活」を心がける(P183)
規則性のない生活は、脳の活動を不安定にします。特に感情が波立ちやすくなるので、変化に対応するリスクを過大に感じてしまいやすい。そのために、 環境を変えたり、新しく何かを始めたりすることに過剰防衛的になっている場合があると思います。
そういう人はまず、ふだんの生活を調えることに全力を尽くしてください。
たとえば、朝5時に起きて、洗顔と歯磨きをすませ、30分ほど体を動かし、1時間集中して勉強する。その後、朝食を食べて身支度を調え、朝8時に出社する。夜、仕事から帰ってきたら、明日の準備と予習・復習をして12時までには必ず寝る。
そういう確固たる生活リズムを作れている人は、感情が安定しやすく、大きな変化にも対応しやすいと思います。新しい活動を始める時にも、全体的に安定している生活の一部を変えるだけなので、脳が混乱を起こしにくいのです。
「守りと攻め」の両方に気を配る(P186)
まずは、時代がどう変わっても、「自分のこの部分は変わらない」と言えるような、盤石な生活習慣を作ることを目指してください。それが脳を安定走行させる土台になります。その中で、作業興奮や覚醒水準の考え方を活かして、やる気や集中力を高めるコツをつかんでいただけるといいでしょう。それから、自分の興味や向上心を大切にし、少しずつ活動の場を広げ、人生経験を豊かにしていくことを考えてください。その中で、社会性や主体性も自然と高められていきます。
逆境の時代に大切なこと(P189)
・健康を失わないこと
・勤勉さを失わないこと
・仲間を失わないこと
・冷静さを失わないこと
「ダメな自分」脱出のためにまずやること(P190)
できるだけ充分な睡眠を確保し、節制を心がけ、規則正しい生活を送ることは、最も間違いのない、しかもお金がかからない健康法です。その上、生活のリズムを安定させることは、脳にやる気と集中力と感情の安定をもたらします。
また、目の前にある課題を大きな塊として見るのではなく、「これくらいならできそうだ」と思える小ささまで分解して、それをコツコツ解決していく癖をつけてください。
*1:この記事を書こうとして、ビジネスブックマラソンで紹介されていたことを知りました。見落としていたようです
*2:『フリーズする脳』『脳が冴える15の習慣』『脳と気持ちの整理術』
*3:脳機能について詳しく知りたい人をのぞきます