20代の頃、熱心に田辺聖子さんの本を読んでいた時期があった。小説もエッセイも好きで、いまだに手放せずに実家に残してあるものも何冊かある。この本は先日『クレンズの魔法』を読んだ時、巻末の広告で紹介されていた1冊。気になったので図書館で借りてみた。
タイトルでわかるとおり、月ごとにテーマを決めて田辺さんの膨大な著作の中からそれに沿った言葉を選び出し、毎日ひとつずつ読めるようにした本だ。正方形に近い形や大きさといい、装丁や中の色遣いといい、“おせいさん”を好きな人の愛蔵版、として作られた本だろう。
著者の本は小説だと大阪や阪神間が舞台であり、エッセイでも会話は関西弁だ。さらに表記が独特だったりして、好みが分かれる作者かもしれない。でも、実はすぐれた金言(のようなもの)があちこちにちりばめられている。私が心ひかれるのにはその点も大きいが、この本は選りすぐりの“金言集”だ。この本から“おせいさん”ワールドをのぞいてみるのはどうだろう。
たとえば
なるべく怒らぬよう。
怒ると人生の貯金が減る。「1月6日」(P11)
私はこのごろ、幸福になる能力のあるなしは、ひとえにかかって「棚上げできる能力」にあるのではないか、と発見した。「5月21日」(P103)
というようなことがずらりと並んでいるのだ。もっと長いことばも、美しいことばもある。
本当は借りて読む本ではなく、手元に置いてふとした時にめくってみる本なのだろう。
読んでみて、もし気に入った言葉があれば巻末に出典一覧が出ているので、ぜひその本を手に取ってみてほしい。私自身久しぶりに読んで思ったが、実用一辺倒の読書をしていると、心がやせていくような気がする。こういう滋味あふれることばもたまにはどうぞ。