著者の片山洋次郎さんは、野口整体にご自分の経験もプラスし、独自の整体を創り出された方だ。この本では、「体癖」について現代に合うようにわかりやすくまとめられている。体のことにあまりくわしくなくても非常に実践的で気軽に取り組めるようになっている。
もちろんこの本のメインは体癖12種の区別とそれぞれの特徴の説明なのだが、著者はそれにこだわりすぎる必要はない、と書かれている。たいていの人はふたつくらいの傾向を持つことが多く、時期や状態によっても変わるのだそうだ。なので、具体的なメソッドを通して探っていくうちに直感的にわかっていくという。
著者の整体の大きな傾向は“ゆがみを治す”のではなく“ゆがみを活かす”ことだ。自分でやる方法と、誰かとペアになってやる方法が紹介されているが、もともと体が動きたがっている方向に少し手助けするだけなので、無理がなく気持ちよくできる。
さらに、体癖というものを踏まえてどう身体とつき合うか、その話がとても奥深い。
体癖とは、「骨盤のタイプ(動き方・反応の仕方)の違いからくる固有の身体の癖」(P11)のことだそうだが、それは私たちが考えている以上にいろんな面に影響しているという。
骨盤の特性によって、内臓機能や筋肉のつき方、身体のエネルギーの流れ方はずいぶん異なります。ストレスのたまる箇所も、リラックスするための要のポイントも、かなり違いがある。これが、心理的な傾向やコミュニケーションの取り方にまで、大きな影響を及ぼしています(P11)。
つまり、身体の声が上手に聞けるようになると、自分がわかるようになる。そうすると、自分にとってできることとできないこともわかるようになり、自分をそのまま受け容れられるようになるそうだ。
終章のこの言葉は特に響いた。
身体レベルで生きていることそのものの肯定感がなければ、何の意味をつけ加えたところで、本質的な充足感は生まれません。身体を置き去りにして「自分探し」や「意味ある生き方」探しをしても、何も見出すことはできないでしょう(P210)。
後半は人間関係のひとつのテーマである家族関係について、さらに介護する側のポイントなどにも触れられていて、いろんな面で役に立つ本だと思う。
リラックスが苦手な人、自分のことがよくわからない、という人はぜひ読んでみてください。無理せず自分らしく生きていくヒントがあります。
私のアクション:時々深呼吸をして緩む
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
内側から湧いてくる力が大切(P72)
そもそも不調の時、人の身体は、「気」を無理に注入できないし、無理やり矯正したからといって、簡単に体調は変わるものではありません。その人の内側から回復しようとする力が湧いてこない限り、本当にいい反応は起こりえない。人にはその時身体が向かおうとする方向が必ずある。
左右のバランスが崩れるのは身体のサイン(P92)
身体の左右に弾力差が出はじめたら、基本的には身体がバランスを組み替えようとするサインです。疲れがたまった時、季節の変わり目、成長の節目などにも、左右のバランスは大きく崩れます。それは、新たな環境に対応するため、身体にとっても必要な期間なのです。
骨盤はゆるみきらせてはじめて、元に戻る力が出る(P94)
お腹の弾力に左右差があって力が入らない時は、決して無理をしないことが、身体のハーモニーを早く取り戻すことになります。
整体とは呼吸の「呼」と「吸」の間を広げること(P124)
整体の目的は外から何らかの力で、背骨や骨盤を矯正することでもなく、治療を加えることでもありません。深い呼吸ができるようにすること。それだけが目指すところです。
ここでいう深い呼吸とは…「呼」と「吸」の間がゆったりと広がっていることです。この「呼」と「吸」の間は、武道では「隙」ということになり、この瞬間に技は決まります。…ですから、戦いの中では呼吸の隙を極力小さくするのが、殺られないための技術です。
現代社会では、この“戦い”が24時間続いたような状態です。「息を殺し」「息を詰め」っ放しで、多くの人が呼吸の隙を作らないように、常時身構えっ放しになっているのです。
(中略)
人は成長してしまうと、赤ちゃんのように無防備ではいられませんが、この「呼」と「吸」の間の隙=脱力の瞬間に、身体の響きを取り戻す大きなチャンスがあるのです。
(中略)
「呼」と「吸」の間の隙間が広がれば、身体はその間に自ら進む方向を選び、再生します。その瞬間にのみ、身体が自ら進むべき方向に舵を切る可能性がある。
一歩引くスタイル(P138)
思い詰めやすい、過度に集中してしまいやすい人ほど、「一歩後ろに引く」スタイルを意識的に身につけるとよいでしょう。知らないうちに態勢が前のめりになって、何かにしがみついているような身構えになってしまっているからです。
気の合う人とつき合う(P203)
生前の野口晴哉さんは、身体をみることの天才で、今日では「伝説の人」ですが、忘れてはならないのは、「わからない人には手を出さなかった」ことです。「気が合わないものは合わない」と、うまく波長が合わない、気が合わない人は断っていたのです。
整体を長年やっているとわかるのですが、体癖ごとの相性の問題で、どうやってもうまく行かないことがあります。技術以上に体癖的な相性は大きな要素なのです。
そういう時は、丁寧にお断りしています。
そこで何も起こらないことを受け容れるしかない。
今のままの自分に肯定感を持つ(P207)
身体を常に過緊張に追いやる情報化社会の中で、もともと“がんばり体勢”の身体の人ほど、「努力すれば何でも達成できるんだ」と思い込みやすい傾向があります。がんばらない人を、ダメ人間のように考えがちです。
でもそれは一種のイデオロギーみたいなもので、実際には、自分の身心で思い通りになる部分というのはほんの一部にすぎない。
体癖によって極めて苦手なことや、できないことは確実にある。できないこと、できることを見極めて、できる方法でやればいいと考えると、生きるのが楽になります。
いま生きているこの身体以外に、自分の居場所はない(P211)
何となく意味なく気持ちいい――深く眠りに落ちている時間や、ただボーッとできる、ほっとできる、そんな「無意味な時間」こそが大切なのです。あるがままの身体がその時表れます。