この本のタイトルは『Made to Stick』で、文中の訳は“記憶に粘る”だったが、もともとは“記憶にくっついて離れない”というような意味だと思う。この本のテーマは「受け取る側にインパクトを与え、忘れたくても忘れられないくらい記憶に焼きつけるにはどうするか」だ。『スイッチ!』同様、たくさんの事例が出てくるので面白くてわかりやすいし、目からウロコの事実もたくさん紹介されている。
中でも特に印象に残ったのは「知の呪縛」という概念だ。
それは「すでに知っている者は知らない状態がわからないので、知らない人に向かって正しく伝えることが難しくなる」こと。知的盲点とでも言えばいいだろうか。この事実を知らないと、CMや広告でも、または自分の取り組んでいる仕事の重要性を伝えて予算を獲得するにも困難を極めるのだという。
また、SUCCESsの法則というわかりやすい項目も紹介されている。
- 単純明快である(Simple)
- 意外性がある(Unexpected)
- 具体的である(Concrete)
- 信頼性がある(Credible)
- 感情に訴える(Emotional)
- 物語性(Story)
この6つを満たすことで、「記憶に残る」ことができるという。
分厚い本だし、あれこれ詰め込んである印象を受けるのでわかりやすいとは言いにくいが、「伝えたいこと」が何かある人には、ヒントがたくさん見つかると思う。
後半に出てくる“筋書き”の話は、最近あちこちで見かける“ストーリーのあるものが強い”という説の裏付けにもなり、とても納得できた。また、『ザ・コピーライティング』の内容をほぼ1章にわたって紹介してあったので、復習にもなった。あの本をまるまる1冊読むのはかなり大変なので、エッセンスがわかればいい、という方はこの本を読むのもいいと思う。
広告などに携わっていなくても、「伝えたいこと」はみんな持っているはず。読みごたえのある本にチャレンジしたい方はぜひどうぞ。
私のアクション:ブログを書く時に「SUCCESsの法則」を意識する
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読書日記:『スイッチ!』
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
「知の呪縛」とは(P31)
いったん何かを知ってしまったら、それを知らない状態がどんなものか、うまく想像できなくなる。知識に「呪い」をかけられるのだ。そうなると、自分の知識を他人と共有するのはむずかしい。聴き手の気持ちがわからないからだ。
アイデアは情報量を減らせば減らすほど、記憶に焼きつきやすくなる(P66)
人は驚くと答を見出そうとする(P97)
いったい、なぜ自分は驚いたのか、という疑問を解消したくなるからだ。驚きが大きければ、それだけ大きな答を求める。注意を払ってくれるよう相手を動機づけたいのなら、大きな驚きの力を利用すべきだ。
人を驚かせるためには、先が読めてはならない(P100)
驚きは、予測可能性の対極にあるものだ。だが、相手を満足させるためには、驚きは「あとから考えれば理解できる」ものでなければならない。振り返れば「なるほど」と思うが、その時は予想もしなかった、というようなひねりが必要なのだ。
焼きつくアイデアを作るプロセス(P102)
1.自分が伝えるべき中心的メッセージを見きわめる(核となる部分を見きわめる)。
2.そのメッセージの意外な点を探し出す(核となるメッセージが言外に示す意外なことや、当たり前のようなのになかなか実現しない理由など)。
3.どきりとさせる意外なメッセージの伝え方で聴き手の推測機械を破壊する。推測機械が作動しなくなったら、今度はその修正を促す。
ロバート・マッキー(脚本セミナーの主催者)のことば(P116)
「好奇心とは、疑問を解消し、曖昧な状況をはっきりさせようとする知的欲求だ。…」
行動経済学者ジョージ・ローウェンスタインの好奇心の「隙間理論」(P118)
好奇心が生じるのは、自分の知識に隙間を感じた時だというのだ。
ローウェンスタインによると、隙間は苦痛を生む。何かを知りたいのに知らないというのは、どこかが痒くて掻きたくなるのと同じだ。その苦痛を取り除くためには、知識の隙間を埋めなければならない。くだらない映画を見るのは苦痛なのに、我慢して最後まで見るのは、結末がわからない苦痛の方がはるかに大きいからだ。
CMの手法は使える(P123)
ニュースの期待を煽るCMの手法は、どんな文脈でも、またどんなタイプのアイデアにも利用できる。コミュニケーションの効果を高めるには、「どんな情報を伝えるべきか」から「どんな疑問を抱かせたいか」という考え方に切り替える必要がある。
まず知識に光を当てる(P130)
知識の隙間は興味を生み出す。だが、知識に隙間があることを実証するためには、まず何らかの知識に光を当てる必要がある。
記憶は単一の書類棚ではない(P153)
むしろそれは、マジックテープに似ている。
(中略)
脳には膨大な数の輪が用意されている。だから、アイデアについているフックの数が多ければ多いほど、記憶に引っかかる。頭に思い浮かべる子どもの頃の家には大量のフックがあるが、新しいクレジットカードの番号にはせいぜいひとつしかない。
メリットを実感させる(P248)
…心にかけてもらうには、メリットの大きさを訴えるより、メリットを実感させることが必要だとわかる。お金持ちになれるとか、異性にもてるようになるとか、魅力的な性格になれるなどと約束しなくても、相手が手軽に実感できるほどほどのメリットを約束すればよいということだろう。
人を励ます物語には3種類の筋書きがある(P305)
「挑戦」の筋書き、「絆」の筋書き、「創造性」の筋書き
である。
「絆」の筋書きとは(P308)
人種、階級、民族、宗教、あるいは人口統計上の違いを乗り越えて、人々が関係をはぐくむ物語である。
物語は「知の呪縛」を軽々と打ち破る(P319)
物語はSUCCESの枠組みの大半を、おのずと実現する。物語を効果的に使う上でもっともむずかしいのは、核となるメッセージを単純明快なものにすることだ。すばらしい物語を語るだけでなく、論点を物語に反映させる必要がある。
アイデアを発見するのが得意な人は、創造が得意な人に必ず勝てる(P326)
アイデアを多くの人の記憶に焼きつけたのは(P328)
物語を使って証明したり、感情に訴えたり、10のことを言わずに1点だけを強調した学生だった。
(中略)
知識が豊富な人や多くの情報を入手できる人の厄介な点は、どうしても全部伝えたくなることだ。…核となる部分を際だたせるために情報量を減らすことは、自然にできることではない。
核心を見い出す(P330)
弁護士なら、主張したいことが10あっても最終弁論では1、2点に絞り込む必要がある。…経営者なら、従業員が曖昧な状況の中でも決断を下せるよう「人名、人名、とにかく人名」とか「最格安航空会社」といったスローガンを打ち出す必要がある。
*1:兄弟による共著です