※文庫版は2冊に分かれています。
シドニー!(コアラ純情篇) (前半)*1
シドニー!(ワラビー熱血篇)(後半)
村上春樹さんは実はそれほどオリンピックが好きなわけではない。この本はある雑誌*2の「オリンピック観戦記を書きませんか?」のオファーを受けて書かれたもの。
普通のオリンピック礼賛の書き手とは違う、冷静な目で村上さんは3週間、何を見て何を感じたのかが興味深い。
私は村上さんのエッセイが大好きなので、小説とは違う村上ワールドが堪能できた。ジョークも面白かったし。
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先日読んだインタビュー集『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』によれば、この本は毎日その日あったことを記事にし(原稿用紙にして30枚強)、その日のうちに出版社にメールで送る*3ことをご自分に課して書かれたものだそうだ。
内容は、村上さんの日誌的なこと(食事内容、ランニング、読んだ本、面白かった新聞記事など)や観戦したオリンピックの試合について、その他出かけた場所や感じたことなどさまざまだ。何を食べたかなんてファンでなければ興味ないんじゃないか、と思ったが、実はひとつひとつがオーストラリアにこれから旅行する人に役立つ情報になっていたりする*4。
それから、オーストラリアという国そのものについての記述も興味深い。まるまる1日オーストラリアの歴史について書かれた日もあり、オーストラリアがそもそもイギリスの流罪の場所として始まったことなどはじめて知った。
オリンピックの記事については、賛否分かれるかもしれない。いわゆるオリンピック的な書き方は一切していないからだ。
見ているものも村上さんの興味のあるマラソン、トラック競技、トライアスロン、野球少々にあとはせっかくだから見ておこう的なものばかり。柔道はまったく見ていないし、水泳も見ようと思っていた日に野球が延長になりたどり着けなかったという理由はあるがやはりまったく見ていない。
そうかと思ったらなぜかハンドボールの男子決勝「スウェーデン対ロシア」を見ていたり*5。
キャシー・フリーマン*6の決勝は村上さんにとっても素晴らしい経験だったそうで、その感動は読者にも伝わってくる。
でも、オリンピックに対してとてもクールな村上さんの見方・考え方を通していろんなものを見れば、とても納得がいく。あまりに商業主義になりすぎているオリンピック。「毎回アテネでいいじゃないか。甲子園は毎年甲子園でやっているけど何か問題がありますか?」という村上さんの発言に深く同意した。
インタビュー集でインタビュアーがこの本の村上さんの文章力を絶賛していたが、確かに文体で読ませているところも大きいと思う。
堅い話題から脱力系まで、さまざまに楽しめる本。
村上さんの本をこれから読む方には、案外こんな本から入るのもよさそう。