毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

文章には「ウソ」がある☆☆

著者・藤原智美さんは芥川賞作家。
文芸作品はほとんど読まないので、著者の作品も読んだことがない。純文学のような文章術だったらどうしよう、と思ったが著者はライター出身でドキュメンタリーも手がけている。とても読みやすい文章を書く人だと感じた。内容はもちろんだが、文章そのものも端正でお手本にできそうだ*1



この本はとてもよくできている。まずタイトルにインパクトがあり、心惹かれる。
本のうしろに大まかな内容が書いてあるのだが、そこに“文章の本質は「ウソ」です”とある。図書館で借りたからよかったが、書店で見かけたらこれだけでつかんでレジに直行するところだった。
確かに、どちらも文中に出てくるが、実はもっとも衝撃的な内容はこのふたつだった。これは編集者の勝利ではないか。


ここまでの衝撃度はなくても、全体を通して感じたのは「ちょっと変わった位置からの視線」と「実践しているから言えることば」だった。
ボキャブラリーを増やす是非、形容詞の厳密な使い方、自分のリズムを作る方法など読めばなるほどね、と思うことが多い。でも、そのほとんどが言われるまで気づかないことなのだ。

また、サブタイトルにある通り、デジタル化時代を迎えて文章はどうなるのかについても興味深い自論が展開されている。なぜ近年文章力が落ちているのか、今まで読んだ中でもっとも納得のいく説だった。

あとがきを読めば、実はこの視点は著者一人のものではなく、他に2名(ライターと編集者)の視線が取り入れられていることがわかる。
そのせいか、文章術の本にしてはいろんなところに話が広がってやや散漫な印象も。
だが、広く文章について考える本と思えばなかなか面白い。
文章術の本としても新しいと思う。ライターのわかりやすさと小説家の美しさの両方を“いいとこ取り”できる。文章術の古典に飽きた人にお勧めです。
私のアクション:行き詰まった時、気分転換は“別の文章を書く”
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。

すべての文章は、それが文章の形になった瞬間に何らかの創作が含まれる(P16)

良い悪いではありません。好むと好まざるとにかかわらず、文章を書くという行為はそうした性質を持っています。
(中略)
人は自分の見聞きした事柄や考えを文字に起こすプロセスで、言葉を選択したり何らかの就職を考えます。言葉の選択や修飾は演出そのもの。そうした積み重ねが文章になるのだから、原理的に「文章にはウソや演出が含まれる。あるいは隠されている」といえます。

「集中して文章を書く時間」が文章力を鍛える(P21)

1日1万歩歩くと健康によいといわれていますが、何度かにわけて歩き1万歩を達成するのと、しっかり80分間歩き続けて1万歩を達成するのでは、どちらが熱量を消費するか。正解は後者です。
文章にも似たところがあって、文章だけに向き合う時間を集中して過ごした方が、ちょこちょこと書くより、ずっと文章力が鍛えられます。しかもその時間は、何かに追い立てられている緊張状態の方がいい。

安易な主語に逃げない(P25)

…ビジネス関係の報告書などには、安易に「いま市場は」「一般消費者は」といった主語に逃げている文章があります。「市場は」というと、ビジネスを取り巻く背景や状況を客観的に分析したように見えます。しかし実際に読み進めると、「それはキミの意見だろう?」といいたくなるような主観が書かれていて、逃げ道として市場や消費者が主語として使われているケースが少なくない。こうしたビジネス文章からは、書いた本人の覚悟も伝わってきません。
これは一般の文章でも同じです。視点のあいまいな文章に、人を動かす説得力はありません。力のある文章とは、自分のカメラの位置を明確に意識したものです。

多くの人と共有できる客観的なものさしを使う(P32)

たとえば「14インチのモニターがふたつ置ける広さだった」「新型新幹線と同じくらい早い」というように身近にあるものに置きかえてみます。
身近なものに置きかえるといっても、「東京ドーム○杯分の大きさ」のように手垢のついた置きかえは避けた方がよいでしょう。…わかりやすさと同時にインパクトのある表現を、自分なりにいくつか用意しておくことをおすすめします。

形容詞の使い方を意識する(P35)

ここで強調したいのは、自己主張を避け、あいまいさの中に逃げ込むようにして形容詞を使っている限り、表現力を磨くことはできないだろうということです。
(中略)
この状況から脱するには、形容詞ひと言で表現するのではなく、具体的な言葉での表現を自分に課すことでしょう。

すべてを書いてしまわず、次の日に繰り越す(P46)

文章の書き始めで苦労するのは、前日に思い浮かんでいたことをすべて書いてしまうからです。すべてを書いてしまうと翌日はからっぽの状態から続きを考えざるを得ません。ゼロからすべてを生み出すのはエネルギーを要するため、続きを考えることがおっくうになってしまいます。
こんな状態を招かないために、前日にすべてを書いてしまわず、続きの数行を次の日に繰り越してみてはどうでしょうか。翌日は最初に書く数行が決まっているため、最初の難関である「書き始める」というハードルは無理なく越えられます。

行き詰まったら別の文章を書いて気分転換(P47)

散歩するなどで気分転換を図る人も多いと思いますが、私はなるべくその手の方法を取らないようにしています。気分転換は問題の先送りになりがち。当たり前のようですが、書けない時も書こうとする努力以外に方法はないように思います。
(中略)
文章に行き詰まって抜け出せない時、私は別のジャンルの文章を書くことで気分をリフレッシュさせます。小説を書いていて筆が止まってしまったら、エッセイを書いてみる。仕事の報告書を書いていて行き詰まったら、別の企画書を書いてみる。
大切なのは書く行為から離れずにいることです。

文章もジグソーパズルと同じ(P51)

たとえばジグソーパズルを組み立てる時、あらかじめ完成図は示されていても、それぞれのピースがどこに入るかはすぐにつかめません。それでも、色や絵柄で場所の見当がつくピースがある。それらから、まずは手をつけるでしょう。
文章も同じです。完成図を考えるより先にやるべきなのは、頭の中の言葉のピースを目に見える形にすること、つまり思考の断片の文章化です。

逆説になっていない「〜が」に注意(P54)

「前回のレポートをじっくり読みましたが、興味深い内容です」
この「〜が」は、短銃に時系列をつなげているだけで、本来なら不要です。
次のように書くのはどうでしょう。
「前回のレポートをじっくり読みました。興味深い内容です」
これで意味は通じます。

締め切りの2日前に原稿を上げる(P127)

私が理想としているのは、締め切りの2日前に書き上げて寝かせておき、期限の直前にもう一度だけ見直すパターンです。
1日前でなく2日前なのは、時間を空けて寝かせた方が自分の文章を客観的に読み返すことができるからです。自分が書いたものをいったん突き放してから見直すことで、一度の書き直しでも格段によくなります。

デジタルな世界では、選択肢が広がるほど自由度がなくなる(P144)

実際は、無意識のうちにランキング頼りになって、多くの人がいいという無難なものを選ばされている。さらにそれらの情報は、必ずしも利用者の要求に応えたものとは言えない。それまでの個人のアクセス傾向や購入履歴をもとに情報提供がなされているということもあります。
もちろんランキングでものを選んでも、ふだんの生活に支障が出ることはないでしょう。しかしランキングに頼ることは、自分のものさしを磨くのをおろそかにするということです。

役に立ちそうなものだけに絞らない(P167)

…直接利用できそうなアイデア探しや役立つ情報集めにきゅうきゅうとしていては、結局ダメなのです。「これは無駄」「あれは役立たない」と切り捨てていては、実は表現の幅や深みを失うことになります。

数字を使わないで人を説得できる文章を書く(P172)

主張の唯一のよりどころが数字だと、その信頼性や信憑性が疑われた瞬間、文章は説得力を失います。数字は、あくまでも主張の添え物として使う程度でいい。仮に使うとしても、ひとつかふたつ。ゴテゴテと飾りつけるのは禁物です。

「伝わる文章」を書く秘訣(P185)

…日々の心の動きをないがしろにせず、自分の内面に目をとめて、それを言葉として残しておくこと以外にないのです。

*1:うしろのメモでは、漢字・かなの使い分けが原文そのままではありません。ご了承ください