佐藤可士和さんのことを調べていたらたまたま見かけた本。面白そう、と思って図書館で予約した。ずいぶん待って、やっと読めた。
もともとインタビューを読むのが好きなので、一流の人との対談がまとめられたこの本は至福と言ってもいいくらい楽しかった。
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もともとは集英社の雑誌『UOMO』連載の対談「可士和談義」をまとめたもの。
「会いたい人に会う」がテーマだったそうで、一流の人同士のかけ算がどんどん広がっていく。私自身好きな人、心惹かれる人もたくさん登場するので、ワクワクしながら読めた。
登場するのは次の方たち(敬称略)。
柳井正(ユニクロCEO)
松井冬子(日本画家)
佐渡裕(指揮者)
来栖けい(グルメ評論家)
矢沢永吉(ミュージシャン)
大和悠河(宝塚歌劇団・宙組トップ)
山本宇一(空間プロデューサー)
中村勇吾(Webデザイナー)
岡田斗司夫(評論家)
松井龍哉(ロボットデザイナー)
古田敦也(野球解説者)
松井啓介(フレンチシェフ)
真矢みき(女優)
片山正通(インテリアデザイナー)
勝間和代(経済評論家)
千住博(日本画家)
諏訪内晶子(バイオリニスト)
SANAA(建築家)
假屋崎省吾(華道家)
石田衣良(作家)
辻口博啓(パティシエ)
茂木健一郎(脳科学者)
武田双雲(書道家)
滝沢直己(ファッションデザイナー)
森田恭通(デザイナー)
蜷川実花(フォトグラファー)
村上隆(アーティスト)
手嶋龍一(外交ジャーナリスト)
村治佳織(ギタリスト)
タイラー・ブリュレ(エディター)
岸田周三(フレンチシェフ)
特に面白いと感じたのは、活躍する世界はそれぞれ別なのに、可士和さんが著書で言われていることと共通する点が多かったことだ。これは可士和さん自身が書かれている。あれ、この話この前の対談でも出てきたな、ということがあり、バラバラではなくひとつのまとまったストーリーとしても読めるところがすごい。
また、全体を通して漢字とひらがなの選択が非常に素晴らしく*1、気持ちよく読めたのはそれも大きかった。
お互いにリスペクトしている対談は化学反応のようにどんどん深まっているのに、ごく一部可士和さんを単なるインタビュアーのように扱っている人がいて、それが少し残念。
興味のある人だけ読むのでも充分楽しめる。お近くの図書館にあればぜひ!お勧めです。
私のアクション:「当たり前のこと」に疑問を持つ。自分流に変えてみる
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
山本宇一さん(空間プロデューサー)(P46)
…自分がこの街に欲しいと思うものは、きっと皆も次に欲しくなるだろうと思ったんです。
(可士和)その感覚って大事ですよね。自分だったらこういうのが欲しいな、こんなのがあったらいいのにって、ふだん、普通に思うことが、実はみんなも求めているものだったりすると思うんです。
(中略)
アイデアを考える時も、世の中にないものを作ろうという思考回路では成功はむずかしい。世の中にないものを懸命に探し、つくろうとしがちなんだけど、これは危険な発想です。なぜそれが世の中にないのか、そこを冷静に見極めると、“必要性がないから”とか“みんなが求めていないから”とか、まっとうな結論に達することが多い。
岡田斗司夫さん(評論家)(P60)
大好物でも「爆発的においしい」のは最初の3口くらいまで……。4口目、5口目あたりからは「確かにおいしい」に変わります。おいしいけど最初ほどの感動はなくなってくる。
(中略)
おいしいとあまり感じなくなったら、その瞬間が飲み食いをやめるタイミングです。でも、食べ始めたら途中でやめるのってむずかしい。だから食べる前に「どこでやめるか」、限度を決めておくことが大事。僕はポテトチップスでも、極上の5枚だけ選んで、残りは水をかけて捨てました。あればつい食べちゃうから。
レコーディング・ダイエットは、言わば「思考法の転換」でもあるんです。当たり前のような習慣や仕組み、制度などに疑問を持ってみる。おかしいと思ったら自分流に変えればいいのです。それができるようになると、もったいないからといって残すこともなくなり、ダイエットも辛くなくなります。
実は僕、ダイエット後、『佐藤可士和の超整理術』を読んで、部屋の片づけを始めたんです。1ヶ月前まではこの事務所もものがあふれていて、ものの中で暮らしている感じでした。でも、余分な脂肪をとって体をスッキリさせることと、余分なものを捨てて部屋をスッキリさせることって、同じじゃないかと思って……。どちらも「状態の変化」ですよね。
日常的にものを整理することで、その度胸が養われる。可士和さんの整理術は、「度胸を身につけろ」と言っているのと同じですよ。この「度胸」って、仕事の成功に必要な能力のひとつではないでしょうか。
古田敦也さん(野球解説者)(P78)
(野村)監督は「変化が進化」という言葉もよく言っていました。誰もが進化したいと思っているけど、そのわりに変化を嫌う選手が多い、と。変化しない限り進化はない。自分のプレーに自信があっても、そこに固執して同じことをずっと続けていたのではダメ。新しいことを取り入れて変わる勇気を持たないと成長はしないと、よくおっしゃっていました。
(可士和)試合で結果を出すには、何が一番大切だと思いますか?
結論から言うと、プロセスを大事にする以外、方法はないと思います。シーズン中は毎日が勝負でしょ。……勝つためには、打席に立つまでにどれだけのことをやってきたか、そのプロセスにかかってくる。キャンプ中でも、コンディションを最善の状態に整えてシーズンを迎えると、やっぱりよい結果が出るんです。
スランプをいかに抜け出すかは、焦らず、打てる球だけを打つことに尽きます。「ここは我慢、我慢」と自分に言い聞かせ、打ちたい気持ちを抑える。相手のキャッチャーも、「こいつ、打ちたがっているな」と踏んだら、ボール球を振らせようとしますからね。その術中にはまったら負け。落ち着いて、確実に打てる球をまつ。ダメな時ほど我慢が必要なんです。
真矢みきさん(女優)(P87)
…無駄を削ぎ落とすことかな。ダンスでも演技でも本当にうまい人は無駄な動きがない。
「真矢みき」という名前は、私が怠けたら怠けただけ価値の低い名前になる。「真矢みき」を生かすも殺すも自分次第。だから自分に恥じないよう今を生きて、いつまでも純度の高い「真矢みき」でいたいですね。
片山正通(インテリアデザイナー)(P88)
(可士和)…売れるものと売れないものとの境があるとしたら、それは何だと思いますか?
「本物」かどうかでしょう。他のものを真似しているような“っぽいもの”というのは、こうした不況時には淘汰されていくと思いますよ。
千住博(日本画家)(P107)
※21世紀に生きる芸術家の役目とは
いかにエゴを捨てるか、そこに真理があると思うんです。これこそが普遍性への鍵穴です。世の中が何を必要として、人々が何を求めているのか、自分もそのひとりとしてそれを自覚し、見失ってはいけない大切なことをメッセージとして伝える。
石田衣良(作家)(P130)
(可士和)石田さんはどうしたらサバイバル戦に勝ち残れると思いますか?
(中略)
それと、余裕がある人ね。いつも8割か9割の力で勝てるような余裕がないと、長期戦で走り続けて、しかも結果を出し続けるのはむずかしいですよ。
(可士和)持続していく忍耐力も、生き残る条件のような気がします。学生時代にニューヨークのソーホーに行った時、当時50代の画家に「アーティストになる条件は何ですか?」と聞いたんです。即答で「コンティニュー」って言葉が返ってきた。
辻口博啓(パティシェ)(P136)
スイーツづくりはスピードが命。感性に従って勢いよくつくったお菓子は、迷いがないぶん、余分なものが削ぎ落とされているんです。悩んで作ったものは味にも迷いが出て、どうしても偏りが出てしまう。
僕、迷ったり悩んだりはなるべく避けたいと思っているんです。そんなことに時間を費やすのがもったいない。自分で自分を苦しめているだけで、そこからは何も生まれない。そんな時間があれば、新しい味の追求にチャレンジしたいですよ。
最終的には味で勝負です。食べたらすぐわかるじゃないですか。その質を維持するのは、結局は自分との戦いなんですよ。偉そうに聞こえるかもしれないですけど、常に襟を正して、挑戦と進化をし続ける姿勢がないと、いつかは飽きられてしまいますよね。
茂木健一郎(脳科学者)(P143)
少しでも長く目立ち続けていくには、どうしたらいいんですかね。
(可士和)うーん、それには「強度」が大事かな。斬新で強烈なインパクトというより、デザインそのものに強さがあるもの。奇をてらっておらず、シンプルなのに、どこか人の心をとらえて離さない「強度」をもつデザイン。そういう強さがないと成り立たない。
間口の広さって、深い問題ですね。わかりやすいと、間口は確実に広がる。イエス・キリストなんて「愛が大事」だとか「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」だとか、あんなにわかりやすい言葉で宗教を語ったからこそ、多くの人に広まった。間口は広いが、レベルは落ちていない。そういうものが広まるんです。
滝沢直己(ファッションデザイナー)(P157)
(日本は)トレンドをガーッと取り入れたかと思うとパッと捨てて、で、次にいこうぜっていう、そこが日本人のカッコいいところなんですよ。
(可士和)それって飽きっぽい日本人の欠点だと思っていましたけれど。
新しいものを受け入れるために古いものを捨てる。それが潔くできる民族って世界でも稀少ですよ。日本人の柔軟性をもっと誇りに思わないと……。
蜷川実花(フォトグラファー)(P163)
私が仕事で重点を置いているのが、頼んでくれた人が満足してくれるかどうかということなんです。次に、読者とか受け手の人が好きな写真に仕上げられるかどうか。そしてそれプラス、現場が楽しいっていうのが理想なんです。
*1:個人的ツボにはまっていたとも言えますが