齋藤先生の『読書力』『齋藤孝のおすすめブックナビ 絶対感動本50』で取り上げられていたので、興味を持って読んでみた。
久しぶりに良質のノンフィクションを読めたと思った。
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スピードスケートの清水宏保選手は1998年、長野オリンピックの500メートルで金、1000メートルで銅メダルを獲得。2002年のソルトレイクオリンピックでは500メートルで銀メダルという戦績を残している*1。
この、たった数行で終わる経歴の中に、すさまじいまでの努力と困難が詰まっていたことを、この本で初めて知った。
ソルトレイクで2位になった時、何も知らない私は当時「へぇ、金じゃなかったんだ」と思ったが、実は壮絶な痛みとの闘いがあったという。
長野後から長期取材を続けていた著者は、試合後にわかったことも含めて*2“その時何があったのか”を抑えた筆致で綴っている。実際は「金取れなかったんだ」ではなく、「これで銀が取れるなんて!」だったのだ。
長野オリンピック直後の清水選手の言葉が特に印象的だった。
「僕のアスリートとしての最終目的は、金メダルではないということが分かったんです」
「僕の目的は簡単に言うなら、自分の身体を通して人間の可能性を探りたいということなんです」
だから、著者が見学に行ってあまりの過酷さに涙が出た、というトレーニングも続けられたのだろうか。
レース直前に内臓を上に持ち上げ“収納”してしまう技や筋繊維の1本1本の状態まで把握できるなど、確かに超人的なエピソードも多いが、精神力も人間離れしている。過酷なトレーニングを続ける様子は修行僧のようだ。
著者が清水選手を追いかけたいと思った大きな理由は、自分で「ゾーン(またはフロー)状態*3」を作り出せる希有な選手だったからだ。ゾーンを体験した一流選手は多いが、それはある一定の条件が揃った時に起きるだけで、自ら作り出せる選手は他にいなかったという。
実際に、清水選手がどのようにゾーンに入るのか、そのプロセスも紹介されていて興味深い。
他にも、なぜ身長162センチと小柄な清水選手が2メートル近い欧米の選手に勝てるのか、その方法や考え方などは、競技は違ってもスポーツに取り組む人にはヒントになるのではないだろうか。
出た直後に読めればさらに楽しめたと思うが、今読んでも充分面白い。
スポーツをやっていなくても、アスリート本が好きな人にはおすすめです。
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読書日記:『読書力』
*2:清水選手はレース後の会見まで、自分の状態のことをチーム関係者以外一切話していなかったそうです
*3:くわしくはこちらをご覧ください→Wikipediaフロー