川内選手が走り始めたきっかけはお母さんの特訓だった、というのは有名な話だが、そのくわしいエピソードが紹介されている。
家族の話などもあるが、私がなるほど、と思ったのは家族旅行の話だった。
以前「報道ステーション」で松岡修造さんが取材に行き、「実はロンドンよりも全国の市民マラソンに参加して温泉に入る方が自分の目標としては上」*1と語る川内選手に絶句していたのを見たことがある。
私も不思議だったのだが、実はこれは川内家の行事としてずっと続いていたのだそうだ。
レースと旅行を組み合わせ、家族で出かける。その計画は小学生の時から長男である川内選手の仕事だったという。
だから「生涯現役、市民マラソン参加」が大切なのだ。
中学、高校、大学と川内選手がどんな時間を過ごしてきたのかを読むと、人はこんな風に成長するんだ、というのがわかってちょっとじんとした。
また、非常にクレバーで、長期スパンでものが見られる人なのだということがよくわかる。こんな人だからコーチを持たず、自分で練習して結果が出せるのだろう。
卒業直前まで部活動に打ち込むために「指定校推薦」を狙う。それには内申点が必要なので、1年の時から勉強と陸上を両立させる。
大学を決める時も、自分の実力では箱根の常連校だと出られない。だったらその先の将来も考えて大学を選ぶ。
公務員になることも早い段階で決めていたそうで、履修科目も公務員試験にプラスになるように選び、受験のために学校に行くこともなく、実は国家公務員も合格していたという。
それを、「転勤が多いと好きなマラソンに打ち込めない」という理由で辞退し、地方公務員を選んだそうだ。
ものすごくしっかりした考え方だと思う。
また、自分をよく知っている人だとも感じた。
故障で低迷した高校時代を経て、大学で監督との出会いから陸上の楽しさに再び目覚めたという。実は卒業後も監督からマンツーマンで指導を受けていた時期があったそうだ。だが、目標の持ち方が違うためにいつの間にか袂を分かったという。
監督は大きな目標(=ロンドン五輪を目指せ!)を掲げるタイプ。
でも、川内選手は自分ががんばればクリアできる目標を積み上げて結果を出すタイプ。
私は以前ビジネスセミナーでこの違いを教えてもらったが、積み上げタイプが大きな目標を示されると自分にはできないと思ってとても辛くなるのだそうだ。
他にも、自分は人と一緒に走るのが好きだからと週末は時間をかけても仲間と練習できる場所に行くことや、食べたいものを制限するとマイナスになると考えていること、合宿のプランの立て方なども本当にしっかりしている。
こういう自分をしっかり持つ人は、実業団に行かなくて正解かもしれない。
この本のいいところは、お母さんの話だけでなく、ふたりの弟のインタビューが載っていたり、川内選手自身の講演内容も収められていることだ。暴露されすぎて少し気の毒な面もあるが、こんな人なのね、というのがよくわかる。
この人なら、きっと次のオリンピックには出てくれそうだ。本人が希望するなら。
市民ランナーはもちろん、目標を持ってがんばっているすべての人にヒントになると思う。ぜひ読んでみてください。
私のアクション:メリハリをしっかりつける
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
※いずれも川内優輝選手の講演内容より
メリハリというのは(P128)
抜く時はしっかり抜く、休む時はしっかり休む。それだからこそ、がんばるべき時にがんばれるのです。たとえば人には必ず波がありますが、波のピークを試合に持ってくるには、どうしたらいいか。ピンッと張った紐を想像してみてください。その紐はもう、ピンッと張ったところ以上、上には行きません。でも、波打っている時は、たるみがある分、上にも行けます。人のメンタルもそれと同じだと思うのです。常に張り詰めたままではそれ以上の力を出せませんし、抜き方が中途半端では、いざという時がんばれないのです。
正しい方向に努力する(P134)
僕は、努力は報われてほしいと思っているけれど、努力は裏切らない、とは必ずしも言えないことも知っています。正しい方向に努力しなければ、努力は報われないのです。
「効率」が大切(P152)
「効率」を身につけ、気持ちを高めなければ、どんなに時間をかけて努力したところで、結果にはつながりません。逆に効率さえ身につければ、ポイントを押さえた短時間の練習でも強くなることができる。そして、努力が結果に結びつくのです。
*1:内容はうろ覚えなので、正確ではありません