もともと体が弱い少年時代を過ごし、両親とも早く亡くなった著者が、80歳近くなっても*1多方面に活躍を続ける秘訣は何なのか。著者独自の考え方が興味深く、胸のつかえが下りる気がした。
書いてあることは、基本的に著者がいいと思ってやっていることだ。だが、決して“健康的な”生活を心がけているというわけではない。夜型だし、お仕事がら旅が多いらしく食生活はこちらが心配してしまうほど。でも、精力的に活動を続けられるのは、著者なりの「養生観」があるからだろう。
「自分の健康は自己責任」という考え方が私にはしっくりきた。テレビがいいと言っていたから、誰かがやってみてよかったからと言って、それが自分にも合うかはわからない。逆に、自分がやってみて調子がよくなるなら、誰が反対してもそれを貫けばいい。
著者は自分のやっていることに科学的根拠はまったくない、とたびたび書かれているが、何か不調が起きたら西洋医学・東洋医学などのやり方をよく調べ、最終的には自分の体の声を聞いて決めるという。とても賢いやり方だと思った。
また、著者は腰痛持ちで、長年の苦労と工夫があちこちに出てくるが、腰痛を自分の持病、または一般的な不調に置き換えて読めば深い洞察が得られる。
私は今まで自分を機械のように扱ってきて、養生してこなかったツケが回ってきたのかもしれない、と思った。その時々の扱い方があるのだろう。著者の言う身体語=体の声をきちんと聞けるようになりたい。
さすがは長年書き続けている作家さん、メモを取るだけでも文章の勉強になった。仏教に造詣が深い著者なので、天命やこころのとらえ方などにも話は及ぶ。気軽に読めるのでぜひ手に取ってみてください。この本を読んでから、自分なりの養生訓を作ってみるのもよさそうだ。
私のアクション:深いため息をつく
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
つよさより、しなやかさ(P14)
心の鬱も、体の不調も、ともに生命の大事な働きだと考えたい。つよい心、つよい体ではなく、よくしなう、しなやかな心と体を理想の人間像だと思いたい。
(中略)
折れないためには、突っ張らないことだ。
屈すること、曲がること、しなうこと、それがポッキリ折れずに生き続ける道なのではあるまいか。
腰痛の出る体は、しなる体である。そういう体は折れないですむ。あとはただ、しなり方の工夫をするだけだ。
耳をすまして体の声を聞く(P30)
大切な友達のように心をひらいて自分の体に接すると、体もおしゃべりになってくる。その声は言葉のかたちをとらなくとも、伝えようとしている内容は理解できるだろう。
(中略)
「胃がもたれる」「肩がこる」「食欲がない」「体がだるい」「手足のむくみ」などは、初歩的なメッセージだろう。体はじつに数かぎりない表現で私たちに語りかけてくるのである。
自分の体験と直感は理論的な証明よりも大事(P34)
一般の人にどうであろうとも、自分にとってどうか、ということが問題なのである。
自分の身体語のささやきに従う(P44)
単なる直感やインスピレーションではなく、今自分が気になっている症状について西洋医学から東洋医学、民間療法にいたるまで、勉強してみる。そして、最後は自分の身体語を聞いて、自分で決めるしかない。自分の体の直感にしたがって、行動し、責任をとる、たとえまちがって失敗したら、それはそれで自己責任である。
「気休め」も大事(P64)
…この「気休め」という言葉を、私は文字どおり、「気」を「やすめる」「安らかにする」「安定させる」こと、と考えているのだ。
「病は気から」というではないか。「気」を「やすめる」ことがどれほど大事なことかを私は力説したいのである。
「すべての健康法は気やすめである」、それが私の養生生活の基本であり、出発点なのだ。
私たちは誰とも同じではない(P71)
養生法も、健康法も、長生きの秘訣も、すべては各人各様のただひとつの方法であり、他人の経験は自分の体験ではないのである。
「くしゃみをしたら、よろこべ」(P123)
※整体の野口晴哉の思想では、下痢と風邪は体の大掃除という
…私はこの言葉にとても共鳴した。症状は薬など人工的なもので抑えず、蒸しタオルで温めて、痛みを緩和させる程度にして、風邪を引ききることが大切だという。…注意しなければならないのは、引き終わり、熱が下がったら、しばらくゆっくりしていて、様子を見ながら動いた方がいいという。それが、風邪をきれいに引くことだそうだ。風邪によって、それまでに体に蓄積されていた老廃物、邪気が抜けて、すっきりしてくる。
腰痛はひとつのメッセージだと考えよう(P179)
心と体が、声なき声として送り届けている訴えかけなのだ。
生活習慣か、心のありようか。そのどちらかに問題があることを、ひそかに教えてくれているのが腰痛なのである。それは敵が発射する銃弾ではない。味方のゲリラが送ってくる大事な情報なのだ。その貴重な情報を生かして、心身のよいコンディションを取り戻すのが生きる知恵というものだろう。
*1:1932年生まれ。この本が出た時は72歳