小松成美さんと言えば、あのイチローや中田英寿といった“むずかしい”人たちの心を開くインタビューができるライターとして有名な方だ。
そんな人が、アスリート27人にインタビューしたものをまとめた本。アスリート本大好きな私としては、こんな楽しい本はない。ワクワクしながら読んだ。
重量挙げの三宅宏美選手、卓球の石川佳純選手、競泳バタフライの松田丈志選手に背泳の入江陵介選手など、ロンドンオリンピックで活躍した選手が多数登場する。時期的にちょうどロンドンに合わせて出版されたのだろう。
でも、ひとりひとりに悩んだり苦しんだりした時期があるのだ。私たちは華々しい試合の結果だけを見てわかった気になってしまうが、その結果のためにたくさんの時間や努力が必要だったのだ。そういう、当たり前のことに気づく。
個人的には、荒川静香さんと遠藤保仁選手のインタビューが特に興味深かった。
荒川さんはポイントにならない「イナバウアー」をなぜプログラムに入れたのか。大きく後ろに背中を反らすあの技は見た目の優雅さと違い、呼吸ができないのであとのジャンプに響くのだそうだ。それでも、「これが荒川静香だ」というところを表現したいと思ったという。採点競技からくるさまざまな葛藤を超え、「自分はスケートが好きだ」「美しいものを見せたい」という純粋な気持ちの結晶が、あの金メダルだったのだと思うと、じんとしてしまった。
遠藤選手は、たまたま最近テレビのインタビューで見たことと、2010年のW杯関係の本を何冊か読んで、とても信頼されている選手だということは知っていた*1。そんな人にも、2006年W杯では屈辱的な「1秒もグラウンドに立たなかった唯一の選手」になった過去があったとは。
でも、それがバネになったという。誰にでも不遇の時はあるが、それをどう受け止めてそこから何をするかがその後を大きく分けるのだ。
こんな風に、自分のよく知らない競技に触れる機会にするもよし、よく知っている競技や選手の意外な側面を見るのもよし。読みたい人だけ読んでも楽しい。
ただ、もともと雑誌の連載だったせいもあると思うが、ひとりにかけられるページ数が少ないため、全体に物足りなさが残る。小松さんなのに、もったいない!と思うのは私だけではないと思う。
ロンドンの興奮が冷めないうちにどうぞ*2。
※この本のメモはありません