※文庫版が出ています→『もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)』
ずいぶん前に出た、ウイスキーの本場を訪ねる紀行文。当時はまだ村上さんのほぼすべての本を出るたびに買っていたのに、なぜかこの本は手に取らずじまいだった。
読んでみて、手に取らなかったことを少し後悔した。
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私はウイスキーを飲まない。ウイスキーが好きな人は、この本を読むと無性にウイスキーが飲みたくなるそうだが、何となく気持ちはわかる気がする。
村上さんはお仕事としてスコットランド・アイラ島とアイルランドの蒸留所を訪ね、それを文章にしたものだ。前書きにあるように、他の文章とは少し趣が違ってひとつの本にまとめることがむずかしかったため、この文章だけを1冊にしたという。
今はもうされていないのかもしれないが、ある時期村上さんの小説以外の本に、奥様の陽子さんの写真がよく使われていた。私は陽子さんの写真が好きだったので、この本ではふんだんに見ることができてうれしい。自分も旅行に行った気分になれる。
そして、当然だがおそらく最も自然な村上さんの表情も写し出されている。
昔ながらの製法を守る蒸留所。そこでもくもくとウイスキーを作り続ける職人たち。ウイスキー以外はとりたてて何というものもない島。それを、村上さんがさらりと文章にしている。
不思議だが、そういう何という特徴もないこの本が、手元に置いて繰り返し読んだり眺めたりしたいと思わせる魅力があった。
今は文庫本になっているが、ぜひハードカバーで読んでみてください。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
アイラ島の蒸留所の説明のあとに続くことば(P41)
レシピとは要するに生き方である。何をとり、何を捨てるかという価値基準のようなものである。何かを捨てないものには、何もとれない。