この店の特徴は支店がないことだ。デパートにもごくわずかの催事を除いてほとんど出ることがなく、生ケーキは通販もない。実際にお店に出向いて買うしか方法がないので、お店は毎日長蛇の列だそうだ。
その代わり、お店の一体は庭園のようになり、カフェやチョコレート専門店や教室などたくさんの建物が建ち並び、何時間でも居たくなる場所になっているそうだ*1。
そんな「常識破り」だらけの人気店を築いた小山進さんの初めての本*2。
発想の泉、みたいな本だった。
◆目次◆
■1章:「伝えたい」想いはあるか?――「伝える力」で獲得した世界のショコラ
■2章:丁寧という力を武器にしよう――1本の小山ロールから学べること
■3章:リサーチやマーケティングより大切なこと――「足りている時代」に生き残るには
■4章:人が集まる人になる――自分発信、自分ブランドはこうして作る
■5章:人を育てる――失敗を恐れない、隠さない心が、大きな器を作る
■6章:洗い物も世界一と思って洗う――それは誰かの役に立っているか?
特別ふろく エスコヤマ 小山進 直伝レシピ
冒頭に、フランスのチョコレート版ミシュランといわれる「クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ」で最高位の5タブレット星つき*3を受賞したエピソードが登場する。
出品するにあたり、小山さんは自分のできる精いっぱいのことをするしかない、と決意。今まで培った中からシンプルなものを選び、課題の5種類でひとつの流れを作り出した。さらにていねいな説明書をつけ、品質を保つためにわざわざフランスまでスタッフに持って行かせたという徹底ぶり。
また、同じく2011年にもうひとつの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に出店するために考えたのが“「日本人が創ったショコラ」という世界観”。日本の使い慣れた食材*4を選び、ブースの内装デザインや店頭ディスプレイ、商品のパッケージ、パンフレットに至るまで徹底した。この、「“お菓子は味さえよければいい”ではダメ」「伝えたい想いを持ち、余すところなく伝える」「自分の強みを知り、徹底的に活かす」という姿勢がこの人をほかの人とは違う、特別な場所まで高めたのだと思う。
でも、恵まれていたのか、と言えばそうではない。小山さんは海外での修業経験はない。しかも、これからはそれは強みにならないとまで言いきっているのだ。
16年間勤めていたハイジ*5では、ケーキ職人として働いていたのは8年間である。
喫茶のカウンタースタッフ、営業、商品開発、企画などあらゆる部署に配属され、僕はケーキ作り以外の知識や経験も相当積ませていただいた。
いつの日からか、それこそが「小山進の強み」だと思えるようになった(P40)。
入社後希望と違う喫茶部門に配属されても工夫をし、営業に異動してもコンテストのためにお菓子を作る許可をもらってTVチャンピオン連覇などの快挙を成し遂げる。
著者はそれを「丁寧な力」と呼んでいる。
たとえば――
どんなにつらいことがあっても、
自分の思うとおりにならなくても、
失敗をしてしまっても、
そんなときこそ「丁寧」に仕事をしよう。
「丁寧」が武器になるほど、心をこめて、力を注ごう。
大丈夫。僕がそうだった。
「丁寧」な力は、必ず自分を助けてくれる。
(最初のページ)
僕は、そのときそのとき、目の前にあることだけをただただ一生懸命に取り組んできた。それはケーキに限らず、ケーキのパッケージ、リーフレット、店のレイアウト、庭の作り方、お客様への応対やスタッフの育成など、すべてのことに対してである。今考えると、それが「丁寧な力」であるかもしれない(P8)。
あらゆることを自分の力に変えていく、ものすごい貪欲さを感じた。
そして、もうひとつ特筆すべきなのは、「目が利く」ということだ。
当時「そんなところに店を出しても潰れる」と多くの人に止められた、兵庫県の山奥のニュータウンに出店した時も、プロが否定すればするほど「間違いない」と喜んだそうだ。
「目が利く」というのは、天性のものも大きいが、そのヒントはこの本のあちこちにある。
自分や商品を「差別化したい」人、競争から抜き出たい人には素晴らしい本。
私のアクション:毎日「日誌」をつける
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
自分の中の表現したい想いがあふれるほどになった時に、プロとして独立できる(P21)
自分がケーキを通して何を伝えたいのか、どのようにその想いを伝えればいいのか。
時にはケーキで伝えたいことを、自らの言葉で熱く語らなければならないこともあるだろう。それを高度な技術力をもって具現化できた時に、初めて多くの人に受け入れてもらえるのだ。
海外に行って何かを見つけようとするより、まだ気づいていない日本のよさや自分の強みを見つける方が、今の時代世界で通用する人材になれる(P41)
「どんなものを作りたいか」より「どんな想いを伝えたいのか」(P45)
…エス小山にはコンセプトがない商品などない。すべての想い、つまりストーリーを商品に入れ込む。
まずコンセプトを決める(P45)
若い頃は、こんなものも作りたいと漠然と考えながら手を動かし、作り出したら何とかなると考えていた。けれども、それだと時間がかかるし、何を作ろうとしていたのか途中でわからなくなり、迷路に入ってしまうことがよくあった。コンセプトが決まってから、それを実現するために、どのような味にして、どのような食感にするのかを考えれば、軸が最後までぶれないのだ。
店の場所を決める時、もらったアドバイス(P109)
「小山君、悩む必要はないんだ。君は自分がどこに住みたいのか考えろ。どこで生きていきたいのか、これからずっとどこで生活したいのか、それを考えたらいいんだ」
自分がその場所で何を伝えたいのか明確にならないと、どこで店を開いてもうまくいかない(P136)
自分のできていないところや弱点は、早い段階で認めた方がいい(P167)
その体験をしていないと、自分の人生を決められない30代になってしまう。
時代は「262の法則」から「15%:85%」になっている(P176)
※262の法則=2割の仕事ができる人と、6割の普通の人、2割の仕事ができない人で組織は成り立っている
自分でエンジンをかけて先頭集団を走っていく15%の人と、それについて行く85%の人の二極化になっていると思う。
…自分の立ち位置を意識して、丁寧に仕事をして、人に役に立つ仕事をする。地道な努力だが、それ以外に85%から抜け出せる方法はないと思う。
これからの時代のキーワードは「セルフプロモーション」(P195)
自己表現力が豊かでないと生き残れないのだ。
洗い物でも世界一と思って洗う(P226)
僕が新人の頃は、洗い物をしている時に、世界一の洗い物プレーヤーだと思ってがんばった。
…架空の洗い物コンクールを設定してひたすら洗っていた。
それは、どんな仕事でも楽しみに変えないと続かないからだ。