毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

これからの世の中は「みんなちがってたいへんだ」☆☆☆☆☆

家族が借りてきた本。申し訳ないが私はお芝居にまったく興味がない。ただ、著者の平田オリザさんはテレビのコメンテーターとして時々見る機会があり、柔らかい話し方だがものの見方が鋭くて好きな人だ。
いそいそと読んだら、滅茶苦茶面白い。全編うなりながら*1読んだ。そんな本はなかなかない。


◆目次◆
第1章 コミュニケーション能力とは何か?
第2章 喋らないという表現
第3章 ランダムをプログラミングする
第4章 冗長率を操作する
第5章 「対話」の言葉を作る
第6章 コンテクストの「ずれ」
第7章 コミュニケーションデザインという視点
第8章 協調性から社交性へ

はじめに言っておかなければならないのは、この本は「読めばコミュニケーション力がつく」というハウツーものではないこと。タイトルでそう思って買うと、がっかりするかもしれない。
だが、なぜ今がコミュニケーション不全というべき状態になっているのかが、素晴らしい切り口で語られている。そして、これからの日本で、また世界に対してどんな風にコミュニケーションを取っていけばいいのか、その方向性がはっきりわかる。

 

著者は長年、小学校で演技の授業を指導しているそうだ。また、大阪大学で大学院生(ほぼ理系)相手に、やはりお芝居を使った授業をしているという。
実はお芝居によって、自分と他者は違うということを学び、同じ言葉であっても、人によって意味合いが違うことを学ぶ。それが、コミュニケーションの土台を作るのだそうだ。
そんなわけで、この本は「教育論」でもある。

さらに、実は日本国内よりも先に海外で評価された平田さんの経歴が、グローバルなコミュニケーション能力とは何か、というわかったようでよくわからないこれからの命題を解く鍵になる。
夏目漱石森鴎外が海外で苦しんだその経験を、これからの日本人はほぼ全員がしなければならないという。
でも、それに対する答もちゃんと示されている。

この本はもやもやしたものを、きちんと言葉にして示してくれるので、読むととてもスッキリした気持ちになれる。
「グローバルなコミュニケーション能力」については、水村美苗さんの『日本語が亡びるとき』を思い出した。ただ、平田オリザさんの結論はため息はつきながらも、前向きな力強さを感じる。

これからは、“みんなちがって、たいへんだ”なのだ。
たいへんなんだけど、したたかに生きていくしかない。

 

英会話の勉強も大事だが、その前に読んでおくべき本。お子さんのためにも、自分のためにも(特に海外相手の仕事ではない方も)おすすめします。
私のアクション:「対話の基礎体力」をつける
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
※このメモは、「会話」と「対話」の定義(P95)を要約したのをのぞき、2012年までと同じルールでとっています

人生には、話し合っても結論の出ないことがたくさんある(P50)

話し合う必要のないこともたくさんある。何を話し合い、何はジャンケンで決めていいかを決定できる能力を身につけることが「大人になる」ということだと私は考えている。

「会話」と「対話」の著者の定義(P95)

「会話」=価値観や生活習慣なども近い親しい者同士のおしゃべり。
「対話」=あまり親しくない者同士の価値観や情報の交換。あるいは親しい人同士でも、価値観が異なる時に起こるそのすり合わせなど。

私はこのような日本社会独特のコミュニケーション文化を、「わかり合う文化」「察し合う文化」と呼んできた(P99)

「対話的な精神」とは(P103)

異なる価値観を持った人と出会うことで、自分の意見が変わっていくことを潔しとする態度のことである。

「対話の基礎体力」とは(P105)

異なる価値観と出くわした時に、物怖じせず、卑屈にも尊大にもならず、粘り強く共有できる部分を見つけ出していくこと。

コミュニケーション能力、異文化理解能力が大事だと世間では言うが、それは別に、日本人が西洋人、白人のようになれということではない(P148)

欧米のコミュニケーションが、とりたてて優れているわけでもない。だが多数派は向こうだ。多数派の理屈を学んでおいて損はない。

これからの時代に必要なもうひとつのリーダーシップとは(P183)

こういった弱者(=子どもなど社会的弱者、論理的に喋れない立場の人々)のコンテクストを理解する能力だろう。

いま日本人が直面しているコミュニケーション観の大きな転換の本質とは(P208)

もう日本人は心からわかり合えないのだ……と言ってしまうと身もふたもないので、…私は次のように伝えることにしている。
「心からわかり合えないんだよ、すぐには」
「心からわかり合えないんだよ、初めからは」

「みんなちがって、たいへんだ」(P216)

…成長型の社会では、ほぼ単一の文化、ほぼ単一の言語を有する日本民族は強い力を発揮した。しかし、成熟型の社会では、多様性こそが力となる。少なくとも、最新の生物学の研究成果が示すように、多様性こそが持続可能な社会を約束する。
これからの子どもたちは、「多文化共生」の国際社会を生きていかなければならない。

いい子を演じることに疲れない子供を作ることこそが、教育の目的ではなかったか(P220)

あるいは、できることなら、いい子を演じるのを楽しむほどのしたたかな子どもを作りたい。

人間は、演じるサルである(P221)

※ゴリラは、父親になった瞬間に「父親」という役割を演じる。しかし、同時にいくつかの役割を演じ分けることはできない。
人間のみが、社会的役割を演じ分けられる。

*1:「へーっ」とか「なるほどねぇ」とかずっと言ってました…