先に読んだ『チャンスに勝つ ピンチで負けない自分管理術(幻冬舎文庫)』が面白かったので、メジャー移籍後のことをまとめた自伝的なこの本も読んでみた。
イントロダクションやあとがきで、スポーツライター・生島淳氏が絶賛しているだけのことはある。野球選手が引退後に出す一般的な本*1とは違い、とても濃い1冊だった。
◆目次◆
イントロダクション ようこそ、適者生存の世界へ 生島淳
第1章 アメリカへの憧れ
第2章 NOMOの衝撃―いよいよアメリカへ
第3章 一年目の記憶
第4章 メジャーリーガーの生活
第5章 逡巡と、成功と―1997~2000
第6章 アメリカと日本の間にあるもの
第7章 イチロー君へのメッセージ―日本人がメジャーで成功する条件
第8章 適者生存―アジャストメントに必要なこと
第9章 未来へ
あとがき 「適者生存」を振り返って 長谷川滋利/神に祝福された能力 生島淳
長谷川氏は2005年シーズンを最後に現役を引退しているので、ご存じない方もいらっしゃるかもしれない。
どんな選手だったかを簡単に言うと、実績がある割には目立たないタイプの投手だった、と思う。オリックスでプレーしている頃、私はかなり熱心にパリーグを見ていたので、よく知っている選手のひとりだった。
そのはずなのに、今回この本を読んでみて、ドラフト1位で入団していることも、新人王を獲っていたこともまったく覚えていなかった。申し訳ないが、ご自分でも書かれているように「そこそこの選手」という印象だった。
日本のプロ野球選手がメジャーに移籍した場合、「思ったより活躍しない選手」と、「予想以上に大活躍する選手」に大別できる。長谷川氏は後者だった。
日本でそこそこレベルの投手。しかも、日本では先発だったのに、エンゼルス移籍後わずか1試合投げただけで中継ぎに降格されてしまう。普通だったら鳴かず飛ばずで帰ってきそうなパターンだ。
しかし、そこから快進撃が始まるのだ。日本にいた時よりも球速は速くなり、クローザーもつとめ、素晴らしい成績を残す。しかも、通訳なしでヒーローインタビューに答えられる英語力。
いったいどうやってそこまで行けたのか。それがこの本で明かされている*2。
生島淳氏に言わせれば、アメリカで成功を収めるのは強者ではないという。それはあだ花でしかないそうだ。
それよりも常に成功への強い意思を持ち、アメリカという国に「適合できる人間」、すなわち適者こそがアメリカで生き残れるのではないか、というように思うのである。
イントロダクションより(P14)
そして、長谷川氏は適応力の高さで生き残った人だと位置づけている。
「鳴かず飛ばず」で終わるか、「適者」になるか。それを分けたのが、この考え方だったと思う。
重要なのはセットアップに転向したことをメンタル的にも素直に受け取って、そのあと腐らず、真面目に役割に取り組んだことだったと思う(P75)。
必死に適応しようとしたのは、アメリカで野球をしたい、もっと言えばアメリカで生きていきたいという強い気持ちがあったからだという。
具体的な例もたくさん出ているが、本当に賢さは武器になるのだ、ということがよくわかる。
自分が適応力を発揮して生き残ろうとしたのは、自分には絶対的な長所がなかったからだと思う。長所を伸ばそうにも、伸ばすべきすごい長所を僕は持っていなかった。だからこそ、状況に応じてアジャストメントし、全体的なレベルアップを図ろうとした。そして一点で特化するのではなく、バランスのいいピッチャーになろうと心掛けてきた(P172)。
下のメモにもあるが、アジャストメントのためには3つのポイントがあるそうだ。中でも最も重要なのが実行力。
長谷川氏は、おそらく幼い頃から実行力が高い人だったのだろう。
…小学校の頃から、夏休みの宿題の計画を立て、それを実行するのが好きだった。何も勉強が好きだったわけではない。計画をそのまま実行することが好きだったのだ(P170)。
3歳年上のお兄さんに追いつきたくて、計画を立てて実行という習慣が身についたのでは、と書かれているが、これは本当に大きな武器だ。
ふたたび、あとがきでの生島淳氏のことば。
…長谷川滋利はどこまでも自分を客観的に見つめられる人間である。
「自分は超一流にはなれないが、一流にはなれる」
という言葉は、なかなか吐けるものではない(P187)。
この素晴らしい自己認識力と、最適な処方箋を作る力、そしてそれを続ける実行力。
3つ揃う人はなかなかいないだろうが、自分に足りない部分を冷静に見つめることから始めるだけでも、きっと違うはずだ。
やみくもに努力しても結果はなかなか出ない。最適な努力のためのヒントがここにはあると思う。
その他大勢から抜け出したい人、自分をワンランク上げたい人には役に立つ本です。野球好きなら迷わずどうぞ。
私のアクション:自分に足りない部分を冷静に考えてみる
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
立命館大学・中尾監督の言葉(P29)
「選手がプロでやっていけるかどうかを判断する基準に、プロに入って『アジャストメントできるかどうか』という面を見る。新しいレベルに飛び込んで、適用できるかどうかを俺はいつも見てる。」
2回失敗しても、3回目は失敗しない(P105)
考え方としては、長いシーズンだから2回悪いピッチングが続くことはよくある。しかし3回目に踏みとどまれば、シーズンを通してはいい活躍ができると思った。
120%出そうとする人間より、常に80%の力を出せる人間が勝つ(P161)
…大事な場面でもメンタルトレーニングの技術によって、自分が120%の緊張感を持つような状況でも、気持ちを落ち着かせ、80%の力を保った方が体のパフォーマンスも上昇するし、状況に対してもアジャストメントしやすくなる。
アジャストメントできる人の3つのポイント(P166)
1.自分の欠点がわかる
…ここで大切なのは、自分に足りない部分を、自分で理解しなければならないということである。ある意味、自分の欠点と向き合う行為、粗を探すことにもつながるかもしれない。
(中略)
しかし最初から欠点を知ることは不可能である。実際に試してみて、初めて自分の欠点が見えてくる。
2.自分の欠点を克服するための対策=処方箋を作る
3.対策を実行する
自分で書いた処方箋を、自分の力で実行する。それがアジャストメントが完成する瞬間である。
障壁はチャンスを生んでくれる(P168)
壁にぶつかることは、成長する上で欠かせないものなのだ。
*1:この本はMLB在籍中に書かれたもので、当時はまだキャリア半ばでした
*2:英語力に関しては別の本『メジャーリーグで覚えた僕の英語勉強法』が出ています