毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

日本プロ野球の「問題」は、日本産業界と同じ☆☆☆

日本プロ野球改造論 (ディスカヴァー携書)
並木 裕太
ディスカヴァー・トゥエンティワン(ディスカヴァー携書)(2013/03/16)
¥ 1,050
家族が借りてきた本。簡単に言えば、経営コンサルタントが見た日本プロ野球界の問題点と、その改善策を示したものだ。
ややとっつきにくかったが、読んでみたら案外面白かった。


◆目次◆
はじめに
□第1章 その差は、「リーグビジネス」と「チームビジネス」
収入格差4倍! 米メジャーと日本プロ野球の違いはどこに?
リーグビジネス」を世界に広げる米メジャーの成長力

徹底した戦力均衡で観客を呼び込むメジャー
スポーツ・エンタテインメントとしての商品価値を高める

メジャーリーグを拡大させるリーグビジネスの中身
四つの会社が30チームを養う

米メジャーと日本プロ野球コミッショナーの違い
優れた経営手腕を発揮した二人のコミッショナー

□第2章 現場はどう見ているのか? プロ野球ビジネスの危機感と希望
「放映権のセ」と「スタジアムのパ」
チーム経営の差を生む「スタジアム・ビジネス」

「このままではまずい」と、さすがにみんな感じはじめています
横浜DeNAベイスターズ取締役事業本部長・前沢賢氏に聞く

プロ野球の可能性は「野球という狭い世界」の外にある
北海道日本ハムファイターズ事業本部長・成田竜太郎氏に聞く

ファンとの微妙な距離感の演出をAKB48から学びたい
東北楽天ゴールデンイーグルス事業企画部長・根岸友喜氏に聞く

□第3章 現状を変えていくメジャーと、現状に固執する日本
年間550億円の放映権でも「安い買い物」
ESPNとメジャーが結んだ大型契約の中身

ロンドン五輪は「ユベロスモデル終焉」の大会に?
ネット中継と時差との親和性

ロンドン五輪は本格的ネット中継への転機だった
NBCの特設サイトは20億PV、当初の予想を覆し黒字を達成

□第4章 求められるのは、成長のためのミッション
熱い韓国プロ野球。女性、若者が大挙スタジアムへ
対する日本はさらなる空洞化問題

さらに儲かるビジネスになったメジャーリーグ
進化するチケット販売、放映権契約も絶好調

メジャーの世界戦略に飲み込まれる日本プロ野球
求められる新しい成長のミッション

おわりに

著者はすでに、北海道日本ハム東北楽天東京ヤクルトなど複数の球団に経営面からのアドバイスなどをしている人だ。
楽天の島田球団社長(当時)にメールで連絡を取ったところ、その後球団運営をサポートするようになったという。その島田社長の後押しで、何とNPBのオーナー会議でプレゼンまでした*1という、びっくりするような経歴もお持ちだそうだ。

外からNPBに関わるようになり、経営コンサルタントの目で見た問題点がいろいろ載っているのだが、これが面白い。さすがはやはり元マッキンゼー

豊富なデータをもとに、1995年頃にはほぼ同じ規模だったMLBとNPBが、なぜこんなにも差が開いたのか(15年後の売上額はおよそ4倍)、それを探っていく。

著者が挙げていた中でも特に印象に残ったのは

  1. MLBは基本的に拡大路線
  2. チーム間の力の均衡が、野球を面白くする=ファンサービス向上につながる、と考えその策がたくさん用意されている
  3. コミッショナーの権限が強く、改革が成功している

こと。

確かに、NPBは全部逆を行っている。

  1. 球団を合併させて数を減らそうとしていたのは記憶に新しい(某球団のオーナーは10か8に減らすつもりだったらしい)
  2. 資本力のある某球団が好きなだけ選手を集めてしまい、チーム力の差が開きすぎる
  3. コミッショナーは某球団オーナーの意図で決まり、権限のない単なるお飾り*2

と、何だか某球団に牛耳られているようだ。

MLBの拡大路線はすさまじい。これを読めば、なぜアメリカ国内でほとんど人気のないWBCをやるのか、その捉え方の違いがわかる。
さらに恐ろしいことには、このままNLBの人気がじり貧になれば、「メジャーの下部組織」になってしまう可能性があるのだ。

メジャーが極東地区リーグを作って、日本人選手を含むアジアのスター選手とメジャーリーガーをプレーさせ、極東地区の優勝チームがメジャーのプレーオフに参加するような仕組みをつくったら、日本のプロ野球はどうなるのでしょうか(P38)

日本に残る選手はメジャーの下、3Aクラスだけになってしまう。

ネットに対する放映権の考え方もMLBとNPBはまったく違う。確かに、もっとビジネスの観点から考えられる人をコミッショナーにしたり、リーグやNPB全体の発展を考えて改善に取り組まなければ、今のようにプロ野球を楽しむことはできなくなるかもしれない。


しかも、著者が訴えるNLBと日本産業の抱える問題は同じ、日本プロ野球は、日本産業の縮図という言葉が重くのしかかってくるのだ。

今、日本プロ野球は何が問題なのでしょう。
結論からいうと、ビジネス界(特に日本のビジネス界)でも頻繁に直面する問題ですが、「既得権益者による現状維持へのこだわり」「変化への産業全体の抵抗」「事情が異なるという理由づけによる先駆者の知恵の否定」などが挙げられます(P227)

過去の成功体験にしがみつき、変化を嫌い、世の流れを知る努力をまったくしなかったために、海外製品に太刀打ちできなくなってしまった業界、たとえば家電などにそのまま置き換えられる。

プロ野球もビジネスである以上、発展していくためにビジネスマインドは必要だろう。
それがないからWBCの権利問題が起き、選手会からボイコットされるのだ。


野球はいいコンテンツでありながら、それを上手に売ることができていないのも問題だし、自分のチームだけではなくリーグ全体の発展を考えているかどうかで今後は大きく変わると思う。
本書でも随所に出てくるが、実は危機感を持っているのはパリーグの方で、MLBに近いシステムを導入したり、検討も行っているパリーグと、自分のチームを強くすることしか頭にないセリーグの差は、今シーズンのゲーム差にそのまま表れている。混戦の方が見る方は面白いのだ。

この本は野球を題材に、経営コンサルタントの考え方や経営方針の決め方などを学ぶ教材として読むことも可能だ。
好きなチームの勝ちは大事だが、プロ野球界全体の発展も気になる、という方はぜひ読んでみてください。
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読書日記:『ビジネス・マネジメント・スタジアム』
※この本のメモはありません

*1:もちろん、部外者のプレゼンは初めてだったとか

*2:というのは「飛ぶボール問題」でもよくわかりましたよね