毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

名人芸を堪能する☆☆☆

「編集手帳」の文章術 (文春新書)
竹内 政明
文藝春秋(文春新書)(2013/01/20)
¥ 767
以前、『名文どろぼう』という本を読んで面白かったので、同じ著者の書いた「文章術」も読んでみた。
名人芸すぎて素人がまねをしてみよう、というレベルではないが、単純にいい文章を味わって読むだけでも楽しめた。


◆目次◆
猫の水泳談義 ――はじめに――
第1章 私の「文章十戒
第2章 構成、畏るべし
第3章 「出入り禁止」の言葉たち
第4章 耳で書く
第5章 ここまで何かご質問は?
第6章 引用の手品師と呼ばれて
第7章 ノートから
猫のひとりごと ――おわりに――

タイトルにもあるとおり、著者は読売新聞の1面コラム「編集手帳」を書いている人だ。6代目の執筆者で、担当して今年で11年になるという。
この人の文章にはファンも多く、あの池上彰さんもそのひとり。私が著者を知ったのも池上さんの本だった。新聞の文字を大きくするたびにコラムの文字数は減ることになり、2008年の削減時には池上さんがご自身の持つ他社の新聞連載(!)で嘆いたそうだ。

各社のコラムの文字数一覧が出ているが、現在もっとも少ないのが「編集手帳*1。文字数を少なく、しかし意味はしっかり伝えるための苦労が面白い。
書き出しで読者を引きつけるために小説や脚本を参考にしたり、意味を凝縮した表現を模索したり。

それぞれのテーマごとに、実例として「編集手帳」が全文読めるのも興味深い。読売新聞の読者以外はほとんど読む機会がないので、やはり実際のコラムを読むのが一番よさを堪能できる。

私が一番楽しく読めたのは「使わない表現」の話。「出入り禁止」の言葉たち、としてたくさん挙げられているが、なるほどねと思うもの、へぇそんなものかと思うもの、そこまで気にしなくても…、がだいたい3分の1ずつだった*2
著者も、自分は使わない表現でも、他の人が使うのは気にならないそうなので、その辺は好みによるものなのかもしれない。
これはそのまま受け売りをするのではなく、この機会に自分の好みを整理して、その理由も考えてみるのがよさそうだ。

さらに、引用の魔術師の異名を取る著者の、仕込みの方法も公開されている。気になる表現があったらこまめに収集されているそうだ(詳しい方法は下のメモをごらん下さい)。コピーを取ったものをバインダーにとじているそうで、その数はすでに300冊を超えているのだとか。第7章は、コレクションを一部公開したもので、ここだけ読んでも面白い。
やはり一流とされる人は、それだけの努力を続けて来られているのだ。


ただ、「文章術」というタイトルになっていて、具体的な方法を紹介してあるものの、レベルが高すぎて実用には向かないかもしれない。この通りにやったら、上手くできたとしても文章が美々しくなりすぎてたぶん浮く。
たとえて言うなら、一流シェフが出した「家庭でもできる料理本」のようなものだ。下ごしらえだけで素人はへとへとになるほど手が込んでいたり、簡単そうに書いてあるけどいざやろうとしたらお手上げ状態、というのに似ているかもしれない。
結局「おいしそうだよね」と読むだけでおしまい、になってしまう。

レシピは読むだけでは味わえないが、幸い文章は読むだけでも充分味わえる。
名文の裏にはどんなことが隠されているのか、それを知りたい方はぜひどうぞ。
ノウハウ収集が一番の目的だと、ちょっともったいないかもしれません。
私のアクション:著者のお気に入り作家たちの文章*3を読んでみる

関連記事
読書日記:『名文どろぼう』


以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。

作家井上ひさしさんが色紙に揮毫されたことば(P)

むずかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに
書くこと

引用の仕込み「どこの馬鹿」(P198)

※「読書」「コピー」「ノート」「バインダー」「カード」の頭文字を取ったもの
1.読書
知識の幅を広げるために以前著者がとっていた方法。新書コーナーの棚の前に立ち、自分の決めた数字ごとに書棚から本を抜き取っていく(たとえば8冊ごと)。全く興味のない分野の、生涯たぶん手に取ることのなかった本を買ってしまう。買った以上は、もったいないから読む。
2.コピー
本を読んでいてこれはという箇所があったら傍線を引き、ページの端を折っておく。読み終えたら、折ったページを表紙とともにコピーする。
3.ノート
読んだ本の中から、コピーとは別にノートに書き写すものも。ちょっと気の利いた言い回しや、うまい表現など。表現のコレクションを収蔵するためのノート。
4.バインダー
コピーしたページはバインダーに綴じ込む。
5.カード
どのバインダーに何をとじ込んだかわからなくなるので、とじ込む時にテーマ別の索引カードに書き込む。(例に挙げられていた、吉川英治の酒の歌なら)<酒><吉川英治>という2種類のカードに詩を書き込み、バインダーの番号を記録する。
あとで酒をテーマにコラムを書く時、あるいは吉川英治をテーマにコラムを書く時、カードを見ればその歌に再会できる。索引カードの整理には名刺ホルダーを使用。

*1:一番多いのが産経新聞産経抄」689文字、「編集手帳」は458文字

*2:例)「就活」は「就職活動」と書く、はなるほど。「立ち上げる」が嫌いで「パソコンを起動する」と書く、にはそこまでしなくても、と感じました

*3:井上靖の詩集、阿川弘之大岡信、関容子、京須偕充(きょうすともみつ)、外山滋比古佐藤俊樹安野光雅豊田泰光、石井英夫、川村二郎、河谷史夫、高田宏、坪内祐三田勢康弘(肩書き、敬称略)