毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

プロデューサー・鈴木敏夫をあぶり出す☆☆☆☆

風に吹かれて
鈴木 敏夫(聞き手:渋谷陽一
中央公論新社(2013/08/10)
¥ 1,890
ネットでうろうろしている時に知った本。先月出たばかりの本だったが、地元の図書館にリクエストしたらすぐ入れてくれた。
必ず、宮崎駿監督の隣にいる鈴木敏夫さん。プロデューサーという肩書きだがどんな仕事をしているのか、また今回の「風立ちぬ」についてもたくさん語られていると知り、楽しみに読んだ。
かなり分厚い本なのだが、一気に読めた。そのくらい、面白かった。


◆目次◆*1
1 スタジオジブリヘの道、そして三〇年
大矛盾
実人生を降りるな
鈴木敏夫鈴木敏夫になった瞬間
映画制作・興行の成功の法則
全国の映画館をジブリ一色に染める ほか
2 いつも今!―スタジオジブリの現在
常に新鮮 今を生きる、過去を忘れる―『崖の上のポニョ』誕生秘話
誰も読んだことのないジブリ史―作品作りを支えるもの
新しいジブリが始まる―必然的に起きた奇跡
僕に与えられた宿題―宮崎駿が試写で泣く
庵野秀明を語る―「誰も知らない」庵野秀明 ほか

実は、この本を手に取るまで知らなかった(情報として出ていないかも)のだが、この本はインタビュー集であり、インタビュアーは渋谷陽一さん。あの、洋楽ファンなら知らない人はいない渋谷陽一である。
「何で渋谷さんが?」と思ったが、このふたりは旧知の仲で、渋谷さんの雑誌で何度も鈴木さんをインタビューしているのだそうだ。

雑誌掲載分だけでも充分本になる分量はあったが、せっかくだから、とこの本のために新たにインタビューをしたという。その部分がめっぽう面白い。
なぜなら、これまでほとんど語られたことのない鈴木さんの生い立ちから雑誌「アニメージュ」創刊までのところにずいぶん力を入れているからだ。
これは渋谷さんの意向。渋谷さんは「鈴木さんの天職はプロデューサーだ」説を強く持っていて(鈴木さん本人は否定)、それを裏付けするために生い立ちを聞きたかったらしい。

お互いをよく知っているからできる深い話が興味深い。おそらく、他では話さなかったであろうこともこの本にはたくさん出ているはず。
さらに、プロデューサーという客観的な分析が仕事の人を渋谷さんが客観的に分析するところが多々あり、まるでカウンセリングのようでとても面白かった。


何だかもう、破天荒で無茶苦茶なエピソードばかり。出会いは最悪で、「売られたケンカは買う」形で毎日宮崎さんのところに出かけていって隣に座っていたとか、ジブリのプロデューサーになったあともずっと徳間書店の編集者と掛け持ちしていたとか、公開に間に合わないからと未完だった「火垂るの墓」を鈴木さんが編集して封切りしてしまったとか*2、資金が足りなくなって慌てて日本テレビに駆け込んだとか、読んでいるこっちがハラハラドキドキしてしまう。

読み進むうちに思ったのは、宮崎・高畑監督はクリエイターとしては超一流だが、いろいろと現実面で“欠けて”いる点があり、鈴木さんがいなければその作品はコンスタントに世には出ていなかっただろう、ということだ。
やはり、鈴木さんは生まれついてのプロデューサーだったのだ。


この本はプロデューサー論としても読める。監督の一番の理解者であり、そしてそれがビジネスとして成り立つ形にしなければならない。蟻の目と鳥の目を同時に持つことが求められる仕事だ。
鈴木さんは宮崎監督が1年以上も温めていた企画を「嫌だなと思って」一瞬でつぶしてしまったりする。
その一方で、ポニョで宮崎監督の“老人化”を心配し、実は監督が一番興味のあった戦闘機の映画を「まだ作ってないよね」と暗に勧めたのも鈴木さんだった(これが「風立ちぬ」のきっかけ)。
やはり、鈴木さんの存在なしにジブリの作品はできていないと思う。


興味深かったのは、「ポスト宮崎駿」問題。後継者というか、宮崎監督以外にも監督を育てたい、と当然早くから鈴木さんは考えていたし、さまざまな手を打った。
だが、これがなかなかうまく機能しない。それどころか、ボスザルの新旧交代劇のような宮崎監督の行動がすさまじい。それを、オープンに語る鈴木さんもすごい。

もちろん、最新作「風立ちぬ」の話も満載で、興味がそれだけでもたっぷり楽しめる。


人は誰かと一緒に居ることで「化学反応」が起きるという。それは両監督と鈴木さんの間でもそうだし、鈴木さんと渋谷さんの間にも起きている。
読みながら、人間っていいな、面白いなと思った。

すべてのジブリファンはもちろん、1本でも好きな作品がある方は必読です。
私のアクション:まだ見てないジブリ作品(けっこうある)を見てみよう
※この本のメモはありません

*1:すみません、本を返却してしまったので、ネット上にある情報(不完全バージョン)です

*2:高畑勲さんは「締切が守れない」のが問題点だそうで、この本の中では「風立ちぬ」と同時公開(7月)のはずだった作品が、まだできていない模様…