毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

小林秀雄の目を通して「印象派」を見る☆☆☆☆

 

図書館で借りたものの、大苦戦。何しろ、小林秀雄だ。

 

◆目次◆
(昭和33年)
近代絵画
「近代絵画」著者の言葉
平凡な寄稿家
私の空想美術館
幸田文全集」
写真
マルロオの「美術館」
蓄音機
ゴッホの病気
論語

高校3年の時、とても変わった授業をする現国の先生がいた。小林秀雄の文章を、因数分解のように細かく分けて解説する。ある行の「は」と「が」の違いだけで授業時間まるまる使えるくらい濃い文章、と教わった。
その先生は「小林の文章は、3行読んだだけでお腹いっぱい」と言われていた。

何度も借り直したが、さすがにずっと借りているわけにいかないので、なかば消化不良になりながら駆け足で読んだ。
それでも、充分読む価値があった。

 

この本も、今までに読んだ印象派に関する本のように、たくさんの手紙や文章が土台になっている。しかし、解説に書かれていたことが本当ならば、『近代絵画』の内容のほとんどが、“小林秀雄が見て感じたもの”なのだ。それが一般的な伝記などと違い、とても新鮮だった。

以下のふたつの引用は中村光夫小林秀雄論』より※巻末に掲載されています

 これは今日の研究、伝記、あるいは評論とかなり距たった(へだたった)性格のものです。
 研究は云うまでもなく、伝記や評論も、現代では文学よりむしろ科学に近いものとされているからで、少なくも、その信憑性は科学性に求められるのが常識です(P119)。

…氏が目指すのは、絵の解説でもなく、美術史でもなく、彼等の作品に氏の見て取った「人間劇」の再現であるからです(P118)。

 氏の論文は手堅い実証的基礎に立っていますが、実証に寄りかかろうとしているところは、どこもありません。
(中略)
 氏の「文学」は彼等の「絵画」が自然とは別物であるように、彼等からも「独立」しています(P118)。

さらに、なぜこういう絵を描くのか、それはどういう理由によるものか、その画家が人生を通して求めたものは結局何だったのか、という本質的なことが明らかにされる。もしかしたら「研究者の常識」からは外れているのかもしれないが、私にとってはどれも核心を突いているように感じた。

 

取り上げられている画家はモネ、セザンヌゴッホ、ゴーガン、ルノワールピカソ。他にも、印象派の画家について多くの言及があるし、他国からの影響などにも触れている。

たとえば、次の文を読むと、なぜ何人かの画家は「印象派グループ」に名を連ねたり、印象派展に参加しながらも、作風は譲らなかったのか、納得できる*1

マネやドガルノアールが、印象派の影響下にあって、印象派の手法に強い反発を感じながら仕事をしたというのも、彼等は、皆、人間に強い興味を持って、これを描き続けたが為だ、と簡単に考えるのが、一番正しいかも知れない(P64)。

今までほとんど見る気にならなかったセザンヌの絵に興味が湧いたのは、この本の大きな収穫だった。セザンヌが絵を通して何をしようとしていたのかが初めて理解できたからだ。

 

『近代絵画』はいくつかの本に収められていますが、この本はお薦めです。言及されている主な絵はカラーで掲載、用語解説がそのページの下にあり、読みにくい漢字のふりがなも充実していてとても親切な作り。読んでいてストレスが少なかったです。

 

絵の見た目で「好き」「嫌い」を決めるのにもの足りなくなってきたら、ぜひトライしてみてください。面倒で時間もかかりますが、それだけの価値はあります。
私のアクション:セザンヌの絵をじっくり見てみる 

※この本のメモはありません


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*1:ルノワールはグループの主だったメンバーとされていますが、実はいつまでもサロンに出品し続けていたし、風景画よりも肖像画が非常に多い人です。のちにはがらりと作風を変えて「古典派」になります。印象派時代が好きな人にとっては信じたくない転向ですが…