知人に勧められ、『嫌われる勇気』を買おうと書店に見に行ったのだが、何となくピンと来なくて代わりに手に取ったのがこれ。
以前、アドラー心理学を勉強したという人から、生まれ順で性格が違う、という話を聞いて興味を持ち、入門的な本は読んでみたことがある*1。
その時はすぐ役に立つようなストレートな効果は感じなかったのだが、アドラーの教えを著書・関連書から抽出してあるこの本なら、得るものがあるような気がした。
うまくまとめられているので、とても面白く読めた。
◆目次◆
すべてあなたが決めたこと――自己決定性について
そのままの自分を認めよ――劣等感について
感情には目的がある――感情について
性格は今この瞬間に変えられる――ライフスタイルについて
あらゆる悩みは対人関係に行き着く――ライフタスクについて
家族こそが世界である――家族構成について
叱ってはいけない、ほめてもいけない――教育について
幸せになる唯一の方法は他者への貢献――共同体感覚について
困難を克服する勇気を持て――勇気について
他人の課題を背負ってはいけない――課題の分離について
著者*2の小倉広さんは組織人事コンサルタント・心理カウンセラーとして広く活躍されている方だそうだ。
組織で部下を持った時にうまくチームをまとめられずにうつ病を発症。その時、アドラー心理学に救われた経験があるという。
この本はアドラーのことばをジャンルごとにまとめたものだ。右ページにポイントの言葉、左ページに解説という形になっているので、気になるところから気軽に読める。
右のページには、こんな言葉が書いてある。
できない自分を責めている限り、
永遠に幸せにはなれないだろう。
今の自分を認める勇気を持つものだけが、
本当に強い人間になれるのだ(19)。
感情はクルマを動かすガソリンのようなもの。
感情に「支配」されるのではなく「利用」すればよい(22)。
「自分は役立っている」と実感するのに、
相手から感謝されることや、
褒められることは不要である。
貢献感は「自己満足」でいいのだ(78)。
陰口を言われても、嫌われても、
あなたが気にすることはない。
「相手があなたをどう感じるか」は
相手の課題なのだから(100)。
読んで驚いたのは、「ライフスタイル(=性格のこと。アドラーはこう呼んだそうです)は自分の意志で決めたもので、いつでも変えられる」という考え方。なぜなら、環境の影響を受けるにしても、その影響をどう受けるか、どの程度受けるか決めたのは自分だからだという。
たとえば、口うるさい母親に育てられたとしても、その影響を受け入れるか、反発するか、無視するかは本人が決めたことだというのだ。
確かに、同じ母親のもとで育った兄弟でも、みんながグレたり、同じように反応するわけではないですよね*3。
何でも環境のせいにしてはいけない、と言われたようで耳が痛い。
また、子どもを育てる時に「叱ってはいけない」と同時に「ほめてもいけない」と書いてあり、衝撃を受けた。
ほめるのは上から目線になり、親であってもよくないという。
「対等の目線で会話をする」ことが大切なのだそうだ。
後半では「共同体感覚」というのがキーになる。「共同体感覚」は「他者への貢献」によって形成され、その結果「自分の居場所」ができるのだそうだ。
これはもう心理学と言うより宗教なのでは、と感じる。アドラーが活動していた時代なかなか受け入れられず、1世紀早すぎた、と言われているのもうなずける。
見方を変えれば、「宗教に深入りするのは抵抗があるが、そのマインドは学びたい」という人が増えて最近ブームになっているのかもしれない。
「勇気」というセクションには、人を育てる時のすべてが詰まっている。子ども、部下、後輩、もちろん「自分育て」にも当てはまると思う。
全体を通しても「人の成長」に役に立つ内容だと感じた。
“育てたい人”がいるすべての人におすすめです。
私のアクション:「できない自分」を受け入れる
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
「本当はどちらが悪いのか?」という「原因」を追及するのはムダ(8)
「どちらが悪かったのか」に時間や労力を注ぎ込むくらいなら、その分のエネルギーを未来の解決に費やす方がはるかに生産的。相手に非があったとしても、「今、自分にできること」だけを見ればいい。相手を責めるのではなく、自分の伝え方を変える。
「不完全さを認める勇気」を持つ(19)
ONLY IF(もしも欠点を克服したら)I'm OKなのではなく、EVEN IF(欠点があってもなお)I'm OKとする勇気。それこそが「不完全さを認める勇気」。その勇気を持つ人だけが本当に強い人間であり、幸せになれる。
あらゆる性格の根本は「3つの価値観(信念)」(31)
1.自己概念(私は○○である)
2.世界像(世の中の人は××である)
3.自己理想(私は△△であらねばならない)
浅いレベルの性格はこの3つの組み合わせによって決まる。
自分を変えていく第一歩が、この3つのセットを知ること。
「性格を変える」=「信念を変える」こと(30)
友人の中でひと言も話さない性格の人は「おとなしい性格」なのではなく、「人を信用していない性格」「自分は好かれるはずがないと思っている性格」。
このように「おとなしい」という表層のさらに奥にある、核となる信念を見つけ、それを変えることで行動や感情は大きく変わっていく。それが「ライフスタイルを変える」ということ。
性格を変えることは、生まれ変わることではない。持っているものの「使い方を変えること」(37)
今持っている所有物のよりよい使用法を学ぶこと。
怒りを持つか持たないか、ではなく、怒りをどのように扱うか、怒りをどのくらいの頻度で利用するか、を変更すること。それが性格を変えるということだ。
人は失敗を通じてしか学ばない。失敗を経験させ、自ら「変わろう」と決断するのを見守るのだ(62)
アドラー心理学における教育では「結末を体験させる」ことを重視している。もしも子どもが片付けをしようとしない場合であれば、叱ったり脅したりして無理やり片付けさせても、子どもは片付けを覚えない。
叱らずに放っておく方が効果的。子どもは片付けなかったことにより、自分がほしいおもちゃを探すことに苦労する。そして、片付けておく方がはるかに探すのがラクであることを学習する。
(中略)
一度や二度の失敗を恐れて何もさせないよりも、わざと失敗させるくらいの気持ちが重要。できるようになってから任せるのではなく、任せるからできるようになる。
「共同体感覚」ができれば、すべての困難から解放される(68)
共同体感覚とは以下の3つ
1.周囲の人は私を援助してくれる=他者信頼
2.私は周囲の人へ貢献できる=自己信頼
3.(その結果として)私は共同体に居場所がある=所属感
私たちは共同体感覚を高める以外に幸せな人生を送ることはできない。
「よくできたね」ではなく「ありがとう、助かったよ」と感謝を伝える(73)
上から目線で「ほめられる」よりも横から目線で「感謝される」ことが自己信頼と他者信頼にははるかに有効。貢献と感謝の体験を増やすことが共同体感覚を養う上で最も大切。
アドラーの提唱した共同体感覚は、「信頼」がベース(77)
自己信頼と他者信頼は共に、裏付けなく、裏切られる可能性があっても信じることから始まる。相手を疑っているうちは、信頼関係は築けない。無条件に信じる。信頼関係もあなたから始める。それが幸福になる道、共同体感覚を高める方法。