すごく不思議な流れなのだが、地元の図書館のサイトで「ワタナベ薫さん」の本を検索していたら、この本が表示された。
面白そうだったので借りてみたのだが、当然のことながら「ワタナベ薫さん」はこの本には登場しない。なぜヒットしたのかまったくの不思議。
でも、こんなきっかけで読めたのは僥倖だ、と思うくらい素敵な本だった。
◆目次◆
はじめに
第一章 お祓い日和
第二章 お祓い暦
第三章 厄年生活
おわりに
協力社寺一覧
3つの章に分かれているが、第1章は雑誌『ダ・ヴィンチ』、第3章は雑誌『Domani』の連載をまとめたもの。第2章は書き下ろしだそうだ。
著者の加門七海さんは作家で、本職はホラー小説などオカルト系らしいが、文章の明晰さに惚れた。
こんな内容なので、いくらでもおどろおどろしく書けるのにみじんもそんなところはなく、かといって専門家にしかわからないような学術書っぽくもない。
非常にクールに書いてあり、まるで科学の本を読むようなのだ。
きっといろんなことに造詣が深い人なのだろう*1。
第1章は、お祓いのやり方やその歴史・由来などがアイテムごと*2にまとめられている。同時に、お寺と神社での祓いの違いや歴史についてなども教えてくれる。
第2章では、暦、つまり古来の年中行事について知ることができる。昔は誰でも知っていたであろうことだが、年長者から直接聞くのもむずかしい今、こんな風に本でまとめて学べるのはうれしい。
なぜそれをするのか(例えば、なぜ冬至の日にゆず湯に入り、かぼちゃを食べるのか)なども知っていた方が、行事により楽しく、深く関われそうだ。
第3章は「厄年」をどうとらえるか、についての考察だ。
日本は世界に類を見ない「八百万の神」を信仰する国であり、それがさまざまな形になって複雑に絡み合い、現在に至る。無宗教だ、と言う人が多いわりに、ほとんどの人が何となく“すべてのものには神が宿る”ということを受け容れて生きている。
その由来をやさしくひもといてくれる。読みながら、心洗われるというか、襟を正したくなるような本だ。
日本の伝統を忘れず、年中行事を守りましょう、というような本は多いが、なぜそうした方がいいのか、この本を読んで初めてきちんと理解できた。
退屈はある種、淀みと同じだ。淀みは穢れを呼び込んでくる。それを打破するのが、年中行事だ(P86)。
それは、「ハレ」と「ケ」をきちんと分けた、日本の風習にもつながる。
ある俳優さんが、幸運を招くために何をしているか、と聞かれて「年中行事はきちんとやっています」と答えて*3いるのをネットで見て、ふうん、と思っていたが、そういうことだったのか、と腑に落ちた。
日本人なら、知っていた方がいいことだと思う。
また、いざという時に何をどう扱えばいいのか、どこにお願いすればいいのか、とまどってしまいそうだが、この本があればそれだけで安心できる、強力な“お守り”にもなる。
こういう話に興味のある人はもちろん、今まできっかけのなかった人もぜひ読んでみてください。
私のアクション:塗香を買ってみる
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
香りをまとうこと――それが、香の祓いのすべて(P19)
塗香はわけもなく気分の悪い時や、手水のない社寺に参拝する時、手につけたりすると気分がいい。これにも本式の作法はあるが、堅苦しく考えることはない。
元旦、初めにくむ水は「若水」と呼ばれて、1年の邪気を祓う(P35)
本来は井戸から組むものだが、最近では井戸がないために蛇口から出てきた最初の水を若水とするところもある。
不安な人は、新しいミネラルウォーターの口を切って用いよう。
肉類を摂って、あえて鈍くなる(P55)
足を踏み入れたくない場所に行ったり、関わりたくない人物と話をしたり……。
そういう時、特に忌避感を抱く場所や人物と接触する場合は、肉を食することがお薦めだ。肉食は繊細すぎる勘を抑制する。そうやって敢えて鈍くなることで、不必要なものの介入を阻止できる。
(厄年に)厄災に見舞われた時は(P152)
まず心身のアンバランスを疑い、調整する。重すぎる荷物があるのなら(たとえ大切なものであっても)、捨てる覚悟が必要だ。
そして無事、不安定な橋を渡り終えた時、私たちは新しい大地に立つことが叶うのだ。