家族が借りてきた本。
MLBトロント・ブルージェイズで今年もがんばっている川崎宗則選手の著書だ。
実はホークス時代から、ひいきチームのライバルなのに、好きな選手のひとり*1。
Number webで一部紹介されていたので、喜んで読んだ。
単なる野球選手の本にとどまらない、気づきのたくさんある本だった。
第1章 メジャーに挑む おれがアメリカで学んでいること
第2章 マイナーの現実 過酷な状況を味方につける
第3章 野球小僧の夢 大切なのは夢中になること
第4章 甲子園とドラフト 夢を目標に切り替える
第5章 プロフェッショナルの洗礼 挫折と絶望を乗り越える方法
第6章 ホークスの猛者たち レジェンドから盗んだこと
第7章 WBCとイチローの衝撃 光に向かって進むだけ
本の内容は、大きく3つに分けられる(注:実際には文中入り混じっています)。
中でも、一番印象に残ったのはやはりイチロー選手との関係だった。
実は、川崎選手をプロにしたのはイチロー選手との出会いなのだ。
中学生の時、初めて地元鹿児島でイチローのプレーを見た川崎少年は、「体が大きくなくても、プロになれるかもしれない」と思ったのだそうだ。
そこから、ひたすらイチローを目標にやってきて、ついに第1回WBCでチームメートとして出会う話は、まるで自分のことのように感動した。
ただイチローと一緒にプレーしたいから、というだけでアメリカに行くというニュースを聞いた時は、いくらファンの私でもあっけにとられたが、これを読めばその気持ちもわかる*2。
サブタイトルにあるように、この人はいくつになっても「野球小僧」なのだと思う。野球が好きだから、AAAと行ったり来たりするような生活でも腐らず、チャンスが来たらそれをつかむために努力を続ける。
「逆境」と言えば渡米後のことだろう、と思っていたら、人生で一番大変だったのは、実はホークス入団後だったそうだ。
「大学に進学し、プロテストを受けてプロ野球選手になろう」と自分の将来を思い描いていたのに、いきなり高校でドラフト4位に指名。心の準備もないまま入団した川崎選手は、自分の目指す方向がわからず、死にたくなるくらい思い詰めたという。
そこから立ち直るきっかけをつかんで自分の未来を切り拓いていく様子は、心を打つ。
逆境に置かれるたびに、どう考えて乗り越えているのか。飾らずに描いてあり、読者にも力が湧いてくる。
この本を読んで、川崎選手を見る目が変わった。彼には彼なりの考えがあり、優先したいものがあり、守りたいルールがあるのだ。
ボウズ頭で、踊ったり妙な英語でインタビューに堂々と答えているのを見て不思議だったのだが、なるほどね、と納得できた。
そして、その潔さが少しうらやましかった。
その、普通と違う一面が、よくわかることばが「おわりに」にあった。
おれはチームの優勝を目標にしたことはない。
優勝はチームの目標であって、選手の目標ではないと思う。おれの目標は全試合、全イニング出場。そけだけ。勝ちにも、負けにも貢献し続けること。おれは、おれのために野球をやる。
もちろん、勝てば嬉しいよ。でも、チームのためにおれに何かができるなんて、おこがましいと思う。おれはおれのために、おれのできることをする。それを、チームのことを考える監督がうまく利用すればいい(P213)。
ここまではっきり言える人はなかなかいないと思う。「フォア・ザ・チーム」と言った方がいい、とされる世の中だし、そういう圧力もあるからだ。
本人も、昔は言えなかった、思ってもいないことを言っていた、と書いているので、ここまでストレートに言えるようになったのは最近なのだろう。
ものすごく赤裸裸に、今の川崎宗則の本音が読める。いい本だな、と思って後ろの方を見たら、「構成:石田雄太」と書いてあった。イチロー選手がインタビューをさせてくれる、数少ない人のひとりとして有名なライターさんだ。
イチローファンはもちろん、WBCを必死で見た人はぜひ、読んでほしい本。
野球に興味のない人が読んでどう感じるのかわかりませんが、前向きな気持ちをもらえる本だと思います。
私のアクション:“スタベン”の心意気を持つ
関連記事 book.yasuko659.com
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
恥をかこう(P44)
恥をかくことよりもやろうとしないことの方が恥ずかしい。
スターティングベンチ(P91)
スタベンって言ったのは、スターティングメンバーじゃなくても、スターティングベンチとして、気持ちはこの試合に入ってると言いたかったから。プロは試合に出ないとって言われるけど、そこは自分の気持ちの持ちようひとつ。この時間に集中して、どれだけ楽しく過ごせるか。この仕事に集中して、どれだけ楽しくこなせるか。
それは、自分次第。
失敗とか成功とか、そんなものはない(P120)
もちろん、「アッチャー、失敗した」とか、そう思うことはあるよ。でも、それはその場のミスであって、いくらでも取り返すチャンスがある。だって、生きてるんだから。…よくないことがあっても、次にいいことがあるようにまたがんばればいい。
自分を見切ることができて、初めて変われた(P136)
なかなか自分を見切ることができなかった。
技術ではみんなに全然、ついて行けなかった。それが、やっと自分を認めることができたのかもしれない。今の俺はこの程度なんだと。野球がまだヘタクソなんだと。
だからダメだと思い込んで、もうムリとか、死にたいとか口走った。
それが、ようやく技術ではついて行けない自分を認めて、やっと見切ることができた。ああ、俺は下手なんだ、ダメなんだ。じゃあ、どうするか。俺は今、何をしたいんだ、何をすべきなんだと、自分自身に問いかけた。答はひとつしかなかった。
俺は練習をしたいんだ、練習をするべきなんだ、と。
(中略)
それからは朝と夜、毎日が練習だった。休みを取ろうなんて、思わなかった。ヘタクソだから練習する。怖いから練習する。見失ってた自分を取り戻した。
今が一番、調子がいい(P142)
よく、調子はどうって聞かれるんだけど、つまり俺に調子はない。調子は“よい”しかない。
2年目、一軍で試合に出るために俺はどうすべきなのかという目標が生まれた(P143)
2年目を迎える時、1年目とは別の恐怖感はあった。でも光は見えていたし、何よりも光が見える方向へ向かうための毎日のルーティンがあった。自分のやるべき練習がわかっていたんだ。そのルーティンをこなしているうちに、二軍の試合で自分の武器が見えてくる。たとえば足の速さ。足が武器なら、その速さを活かすためのバッティングを練習しようかとか、考えることを絞れる。
高校の時、担任の先生から言われた言葉(P161)
1年目は環境に慣れなさい。
2年目は人間関係に慣れなさい。
3年目は仕事に慣れなさい。
大切なのは、前に出ること(P183)
前へ出よう。
そうすることで、マイナスをプラスに持って行くことができる。
WBC初戦で宮本慎也選手に言われたこと(P183)
「中途半端に緊張を取り除こうとするな。緊張して、震えて、行ってこい。いい経験になるから」
イチローのバッティングを見続けた、結論(P189)
大きく体を使うんだ。
感覚的に、まず大きな筋肉を鍛えて、スイングを一定させる。飛ぶ、飛ばないという話以前に、相手に合わせたスイングをしない。いつも同じスイングをする。俺は、相手に合わせるスイングをしようとした。だから、すぐにおかしなクセがつく。大きな動きは一定に保てる。小さな動きは手先で調整できるけど、常に一定には保てない。
イチロー選手がWBC最後に言った言葉(P197)
「ムネ、見てるから、いつも見てるからな。がんばってこいよ。いつも話は聞くから、手を抜くなよ。すぐわかるからな」