毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

「長編小説を書き続けるために必要なこと」とは?☆☆☆☆

 

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

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※文庫版が出ています→『職業としての小説家 (新潮文庫)

 
 

新刊が出るぞ出るぞ、と暑い頃からいろんなところで言われはじめ、何となくタイミングが来た、と思って先日この本を買った。
あわてて読みたくないので不本意ながらしばらく「積ん読」状態になっていたが、読んでみてびっくりした。

軽いエッセイだと思っていたら、ものすごく中身の「濃い」本だった。

 

◆目次◆
第一回 小説家は寛容な人種なのか
第二回 小説家になった頃
第三回 文学賞について
第四回 オリジナリティーについて
第五回 さて、何を書けばいいのか?
第六回 時間を味方につける―長編小説を書くこと
第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
第八回 学校について
第九回 どんな人物を登場させようか?
第十回 誰のために書くのか?
第十一回 海外へ出て行く。新しいフロンティア
第十二回 物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出
あとがき

読み始めて「何だか印象が違うぞ」と思ったら、書き言葉ではなく話し口調で文章が続いている。
このテーマを書くにあたり、わざわざそうしたのだそうだ。

小さなホールで、だいたい三十人から四十人くらいの人が僕の前に座っていると仮定し、その人たちにできるだけ親密な口調で語りかけるという設定で(P308)

書き直した、とあとがきにあった。

 

もともとは“自分自身のために書きはじめた文章”だったそうで、翻訳家の柴田元幸さんが新雑誌「Monkey」を創刊した時に、すでに書いてあったものを半分*1連載させてもらったという。
残りの7〜11章が“書き下ろし収録”となり、12章に河合隼雄先生についての講演原稿(これは本当に話したもの)、という構成になっている。

 

この本の内容については、帯の柴田さんの言葉がすべて語り尽くしていると思う。

これは村上さんが、どうやって小説を書いてきたかを語った本であり、それはほとんど、どうやって生きてきたかを語っているに等しい。だから、小説を書こうとしている人に具体的なヒントと励ましを与えてくれることは言うに及ばず、生き方を模索している人に(つまり、ほとんどすべての人に)総合的なヒントと励ましを与えてくれるだろう(以下略)。

「職業としての小説家」と言われたら、たぶん村上さんファンは「文化的雪かき」とか「職業的男性乳母」*2といった言葉を思い浮かべ、どこかにメタファー的なものが含まれるのかと思うが、そうじゃなかった。
「小説家を生業にする」ことについて、正面から語った本だ。

 

村上さんご自身もあとがきに書かれているが、基本的に今までに書いたり語られたりしてきたことと基本ラインは同じ。「え、前と言ってたことが違う!!」はないので安心して読める。
ただ、30年くらいずっと読み続けている私でも、この本で初めて知ったことがあった。
それは、小説の具体的な書き方。

 

勢いに任せて(といっても毎日かっきり10枚、と決まっているそうですが)とにかく書き上げる。それから、全体を書き直すそうだ。筋の通った整合的な物語にするために。
その後も書き直して、寝かして、奥さんに読んでもらって意見を聞いて(とり入れるかどうかはまた別)、また書き直す。
ものすごい手間と時間がかかる。しかも、その書き直しの手間を、村上さんは「おいしい部分」と言っているのだ。

小説ができあがるまでのプロセスを、こんなにあけすけに公開したのを読むのは初めてだったので、驚いた。そして、感激した。
ここまで平気で公開してしまう村上さんの、プロとしての矜持を感じた。
35年、職業的小説家でありつづける、それも長編小説を書き続けることは並大抵のことではないのだ。

 

また、一番面白かったのは「芥川賞の選に漏れた」話。
これもあけすけに書いているので、笑ってしまう。
ご本人は正直言ってそんなに欲しくなかったらしく、「不本意に賞レースに巻き込まれて迷惑」というスタンスだったそうだ。
今年は特に芥川賞に注目が集まっていたので、とてもリアルに感じられた。

さらに、この文章の「芥川賞」を、近年恒例行事のように騒がれる「ノーベル文学賞」に脳内変換して読むと……非常に趣がある*3

 

こんな風に、あくまで「小説を書く」「小説家になる」ことについて話が展開しているのだが、ところどころ、とても示唆的な言葉がある。
走ることについてしか言及してないのに、とても深かった『走ることについて語るときに僕の語ること』のように。

 

村上春樹ファンにとってはたまらない1冊。
まだあまり作品になじみがない人が読むのはどうか、わかりませんが、バックグラウンドがわかった方が楽しめる人にはいいかもしれません。
私のアクション:「時間があればもっといいものができた」は禁句!

※この本のメモはありません。

 

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*1:この本の6章まで

*2:どちらも『ダンス・ダンス・ダンス』に登場します

*3:実際、「ノーベル文学賞」について否定的だったレイモンド・チャンドラーの手紙が引用されています