読みたいな、と思っていたら偶然家族が借りて来た。
コミュニケーション術の本はたくさんあるが、あまり類書のない斬新な本だった。
【読書感想】なぜ、この人と話をすると楽になるのか ☆☆☆☆ - 琥珀色の戯言
◆目次◆
基本編
1 はじめに コミュ障の私よ、さようなら
2 コミュニケーションとは何だろう
3 「コミュ障」だった私
4 コミュニケーションという「ゲーム」
5 ゲーム・プレーヤーの基本姿勢
6 沈黙こそゴール技術編
6 コミュニケーション・ゲームのテクニック
7 質問力を身につける
8 キャラクターと愚者戦略
9 コミュニケーション・ゲームの反則行為
まとめ コミュニケーションは徹頭徹尾、人のために
あとがき
著者・吉田尚記さんはニッポン放送のアナウンサー。さらに、落研出身という、もっとも「コミュ障」(=コミュニケーション障害)から遠いところにいそうな人なのに、「コミュ障」だと自認しているという。
「コミュ障」なのに、毎日毎日人と接するのは大変だったと思う。いろいろ苦労した結果、気がついたら不自由しないくらいにはなっていたそうだ。
そんな吉田さんが、「自分と同じ苦労をしなくていいように」というのが、この本の目的だ。
誰かから何かを学ぶ時、苦労せずにサッとできた人よりは、うまくできなくて試行錯誤した人から学ぶ方が、わかりやすく、より身につくと思う。
そういう意味で、この本は貴重だ。
この本はもともとニコニコ生放送で8回にわたって話した内容を再構成したもの。
番組中に視聴者から寄せられたコメントは<>で表記され、吉田さんもその場で反応しているので、双方向のやりとりがわかるようになっている。
まず、「コミュ障」の定義が素晴らしい。「空気が読めない人」ではなく、「空気を読みすぎてしゃべれなくなってしまう人」だという。
でも、やりようはある。「コミュニケーションはゲーム」だと戦略的に考えるのだ。
……コミュニケーションはゲームだからです。ゲームであればこそ、ルールはあるしテクニックだっていっぱいあります(P25)。
吉田さんがコミュ障を克服するまでには、3つのステップがあったそうだ。
1.自己顕示欲がなくなったこと
2.コミュニケーションは「ゲーム」なんだと気づいたこと
3.コミュニケーションの盤面解説ができるようになったこと
特に1のエピソードは衝撃的。
イベント会場や街頭ロケへ行って片っ端から声をかけ何度も気まずい思いをする。それが毎日毎日つづいて、コミュ障には辛い。
でも、そこを乗り越える瞬間がやってくる。
……でもそうしているうちに、自分のことがいつしか、どうでもよくなってきたんですね。答えてくれなくてあたりまえ、話しかけてくれなくてあたりまえ、人から興味を持たれなくてあたりまえ、そうなってきた。
(中略)
ぼくに興味がある人なんていないんだってことを、あきらめではなく事実として、肌で知った。そうしたら自己顕示欲が干乾びていったんですね(P47)。
そこが最初のターニングポイントだったという。
さらに、目からウロコのことばも。
「コミュニケーションの目的は、コミュニケーション」なのだそうだ。
コミュニケーションというのは、じつは、コミュニケーションが成立すること自体が目的であって、そのときに伝達される情報は二の次なんです。情報の質や内容なんてどうでもいい(P28)。
その時その場のコミュニケーションが円滑になされたかどうかが重要なのだ。
そう考えれば、少しは気が楽になる。
さらにショックを受けたのが、人間のコミュニケーションは、サルの毛繕いの代わりだ、という説。
最近、ロビン・ダンバーという人類学者の本を読んでたいへん感銘を受けたんですが
(中略)
一般的にコミュニケーションとは、情報や概念を相手に伝えるためにできたように思われがちですが、ダンバーさんはそれは違うと、気持ちいい毛繕いの代わりとして、ヒトはおそらくコミュニケーションを発明したって言うんですね(P96-97)。
「情報を伝える」というのは、実は第一目的ではなく、コミュニケーションの二次利用なのだ。
その説によれば、基本的にコミュニケーションは女子会、ガールズトークでいい。無意味な話を延々とすることは正しい。
そのようなムダ話についてダンバーさんは、会話というのは高尚なものではなくて、ゴシップを伝えるために存在しているって言うんですね。人のウワサ、どうでもいい情報、誰それがつき合ってるらしいとかケンカしたらしいっていう話は決してなくならない。
(中略)
……ネットでもワイドショウでも何でもいいんですが、そのほとんどは要らない情報で満ちあふれています。でもなんか気になって、見てしまう。しゃべってしまう。それはもともと、人間の会話がそういう風にできているからです(P100)。
ムダは実は必要なものだ、と肯定できて、さらに気が楽になった。
もちろん「だから意味のある会話は必要ない」というわけではなく、吉田さんはハイブリッド路線を勧めている。
意味のない会話と意味のある会話、両方のハイブリッドこそが、現代の社会生活にたえず要求されるコミュニケーション・スキルです。くだらないワイドショウと真剣な意思の疎通、両方大事。毛繕いをコミュニケーションに変えてきた人間は、そういう無意味と意味のハイブリッドを生きているんですね(P101)。
具体的な方法も、もちろんしっかり説明されている。ゲームやサッカーのたとえが多い*1ので、私のようにどちらもあまりくわしくない人間にはちょっとむずかしい面もあったが、サッカーファンならきっとわかりやすいはず。
こう言われたらこう答える、というような(将棋で言えば)「定石」を覚えるのも、そのひとつ。
「その場をみんなで気分よく過ごす」ことが目的なら、説得力も、鋭い切り返しも、気のきいた言葉もなくて大丈夫。
その上で、上手な会話の転がし方や、質問力の高め方まで網羅しているのは、さすがアナウンサーだから。
究極の目的は「一緒にいて楽な人、話をすると楽になる人」なので、タイトルも『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』だが、いきなりそこをめざす必要はない。
一番印象に残ったのは、「キャラクターと愚者戦略」という話だった。
さすがはアイドルオタクを自認する吉田さん、ものすごく鋭い(くわしくは下のメモをご覧ください)。
「ツッコまれて喜べる人になれ」という、素人には高いハードル*2。
でも、それを超えたら新しい世界が広がるそうだ。
挑戦してみる価値はあるかも。
もともと番組で話した内容をていねいに編集してあるので、とても読みやすい。
一般的な「話し方の本」は、意味のあるコミュニケーション、それも自分が利する目的(営業成績を上げるとか、成功するプレゼンなど)のものが多いので、こういう本はめずらしい。
考え過ぎちゃって話せない、エレベーターの沈黙が辛い、という人はぜひ読んでみてください。
私のアクション:「嫌い」と「違う」は禁句
■レベル:守 ※本としては斬新でも、コミュニケーション方法は基本的なことが中心
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
関連記事
※「書く」が中心ですが、徹底的に相手の立場で考えるところが似ています