この本のことを知ったのは、いつも楽しみに読んでいるブログ「琥珀色の戯言」だった。
斎藤美奈子さんは、大好きな文芸評論家だ。こんな本が出ていたのか、と喜々として借りてきた。
面白かったが、かなり内容は濃かった。
◆目次◆
1 青春の群像
2 女子の選択
3 男子の生き方
4 不思議な物語
5 子どもの時間
6 風土の研究
7 家族の行方
名作のエンディングについて
名作と呼ばれる作品を、132冊もラストの1文を取り上げて論じた評論集だ。
この本がどういう本か、という紹介は、引用も含めて上の「琥珀色の戯言」でFujiponさんが上手くまとめられているので、それを読んでいただきたい。
1作品につき見開き2ページでまとめられている。もともとは読売新聞夕刊のコラムだったそうで、1冊分の記事はサラッと読める。
だが、不思議なことに、だんだん「お腹いっぱい」になってくる。
2ページとはいえ、ひとつの作品をぎゅっと濃縮してあるので、1冊読破したのとほぼ同じくらいの何かが自分に溜まるのだろう。
これを「132冊分、一気読み」なんかしたら、消化不良にもなりますって。
私が読んだことがあるのは、だいたい2〜3割くらいだろうか。
名前だけ知っているものも多い。
しかし、一番驚いたのは、内容を知ってるつもりでまったく間違っていたものがたくさんあったことだ。
たとえば、メルヴィル『白鯨』*1が“ゲイ文学の傑作に認定”(by著者)されるような作品だったとは知らなかったし、一番驚いたのはルース・ペネディクト『菊と刀』の“「菊」に天皇の含意はない”こと。ご存知でしたか?完全に勘違いしていた*2。
この『菊と刀』のページで引用されていた言葉が突き刺さった。
タイトルしか知らないのに、すっかり知ってるつもりになっていた自分を反省した。
とはいえ、これから全部読むほど私に時間と気力は残されていないと思うので、著者が魅力をしっかり濃縮してくれたこの本はありがたい存在だ。
今さらまるまる読むのは、とためらってしまう本の内容を知ることができたので、人生に少し深みがましたかもしれない。
もちろん、読みたくなる本もありましたけどね。
斎藤さんの魅力といえば、対象をバッサバッサと歯に衣着せずに切るその論調だ。
その鋭い刃が自分の10代の頃の愛読書に向けられると、ちょっと複雑な気持ちになるところもあった。
『あしながおじさん』は続編*3も含め大好きで繰り返し読んだ。
そのエンディングは予想を超えていて、当時小学校高学年だった私はぽかん、としてしまったのだが、
この結末に、私は昔、チッと思った口である。……最後はこれかい(P79)。
――そうですか。
茂木健一郎さんも大絶賛の『赤毛のアン』も、斎藤さんの手にかかれば
ほどほどの幸せに興味がある方はどうぞ(P77)。
になっちゃうし。
こういう、斜めから見るような批判的な目がなければ、クールな文芸評論などできないのであろう。そういう見方もあるのか、と全体には面白く読めた。
最後の1文を知ったからといって、本の内容がわかって読む気が失せる、とうことは驚くくらいない*4。
これから読む本を探すためのブックガイドにも、「3分でわかる」内容紹介の本としても読める、ありがたい1冊。
ただし、時間をかけて少しずつ読むのがおすすめです。
私のアクション:『名作うしろ読み プレミアム』を借り直す*5
■レベル:守
※この本のメモはありません
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