毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

医学界からの告発☆☆☆

4167620065 成人病の真実 (文春文庫)
近藤 誠
文藝春秋 2004-08
価格 ¥ 600

by G-Tools

1996年に出版され、センセーションを巻き起こした「患者よ、がんと闘うな」の著者、慶応義塾大学医学部放射線科講師・近藤誠先生の本。とあるセミナーで面白いですよ、と紹介されたので読んでみた。
今、医学界で何が起こっているのか*1。現役医師として働く著者が疑問に感じたことを徹底的に調べ、根拠を挙げて説明していく内容は衝撃的。しかし痛快でもある。


高脂血症、高コレステロール症に糖尿病。血液検査で診断されたこれらの疾病は、無症状であれば本来治療は必要ないものだという*2。さらには脳ドックも必要ないし、健康診断そのものがメリットよりデメリットの方が上回るそうだ。後半には専門であるがんに関する記述が続く。
そこに一貫しているのは、徹底的にデータを検証し、本当に有益性があるのかを検討する姿勢だ。明らかにメリットの方が上回らなければそれを行う意味がないというのは当然だが、実は根拠のないまま行われている検査や治療、診断の数値基準がたくさんあるのだそうだ。
ではなぜ、そのようなことがまかり通っているのか。それは病院や製薬会社、ひいては国の利益が関わっているのではないか。そう疑いたくなるような事実が次々と出てくるのだ。

中でも「定期検診は人を不幸にする」という章は特に衝撃が大きかった。
定期的に健康診断を受けた人と、受けていない人の9年間の死亡率は統計学的には意味のない差しかなかったのだという。それだけではない。心血管疾患になりやすい因子のある人を、特にアドバイスせず好きにさせておくグループと、医師がライフスタイルに介入してアドバイスをするグループに分け、10年間追跡調査した結果、危険因子はアドバイスを受けたグループが下がったものの、死亡した人数は逆に増えてしまったのだという。しかも、死因が心筋梗塞と心臓突然死の数が最も多かったそうだ。

危険因子が下がったのになぜ心臓の問題で亡くなってしまうのか?無症状の場合に高血圧や高コレステロール症などを治療することの害が、有益な作用を上回った可能性や、医師から薬やアドバイスをもらい続けることが精神的ストレスになったのではないか、ということが指摘されている。
検査で病気や異常が発見された場合、ライフスタイルを変更し、それでも検査値が改善しなければ医者から薬をもらうという方針は無意味かあるいは危険、ということになるのだ。

また、著者があえて生活習慣病という言葉を使わず、成人病という言葉を使ったことにも意味がある。「生活習慣病」というネーミングは、ライフスタイルに原因があって、それを変えれば予防できるというイメージを与えるが、死因の上位を占めるがん、心疾患、脳血管疾患などはいずれも加齢とともに死亡率が急増しているので、老化現象の一部と考える方が自然だという。

このように、マスコミが繰り返し報道するからそんなものか、と思い込んでいたり、実は根拠のないものが通説として通っていたり、よくよく検証してみればいろいろと問題があるのだ。
著者は、基本的に「自覚症状のないものは放っておいてもデメリットが上回ることはない」、としている。症状があれば、治療を受けて症状がなくなることでメリットはあるが、検査でみつかるのはいずれも無症状のものばかり。それでも健康診断や検査を受けますか?ということだ。
このようなことが医学界に籍を置く人から発信されることに大きな意味があると思う*3。病院や検査、治療について見方や考え方が変わる本です。

*1:この本の初版は2002年、もとは文藝春秋で2000〜2002年に連載されたものです

*2:自覚症状のあるものや、治療することで明らかにメリットがある場合を除く

*3:このため、内部では冷遇されているようですが