この本も前々から読んでみたかったもの。いざ借りて読んでみると、思い描いていたものとはずいぶん違っていた。
新渡戸稲造というと「元5千円札」という印象が強いが、実はどんな人か知らない。
ざっと経歴をたどると、
文久2年(1862)南部藩士の子として生まれ、東京外国語学校、札幌農学校、東京帝国大学などで学び、アメリカへ留学。帰国後は、札幌農学校、台湾総督府勤務を経て京都帝国大学教授、第一高等学校校長、東京帝国大学教授(兼任)、東京女子大学初代学長などを歴任、大正9年(1920)には国際連盟事務局次長に選ばれ、大正15年まで在任した。辞任後は貴族院議員などを務めた(訳者まえがきより)。
と、そうそうたるものだ。
この本を読むまで知らなかったが、夫人はアメリカ人で、留学時に新渡戸と同じクエーカー教徒の集会で知り合ったのだという。
この本を書いた直接のきっかけは、ベルギーの法学者から「宗教教育のない日本でどうやって道徳教育ができるのか」を問われ、答えられなかったことだそうだが、夫人から日本の思考方法や風習についてたびたび聞かれたこともそのベースにあったようだ。
つまりこの本は、「宗教があるのが当たり前の西洋人に“日本人の心を育む、宗教に変わるものは何なのか”を解説したもの」なのだ。当然英語で書かれていて、サブタイトルは“The Soul of Japan”(日本人の魂)。
さらに、この本の翻訳者山本博文さんは江戸時代の武士研究の専門家。この本が書かれた時代背景なども含め、解説が秀逸だ。この「山本解説」によると、新渡戸は武士階級出身ではあるが、生まれた6年後には明治になっているため、自身が武士道を経験したことはほとんどないという。しかも、武士道を説いた本は存在しないため、かなり新渡戸の独自解釈が多いようだ*1。
また、この本では武士道として説明されているが、実は武士以外の階級にも広く浸透していたことも多いという。
つまり、この本の内容をそのまま武士道として受け取るのは問題がありそうなのだ。
山本氏によれば、
これは武士道書というより、日本的思考の枠組みを外国人に示した優れた日本文化論なのである。その意味で、本書は、日本人が初めて自分で日本文化の特質を意識した記念碑的作品であると言えよう(セ218)。
野蛮で文化的レベルが低い、と当時思われていた日本を世界に紹介する画期的な本であり、ベストセラーになったそうだ。
私たち今の日本人にとっても、当時の考え方や文化を知る貴重な本だ。現在まで受け継がれているものもあるが、すでになくなってしまったものを知っておくことも大切だと思う。
日本人は何よりも「恥」を重んじる民族であり、名誉のためには命も軽かったことや、切腹についての考え方など、新たな発見も多かった。
もとはかなり難解な英語だそうだが、読みやすい訳になっている。章ごとにテーマが分かれ、各章はそれほど長くないので慣れてくれば少しずつ読み進められる。
武士道はたくさん出版されており、他の本と比較していないのでわからないが、解説も含めればわかりやすいいい本だと思う。
日本人の精神的ルーツを知るにはおすすめです。