建築家 安藤忠雄 安藤 忠雄 新潮社 2008-10 価格 ¥ 1,995 by G-Tools |
この日記でも何度か取り上げたことのある出版コンサルタント・土井英司さん主宰のメールマガジン「ビジネスブックマラソン」に紹介されていた本。
ビジネスブックマラソンの書評はこちら
建築はまったくの素人だが、安藤忠雄さんの設計したものは何となく好きでよく行くところも多い*1が、詳しいことは知らない上にめずらしく土井さんが褒めちぎっていたので読んでみた。
私は安藤さんのことを何も知らなかったのだなあと思った。以前はプロボクサーであり、建築は独学であることや、打ちっ放しコンクリートに込められた意味、建築に対する明確なビジョン、さらにそれに基づいて環境保全・植樹運動などに積極的に関わっていることなど、この本で初めて知った。
そのどれもが面白く、これから安藤さんの建築を見る時に受け止め方がまったく変わるだろうと思うが、この本で私が一番感じたのは「一流の人はこう考えるのか」ということだった。「一流の人はいかにしてできるか」とも言える。一流は結果が伴っていなくても、初めから一流たる考え方があると思った。
特に心に残ったのは次の3つ。
1.祖母の教え
安藤さんは跡継ぎがいない母方の祖父母に引き取られたそうだ。祖母は“上方の合理的精神と自立心にあふれる明治の女”で、しつけは厳しかった。
「約束を守れ、時間を守れ、嘘をつくな、言い訳をするな」
大阪商人らしく、自由な気風を好んだ祖母は、子供に対しても、自分で考え、決めて、自分の責任で行動する、独立心を求めた。
また、安藤さんが海外の建築を見るため渡航する時の言葉も素晴らしい。
渡航の決心を告げたとき、祖母は「お金は蓄えるものではない。自分の身体にきちんと生かして使ってこそ価値のあるものだ」と力強い言葉で、気持ちよく送り出してくれた。
2.原点から問い直す
安藤建築に一貫しているのは、「何のために、誰のためにつくるのか」ということだ。初期の個人邸宅から商業施設や大きな公共の施設まで、そのスタンスは変わらない。自然・地形との共生も必ず考えている。
新たな建築に向かうとき、いつも意識するのは、「その建築が何のために作られるか」と、原点、原理に立ち返って考えることだ。そうして、既成概念にとらわれずに、物事の背後にある本質を見極め、自分なりの答えを探していく中で、日没閉館*2のようなアイディアが生まれてくる。
3.光と影
安藤建築の大きな特徴のひとつが光を効果的に使うこと。その結果影も生まれる。現代では光だけを求め、影を嫌う風潮があることにも触れ、人生を光と影になぞらえている言葉は心に染みた。
建築の物語には必ず、光と影の2つの側面がある。人生も同じだ。明るい光の日々があれば、必ずその背後には苦しい影の日々がある。
(中略)
それでも残りのわずかな可能性にかけて、ひたすら影の中を歩き、1つ摑まえたら、またその次を目指して歩き出し――そうして、小さな希望の光をつないで、必死に生きてきた人生だった。 いつも逆境の中にいて、それをいかに乗り越えていくか、というところに活路を見出してきた。
人生に“光”を求めるのなら、まず目の前の苦しい現実という“影”をしっかり見据え、それを乗り越えるべく、勇気を持って進んでいくことだ。
何を人生の幸福と考えるか、考えは人それぞれでいいだろう。
私は、人間にとって本当の幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている、無我夢中の時間の中にこそ、人生の充実があると思う。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
実体験の重み
抽象的な言葉として知っていることと、それを実体験として知っていることでは、同じ知識でも、その深さは全く異なる。この旅で、私は生まれて初めて、地平線と水平線を見た。