毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

「文を書く技術」=「世界や現実をどうとらえるか」☆☆

今年の9月に出た、比較的新しい本。ビジネスブックマラソンで紹介されていたので、面白そうだと思って読んでみた。手に取って初めて、『文章術』ではなく、『文書術』であることに気がついた*1。そこが著者のこだわりであり、他の文章に関する本との違いのようだが、期待する内容とずいぶん違っていた。
ビジネスブックマラソンの紹介記事はこちら


著者は子どもを対象とした「国語専科教室」を開設、正しい読み書きの力を育てることを長年続けてきた人だそうだ。しかし、この本は大人向けで、かなり高度な内容になっている。ノウハウというよりは、ものごとをどうとらえるか、対象とどう向き合うか、というどちらかといえば哲学的な話が多いように感じた。


この本で一番インパクトがあったのが、「話し言葉」と「書き言葉」は別のものであり、最近よく言われる「話すように書く」というのは著者の観点で言えば不可能だ、ということ。

書き言葉は、この暗黙に共有された「今、ここ、私」という主観的で特殊なフレームを、「いつ、どこで、誰が」という客観的で一般的なフレームに反転・変換した言葉遣いのことである(P18)。

この視点は今までなかったので新鮮で、これを知っているだけでも格段に文章が伝わりやすくなると思う。


他に面白かったのは、よく取りざたされる「新聞コラム」のことだ。文章のお手本に「天声人語」などを挙げる人が多いが、著者によれば

それはプロ中のプロによってのみ書かれうる名人芸であり、私たち素人がそれをまねすることはむずかしいものです(P127)。

だそうだ。

著者は伝わりやすい文章として英語のパラグラフ・ライティングを応用した形式を勧めている。1パラグラフに内容はひとつに絞り、意味を要約した中心文を必ず先頭に書く方法だ。
実際にある日の「天声人語」をその形式に書き直していくのだが、ちょっとひねった随筆がとてもわかりやすい説明文になり、非常に説得力があった。


と、素晴らしいところもあるのだが、途中で教育論を熱っぽく語って脱線したり、「書くためには読まなければならない」という主張から自己認識の話が展開されたり、「あのー、そのような話を求めているわけではないのですが」と口をはさみたくなるところもしばしば。その辺が個人的には残念だった。

逆に、子どもの教育に興味のある人にはいい本かもしれない。文章の書き方を求めるごく一般の人には、必要な部分だけのとばし読みをお勧めします。


以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。

「書き言葉」が必要な時(P17)

…「今、ここ、私」を「いつ、どこで、誰が」に変換し、枠(=フレーム)の設定も含めてきちんと書くものであると考えればよいのです。前者(=「今、ここ、私」)がその時の状況にしばられた特殊なフレームであるとすると、後者(=「いつ、どこで、誰が」)は誰がいつ見てもわかる一般的なフレームです。これは…「状況を共有しない人」に伝える伝え方です。

直接体験と間接体験の違い(P24)

間接体験には他者の解釈が入っているということです。それに対して、直接体験は、それに直に関わる自分が初めて言葉にするということなのです。

見方を変える(P56)

…単純だと思っていた現実も、見方を変えることで、実は非常に複雑なものであったということもよくあります。今までは、単なる異性としか見ていなかった人を、自分の結婚対象と見るだけで、実にさまざまなことがらが問題になります。
見方を変えることは書くことを可能にします。そして、対象を観察し、何らかの観点を導入して考えて書くことで、複雑な状況にある秩序を与え、理解を可能にすることができます。

考えるための12の項目(P65)

1.別の言葉を使って表現する
2.テーマに関係するいくつかのアイデアの共通項を括弧でくくって分類する
3.さまざまな考えの共通点と相違点を比べる
4.具体的な事例と一般的、抽象的な概念を往復しながら考える
5.これまで語ってこられなかった新しいストーリーを作る
6.題材について似ているものを探してたとえる
7.題材に対する自分の感情を確かめる
8.題材について固定観念や思い込みや偏見はないかを調べてみる
9.なぜ?と問いかける
10.「もしも……なら」という言葉を使ってさまざまな状況を仮定する
11.題材の逆の立場を想定する
12.全体と部分を考える

4.具体的には、抽象的には(P79)

具体的に考えてみること、抽象的に一般化してみること、それぞれが考えに幅を与えてくれます。Aが抽象的な言葉の場合には、その具体例を複数挙げてみましょう。反対に具体的な言葉の場合には、それをより抽象化してみましょう。この「具体−抽象」の往復は、どんな場合にも考えを深めていくために必要な要素です。
(中略)
わかりやすい文書を書くには、具体的なことを抽象的な言葉でまとめることができるように、そして抽象的なことは具体例を挙げて説明できるようにする――それが第一歩になります。

文章には3種類ある(P109)

説明と論証と物語です。

意味段落の特徴はふたつ(P111)

・段落の先頭に中心文(=キーセンテンス)を配置すること
・中心文と関係のない文は、同じ段落内には置かないこと

雑音禁止(P115)

一段落の内容は、あくまでも「ひとつのこと」を貫きます。始めに中心文を持ってきた以上、同じ段落内では、中心文に関係しない文を入れないようにします。私は子どもたちには、このことを「一段落のうちには雑音を入れないように」と教えています。

ひとつの段落内の構成(P116)

文章には、中心文(キーセンテンス)のほか、「展開文」(それをくわしく説明したり、支持したりする文)、「結語文」(少し言い換えたりして、最後にもう一度キーセンテンスの内容を繰り返す。これは、段落自体が短い時には必要がないことも多い)があり、これらを使って一段落を作ります。キーセンテンスは1文が望ましいですが、それをサポートする展開文については、2文以上ある方が望ましいでしょう。段落が短く終わる場合には、結語文は必要ないこともしばしばです。

読み取れなければ書けない(P150)

…対象について何か意味を発信する(=書く)ためには、その前に、その対象を読み、そこから意味を受信していかなければなりません。つまり、対象について読み取れることを私たちは書くことになるのです。

「書くプロセス」のまとめ(P176)

1.自分がはめ込まれている環境世界である実在や現実と直接対話する。
あなたの書くものは基本的に第一次情報です。事実関係がしっかりと押さえられていないものは、そもそも文章として読むに値しないものです。しっかりと書き言葉を使うことです。
2.実在や現実に秩序を見出し、関係を考える。
複雑な事実関係に、あなたは的確な秩序を見出し、与えているかどうか。
3.自分の発想や思考を加える。
以上のことから何を導き出すのか。それで、何だと言うのか。
4.文化や考え方の異なる他者を想定した上で理解の型を作る。
論理的に書かれているかどうか。

*1:ビジネスブックマラソンでも『文章術』になっていました…