地下鉄サリン事件の被害者(一部はご家族)から直接話を聞き、それをたんねんに文章化した本だ。このブログでは順番が前後してしまったが、『約束された場所で―underground 2』に先だって出版されている。
図書館で借りたのだが、出された本を見て驚いた。辞書ですか、というくらい分厚い。62人の方の話をまとめてあるのでずっしりと重い。
この事件が起きた当時、個人的になぜこんなことが起きたのか真相が知りたいと思い、ずいぶんテレビや新聞の特集を見た*2。でも、この本はそのどんな情報ともスタンスが違う。
事件のことだけを手っ取り早く聞いてまとめるのではなく、その人の人生そのものを深く掘り下げていく感じ。普通、ニュースなどだと
「死者何名、負傷者数何名」
と淡々と伝えられるのでそれはただの数字として受け取ってしまうが、この本を読んで被害者1人ひとりに人生があり、たまたまこの事件に巻き込まれてしまい、程度の差はあるが人生が変わったのだということを強く感じた。
今回の東日本大震災も含め、大きな事件・事故があるといつも思うのが、国や公的機関の指示系統の不備だ。残念ながら、この本を読むと地下鉄サリン事件も同じことが起きているように感じた。
大量に救急搬送が必要な人が出た場合、どこにどんな風に振り分けるのか、緊急時にどこが判断・指示をするのか。
この頃こんな大規模なテロ事件は想定していなかったのだろうが、もう少しそこがちゃんとしていれば死者や深刻な後遺症が残る人をもっと減らせたのではないかと思う。
特に、サリンの袋が破られた車両を、ざっと床を拭いただけでそのまま何往復か走らせていたという事実には衝撃を受けた。
村上さんがこの本を書いたことに賛否両論あったという。また、従来のルポルタージュやノンフィクションの書き方とは違っていたので、とまどった人も多かったそうだ。
私も、読んではみたものの、まだうまく消化しきれないでいる。ただ、こんな風に事実*3をていねいにまとめた本は他にないので、資料として一級品だと思う。
このくらい被害者側に立つ、よりそう本が1冊くらいあってもいいだろう。