毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

「知の巨人」の足跡を振り返る☆☆☆

※文庫版になっています→『行為と妄想 わたしの履歴書 (中公文庫)
日本経済新聞の朝刊に掲載されている「私の履歴書」に、梅棹さんが書いたのは1995年。それをもとにまとめたのがこの本だ。


先に読んだ『梅棹忠夫 語る』にもあったように、タイトルの「行為と妄想」という言葉は梅棹さんの人生を表している。まず妄想し、それを実現するためにひたすら行為=行動する。

梅棹さんの文章の書き方に興味を持ち、実際の著書を読もうと思った時に、自伝的なこの本なら読めるだろうと思って手に取った。
梅棹忠夫 語る』でだいたいの流れはつかめていたので読みやすかった。


サブタイトルが「わたしの履歴書」なので、ほぼ時間の流れに沿って進む。
とにかく破天荒な人だ。スケールが大きいと言えばいいのか。京都三高時代、趣味の登山にのめり込んで学校へ行かず、2年連続落第して放逐されそうになった話。大学院時代、教授の絶対的権威をぶちこわしたいと思って教授選に立候補した話。新しいこと、大きなことを率先してやるというのがこの人の持ち味なのかもしれない。

人生前半は調査探検に出かけ、帰国しては論文を書いたり本にして発表している。新聞社やテレビなどをスポンサーにつけ、帰国後に原稿や映画用の映像を渡す約束で、費用を負担してもらったりしたそうだ。
人生の後半、国立民族学博物館の初代館長に就任してからは文化人としての活躍が始まる。財団法人や委員会などに名を連ね、学会などさまざまな団体を立ち上げたり招聘されたり。海外にも積極的に出かけ、講演やスピーチも数多くこなしている。

本も数多く出ているし、民博館長時代には外の仕事がとにかく多かったというのに、どうやってあれだけたくさんのことができたのか、それが知りたくなった。
もちろん秘書は複数いたし、民博にもスタッフはたくさんいたそうだが、あれだけの成果をどうやって残せたのだろう。『知的生産の技術』を読めば何かわかるだろうか。


もうひとつ驚いたのが、語学習得の早さだ。海外でフィールドワークをするには、現地の人とのコミュニケーションが不可欠だ。なので、現地に赴く前に学んだり、現地に行ってからも身につけたりするという。それにしてもものすごく早い。1ヶ月でモンゴル語を学んだり、ヨーロッパで農村の調査に入る前にスペイン語を速習したりしている。
アフリカでの調査の時は、メモまでスワヒリ語で取っていたそうだ。
やはり、もともと頭のいい人だったのだろう。

この本の中で一番意外だったことは、あれだけたくさんのネットワークを持っていながら、梅棹さんはもともとは人間嫌いだという。

じっさい、世俗をさけて田舎にちいさな庵でも手にいれて、ひっそりと隠遁生活をすることがわたしの理想の人生なのである。(P134)

そして、こんなことも言われている。

わたしは学究として、さまざまな学問を楽しんできた。しかし、実利をうむ学問はいっさいしてこなかった。わたしの学問は、その意味では無用の学である。わたしはそれでよかったとおもっている。(P135)

華々しい活躍の裏にあるこの言葉が不思議に心に残った。


本来の目的だった文章は、確かにシンプルだ。短い文をつなぐ、まさに“理科系の文章技術”のお手本のようだ。「私」を「わたし」、「思う」を「おもう」と書くなど、ひらがなも多い。
こういう文章を書けるといいな、と少し憧れる気持ちもわいてきた。


もともと伝記が好きだとか、特に梅棹さんの研究に興味がある人以外は、それほど読んでも面白くないと思う。
ただ、やはりあれだけの結果を残した人だ。読めば何かのヒントは得られるのではないだろうか。
てっとり早く知りたい人にはやはり『梅棹忠夫 語る』の方がおすすめ。
関連記事
読書日記:『梅棹忠夫 語る』