毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

自然と向き合う、研ぎすまされたことば☆☆☆

色を奏でる (ちくま文庫)
志村 ふくみ/写真:井上 隆雄
筑摩書房(ちくま文庫)(1998/12)
¥ 1,050
齋藤孝先生の『読書力 (岩波新書)』『齋藤孝のおすすめブックナビ 絶対感動本50』で紹介されていた本。
探書リストに入れたままなかなか読む機会がなかったが、ようやく読めた。
さすがは齋藤先生おすすめの本だった。


◆目次◆
草木の生命
色をいただく
樹幹の滴り
伊吹の刈安
藍の一生
桜の匂い
野草の音色
くちなしの黄
緑という色 ほか

志村さんは染織家で、人間国宝だそうだ。草木染めといい、自然の草木から生糸を染め、生地に織り上げるところまで手がける。
たまたま見たNHK「プロフェッショナル・仕事の流儀」で、志村さんが紹介されていた(2013年5月27日)。何の予備知識もなく見始めて、途中であの本の著者だと気づいた*1

志村さんがどんな作業をして作品を作り出されるのか、番組を見ていたので本の世界にもすぐになじめた。
それぞれの時期に、植物を大量に採ってきて煮出すなどして染色液を作り、糸を染める。不思議なもので、たとえば同じ梅や桜でも、花を咲かせる直前にしかいい色は出ないのだそうだ。だからこそ、著者は「色をいただく」という表現をするのだろう。

藍は特別な色で、染色液を長期間置いておく。その時々で色が変わっていくので生きもののようだという。
だんだんグレーがかって行く変化の最後に、「かめのぞき」という色が染まることがあるそうだが、生きものだけになかなかチャンスがつかめない。番組でも「かめのぞき」が染められるかが大きなテーマになっていたので、文中に「かめのぞき」のことが出てきても背景がよくわかった。


「草木染め」とか「機を織る」と聞くと、とても女性的な感じがするが、番組を見た印象は“ずいぶん科学的なものなんだな”だった。薬剤の種類や入れる順番や量、などを細かく変えていき、それでも求める色が得られるとは限らない。テレビで見る志村さんはクールな研究者のように感じられた。

文章を読んで、その印象を思い出した。勝手にふんわりしたものをイメージしていたが、まったくの逆。どんどん削ぎ落としていったような文を書かれる。力強い感じすらある。
でも、不思議にそれが気持ちいいのだ。冬に寒い空気に触れて身が引き締まる感覚に近い。
きっと、自然と向き合い、色をいただくことを長年続けるうちに、研ぎすまされたのだろう。


ひとつひとつの文章は長くなく、さらっと読める。間に、風景やきれいな色の糸や、織り上がった作品の写真がある。文も写真も文句なしに美しい。
残念なのは、この本が文庫であること。写真はきっと繊細に色なども指定されているはずだが、できれば文庫化される前の本*2で見てみたかった。

美しいものや、エッセイが好きな人はぜひ手に取ってみてください。他にも著書があるようなので読んでみよう。
※この本のメモはありません

*1:その時ちょうど図書館に予約中でした

*2:もとは『色と糸と織と』岩波グラフィックス刊