「世界の旅シリーズ」の2。タイトルしか知らず、予備知識なく借りたので、読み始めてやっと、「エジプトの話なんだ」と知った。
なかなか濃い1冊だった。
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主人公は、昔つき合っていたバイセクシュアルの男性と、彼の元恋人である「オカマ」*1と3人で、旅行に行くことになる。行き先はエジプト。
20年近く前の作品なので、この時期の「偉大なるワンパターン」*2みたいな感じだ。
ちょっと変わった生い立ちの主人公、それを取り巻く男性はいるが、生々しい恋愛はなく、友だちとして関わってゆく。
同じ時を過ごしながら経験する心の変化が綴られる。
旅をしながらなので、ひとつひとつの経験がとても濃く感じられる。「世界の旅シリーズ」を読むのは3冊目だが*3、長編だからか、これが一番旅としての面白さを感じた。
私はあまりエジプトに興味がないので、行ったことも今後行く予定もないが、行った人やこれから行く人にとってはとても楽しい作品だと思う。
一般的な旅程の通りに進んでいく*4ので、計画を立てる時にも参考になりそうだ。
昨秋、何となくメトロポリタン美術館・古代エジプト展を見に行ったのだが、行っておいてよかった。
神殿やさまざまな神様の像、埋葬品、特に装飾品に関する記述が多いので、知らなかったらきっとイメージしにくかったと思う。
主人公はジュエリーデザインの仕事をしている設定なのだが、考え方や言動がとてもリアルだった。
私は昔『キッチン』を読んだ時に、料理関係の仕事に就く主人公があまりにリアルで、吉本さんがそういう経験をされていたのかと思った。ところが、実は取材をして書いたと聞いて心底驚いたことがある。
今回もプロの方に取材されたのだそうだ(あとがきによる)。
この辺のリアルさはいつもながらすごいと思う。
巻末には「おまけに」という短い旅行記のようなものと、たくさんの写真、それに写真にコメントを付けたページがある。
メンバーが濃いのでひとつひとつが面白い。
絵・担当の原マスミさんは、『不倫と南米』では同行せずに想像で描いたそうだが、今回はエジプトに行っているのでなおいっそう絵が濃い。砂ぼこりとか暑さまで感じられそうだ。
何だか何もかも濃い気がしてしまうが、小説そのもののトーンが濃いわけではない。
いつもの吉本作品のように透明感があり、エジプトという濃い背景でさらにそれが際立つような印象があった。
主人公達と一緒に旅をしているような気分が味わえる作品です。
エジプト好きの方はぜひ。それ以外の方は機会があればどうぞ。
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