「老後にいくらかかるか」は生きていく上で避けて通れない問題だ。
気になりつつも、「○千万必要です」という金額の大きさにショックを受け、見て見ぬふりをすることが多かった。
ところが、ネットで見かけたこの本の紹介記事は、「あれ、これならできるかも」と思うくらい優しかった。くわしく内容を知りたい、と思って図書館で借りて読んでみた。
お金持ち以外のすべての人*1に有益な、素晴らしい本だった。
◆目次◆
プロローグ お金に振り回されない人生のために
第1章 脱・節約教のススメ 節約しても老後は安心ではない!
第2章 禁・資産運用 いま始めること、老後に考えればいいこと
第3章 新・消費宣言 欲望に向き合えばお金が増える
第4章 知識の泉へようこそ 年金、保険、教育費を考える
第5章 ザ・住宅問題 買うべきか、借りるべきかの神学論争に終止符を
エピローグ まず最初にやってもらいたいこと
著者は奥付のプロフィールによれば経済評論家・ジャーナリスト。
銀行など金融系企業に勤めたのち、企業コンサルタント、放送作家などさまざまな仕事を経て現職、という異色の経歴。著書も経済関係の他に旅行など多岐にわたる。
文章も読みやすいし、著者の体験談も多いので一般的な経済の本と違って楽しめた。
著者はこの本を書くにあたり、たくさんの「老後問題に関する本」を読んでみたそうだ。
人によって老後資金は1500万は要る、いや3000万だ、とバラバラ。根拠もバラバラ。しかも、それらの数字はすべて“今までのデータ”を元にしている。これから先の経済がどうなるか、わかる人はひとりもいないのに、それを信じていいの?というのが著者の立場。
自分自身の不安や家族の安心の尺度を平均で決めてはいけません。しかし、専門家は本の中では平均でしか語れないのです(P119)。
年金ひとつ取っても、これからどうなるかはまったく不透明。
老後にいくらあれば安心なのかわからない。だから不安になって貯めようとする。
あげく、底値表を作ってスーパーをいくつも回ったり、ご主人の趣味にかけるお金をカットしたり、著者曰く「貧乏くさい」節約術に走ってしまう。
著者によれば、それは本末転倒。「今を楽しめば、自然に無駄な出費が減り、お金が残るようになる」という。
そのためにやるべきことは、「自分の欲望と向き合う」こと。
欲望と向き合うことは自分の心を見つめることにほかならないのです。それを数ヶ月続けていけば、ヘンテコな節約をしなくても、ただ無駄を削るだけで、だんだんとお金は貯まっていくようになる。それが長年蓄積されていけば、老後の資金にもなっていきます(P269)。
本当に自分が欲しいものは何なのか?案外、世間に踊らされて欲しいと思っているだけのものも多いという。
逆に、本当に必要だと思うなら、そこには思い切ってお金をかければいいそうだ。
著者は、自分にとって価値のあることにお金を集中させるため、たとえば「1年間、セールで買わない」と決めることを提案している。
これが、値段で価値を決めない訓練になるという。必要なら、自分の欲と相談してほしい、と思ったら買う。
定価で買うならよく吟味するし、使うので、結果的に安上がりになるそうだ。
「安いから買う」だと、値段やお得感につられて買ってしまい、実はそんなに使わなかった、ということはないだろうか。
そうやって、本当に必要なものだけを買うようになれば、支出は減るのだ。
老後とはあくまでも現役時代の延長線上にあるのです。ですから、現役時代から質の高い生活を意識し実行すればいいのです。老後とは退職したその日から、もしくは70歳の誕生日から突然始まるわけではありません(P56)。
定年になったら旅行をしよう、と思っていても、奥さんは一緒に旅行したくないかもしれない。病気になったり、もう旅行する体力がなかったりするかもしれない。
おいしいものも、老後には食べたいと思わないかもしれない。
その時その時で価値のあるお金の使い方をしましょう、という言葉は説得力がある。
老後はある日突然切り替わるものではなく、今の人生の延長、という言葉は刺さった。
だから、人間関係も今から築いておくことが大切だ。
お金に対する考え方、理想の生き方はパートナーと言えども違う。早くからコミュニケーションをして、定年後にガックリしないようにしておきましょう、と著者は説いている。お金の準備よりも、そういった準備の方が大切だそうだ。
この本の“心臓”は第4章。お金に関する知識が揃っている。年金はやっぱりかけておいた方が得とか、夫の扶養をはずれてでも、妻も社会保険完備のところで働いた方が将来安心*2だな、というのが実感できる。
読めば「あれ、そんなに生命保険要らないんじゃないの?」と思う人は多いはずだ。高額医療費の自己負担額のしくみがこの本で初めてわかった。
この辺はさすがプロ、わかりやすくまとめられている。
逆に言えば、こういう情報は新鮮さが命なので、なるべく早く読んでおいた方がいい。
著者は「家も保険も、みんなが買っているからと買っていませんか?」と問う。
家は価値観によって必要かどうかが変わるので、本当に欲しければ買えばいいそうだが、家が残ると相続の問題が出たり、年を取って維持できなくなる可能性もある。「子どもが独立したら手放して賃貸に移るのもあり」だとか(著者は実際にそうされています)。
「住宅ローンはリスク。先物取引と同じ」という言葉にハッとした。自分の将来を担保に多額の借金をすることに変わりはないのだ。昔は土地の価値が必ず上がったのでそれなりに確実な投資だったが、今後は人口減になることを考えれば、おそらく下がる可能性の方が高い。リスクというのもうなづける。
お金は流動的な状態で持っているのが一番だと、著者はくり返し書いている。
病気に備えてある程度貯金で持っておき、もし使わずに済めば老後に使える。そうすれば、多額の保険に入る必要はないそうだ。
それだけの根拠が、この本にはちゃんと示されている。
専門家に決めてほしい、と一般の人は考えてしまいがちだが、これからはお金の計画もオーダーメイドが必要になってくる。なぜなら、人によって働き方も欲も違うからだ。
この本で必要な知識を身につけ、満足行く人生を送りましょう。
ぜひ、パートナーと読んでください。
※年金など社会保険は、今後今よりも減額されることが予想されています。もちろん著者もそれには言及していますが、それでもゼロにはならず、他の金融商品に頼るよりは、社会保険に賭けた方がリスクが低い、という立場で書かれています。この辺は意見が分かれるところだと思います。
私のアクション:「安い時に買う」をやめ、「必要な時に買う」と決めてしまう
■レベル:守
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
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