夫婦で陸上競技部の寮に住み込んでいる、と青学躍進が話題になった時に聞いて、まず思ったのは「奥さん大変だなー」だった。
原監督はもともと陸上選手として中国電力に就職し、そのまま営業マンとして残っていた、と聞いたことがあったので、「夫の人生に振り回されることに納得しているのか?」と常々聞いてみたいと思っていた。まさにその疑問に答えてくれる本だった。
◆目次◆
プロローグ
第1章 わたしたちはみんな、誰かを支えるために生きている。
第2章 誰にも見向きにされないときに一生懸命考える人たちが「伝統の根っ子」をつくった。
第3章 いいチームができると「火事場のバカ力」が出せるようになる。
第4章 わがままな夫だからこそ楽しい。男はちょっとわがままな方がいい!?
第5章 与えられたことでも、喜びに変わる瞬間は来る。
「野球選手の妻」が大変だ、というのは近年テレビなどでよく特集されるので広く知られているのではないだろうか。料理や栄養の勉強をして、ちゃんとした食事を作るとか、夫が1年の半分以上いないので、子育てや家のことをひとりで引き受けなければならない、など。
ただ、それは「野球選手」と結婚する時にある程度覚悟はできる。
著者は陸上競技部の監督と結婚したわけではなく、ある日突然サラリーマンの夫が会社を辞めて陸上競技部の監督になる、と言い出したのだから、その衝撃は想像を超える。
しかも、ただの転職ではなく、著者自身も寮母として寮に住み込む、というのが条件だったのだから。
私には絶対無理なので、原監督の奥様は納得しているのだろうか?いきなり大勢の大学生の世話をしろ、と言われて不満なくできたのだろうか?と思っていた。
その答は、著者の育ち方にあった。
著者はもともと転勤族の家に生まれ、小中高とすべて転校を経験している。
その上、関東の大学に行くつもりだったのに、その時期にご両親が広島に戻ることを決めたため、広島の大学にしか行けなかった*1。
くわしいことは書いてないが、それによって「教師になる」という夢をあきらめたそうだ。
読んでいるこちらが申し訳なくなってしまうほどの振り回され方。
その分、「流され力」がついていたようだ。
人生は、なるようにしかならない。でも、なされるがままというのもしゃく。流されているようでいて、その流れの中ではベストなポジション取りをして、より良いところに流されていきたい(P24)。
そう考えてきたという。
実際に寮で20名の学生*2と一緒に暮らし始めてからも、慣れないことの連続。
でも、考え方が素晴らしい。
著者は、寮母になる前から「その日1日を安泰に過ごすこと」を大切にしているそうだ。
きっと、会社で仕事をしている人、子育てしながら家を守っている人も同じだと思います。会社なら、電車が遅れた、から始まり、上司から大至急の仕事がふってきたり、取引先からのクレームがきたり……。家庭なら、子どもが熱を出したり、急に雨が降ってきたり、目当てのものがスーパーになかったり、などなど、いろいろな予期せぬことが起こると思います。自分の立てた予定通りに進められることなど、ほとんどないのではないでしょうか(P18)。
ついつい自分で何とか思い通りにしたい、がんばったらできるんじゃないか、とフル回転した末に疲れ果てるタイプの私には、とても新鮮に響いた。
自分でできることには限りがあるのだ。それを認め、「その日1日を安泰に過ごす」ことをゴールにする。
また、この人の観察力がすごい。監督が学生の走りの面倒を見て、奥さんが学生の生活の面倒を見る、と役割分担はしたものの、さりげなく学生に言葉をかけて監督のフォローをしたり、必要な時に必要なサポートができるよう、常に気を配っている。
著者が教師志望だったことと、弟・妹のいる長女というところから来ているのかもしれない。
そのあたりは、後輩や部下を育てるような立場の人には役に立ちそう。
実は監督までうまくコントロールしているので、「監督の監督」と陰で呼ばれているそうだ。
著者自身は夢やミッションを持つタイプではなかったそうだが(教師の夢はあきらめている)、それでもいいという言葉には説得力がある。
夢やミッションが明確にある人はそれを目指せばいい。そういうものがない人は、夢やミッションがある人を応援し、支えればいい。そうしているうちに、自分の支えた人が夢を叶え、ミッションを遂行することが、自分の喜びになる(P8)。
……ただ流されていくのではなく、自分の与えられた場所で、自分のできることを精一杯やること。そうすればまわりの人も自分も幸せな気持ちになる、と信じて行動することに変わりはありません(P193)。
『置かれた場所で咲きなさい 』を思い出した。自分で何もかも選べるわけではない。与えられた場所でベストを尽くすことで、充実したいい人生にすることもできるのだ。
もちろん、陸上ファン、駅伝ファンの人にも楽しめるエピソードが満載だ。
たくさん有名選手の名前も出てくるし、手探りで寮作りを始めるところから、箱根で優勝するまでの道のりは、淡々と書かれているがやはりドラマティックだ。
著者が一番うれしかった瞬間は、2008年に予選会を突破して初めて箱根を走れることが決まった時なのだそうだ。
その理由は、ぜひ読んで確かめてください。
箱根が大好きな人はもちろんですが、夢やミッションがわからない、毎日が同じことの繰り返しで閉塞感がある、という人にもぜひ読んでほしい本です。
私のアクション:「人生は思い通りに行かないもの」と心得て、今日1日を安泰に過ごすためにどうするか、と考える
■レベル:破
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。