毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

売れるカギは「値ごろ感」  

※ [Kindle版] はこちら

家族が借りてきた本。行動経済学には興味があるので私も読んでみた。
さすがは新書、専門書とは違う切り口でするすると読めた。


◆本の目次◆
はじめに――いくら頑張っても儲からないのは、価格戦略を知らないからだ
第1章 水道水と同じ味なのに、100円のミネラルウォーターを買う理由――行動経済学と価格戦略

第1部 値下げしても儲かるカラクリ――よいものを安く売る仕組みをどう作るか
第2章 なぜミシュラン一つ星の香港点心が激安580円なのか――コストリーダーシップ戦略
第3章 参加費0円。婚活パーティのナゾ――無料のビジネスモデル
第4章 服は「売る」よりも、月5800円で「貸す」が儲かる――サブスクリプションモデルと現状維持バイアス
第5章 1000円の値引きより、1000円の下取り――適応型プライシング、保有効果、クーポン
第6章 商品数を1/4にしたら、6倍売れたワケ――フレーミング効果

第2部 値上げしても爆売れするカラクリ――お客さんを見極め、高く売る
第7章 大人気・順番待ちの1本25万円生ハムセラー――バリュープロポーションとブルーオーシャン戦略
第8章 価格を2倍にしたら、バカ売れしたアクセサリー――値ごろ感と価格設定方法
第9章 1ドル値下げのライバルに、1ドル値上げで勝ったスミノフ)――顧客ロイヤルティとブランド
おわりに――価格を知ることは、人の心理を知ることである
参考情報

著者はマーケティング戦略コンサルタント。行動経済学を元にした売り方を指南する本を多数出版されている。


この本は専門用語をわかりやすい言葉で解説してあるので、初心者にもわかりやすい。
たとえば“大塚家具がなぜ失敗したのか”*1など、最近の事例などもたくさん紹介されているので、教科書のような堅苦しさはなく楽しく読める。
巻末には参考情報*2も載っているので、興味を持った内容をもっと深く学ぶこともできる親切な本です。

おそらく、「行動経済学」と「マーケティング戦略」の基本的な知識はひと通り出て来ていますが、その中でも特に印象に残ったものをご紹介。

アンカリング

「市場にないものは自分で価値=値段を決められる」というのがアンカリング。
例として、「黒真珠」と「エンゲージリングは給料3ヶ月分」が挙げられていた。
黒真珠は、かつては価値のないものとして捨てられていたのだそうだ。それを、超高級ジュエリーとして売り出た宝石商がいた。
ニューヨークの高級店で高い価格をつけて並べてもらい、超高級なイメージを見せるため雑誌に広告を出す。その結果、セレブが身につけるようになり、超高級ジュエリーとして定着。つまり、「黒真珠はニューヨークのセレブが身にまとう超高級品」として世界にアンカリングされたのだ。


「婚約指輪は給料の3ヶ月分が目安」というのは、かつて宝石店「デビアス」が行ったプロモーションによるもの。
かつてこういった基準はなかったが、「婚約指輪は給料3ヶ月分」がアンカリングされたことで、これが基準になった。「結婚指輪の相場」が作られたのだ。

このように、世の中にまだ出ていないものの価値は自分で作れるのだ。
つい、「いくらで売ればいいと思いますか?」とお客さんに聞いてしまうが、お客さんはその価値がわからないので、“聞くのは愚の骨頂”だと著者は書いている。

サブスクリプションモデルとは何か

もともとは雑誌などの定期購読をサブスクリプションと呼ぶそうだが、ここでは「会員制で固定料金を取るビジネス」のこと。雑誌の読み放題、音楽の聴き放題、洋服の借り放題など、最近ではさまざまなものを見かける。

ネットで雑誌の読み放題は各種あり、私もお試ししてみたことがあるが*3、こんなことしたら雑誌が売れないんじゃないの?と疑問に思ってました。


その疑問にもちゃんと答が。
もともとこのビジネスモデルは雑誌を買わない立ち読み層、ライトユーザーなのだそうだ。だから、毎月雑誌を買う人たちを食うことはないそう。利用料は読まれたページに対して支払われるので、出版社にもプラスになっているとか。
定額で洋服が借りられるサービスも、おしゃれな人がターゲットではなく、「服のことは面倒だから考えたくない、誰かに任せたい」という人が多いのだそうだ*4


そして、定額サービスというのは、毎月決まった額を支払ってくれるので企業にとってもありがたいビジネスモデル。
というのも、行動経済学では「現状維持バイアス」といい、人は選択を嫌うので(何かを決めるのってエネルギーが要りますよね)、一度契約するとそのまま継続する人が多いのだ。
人は、何かを使うたびにお金を取られることを本能的に嫌う。
そして逆に、「お金を払っているのだから、使わなければ損(=プロスペクト理論)」と考えるようになるのだ。


どういうからくりなのかわかっていると、使う側に立つ時も冷静に選び、安心して使えそうなのでこれは読めてよかった。
だからといって毎月定額のアプリにはなかなか手が出ませんが*5

値付けのカギは「値ごろ感」

モノが売れるには買い手の「値ごろ感」にフィットすることが大事。

お客は安すぎても品質が悪いのでは、と警戒して買わないし、高すぎても手が届かない、と買わないのだそうだ。
買う気になるのは「安いけどいい商品」か「高いけどさすがだ(それだけの価値がある)」のどちらか。値ごろ感はこの間にある。
サブタイトルに「値づけの科学」とあるように、この本のキモはこれ。


売れなかったターコイズのアクセサリーを、投げ売りするつもりが間違って倍の価格で売ったら即完売した話(実話です)が面白い。
つまり、お客さんは「安かろう悪かろう」を警戒して買っていなかったのだ。これは、値段のつけ方が間違っていた例。
価格には、品質を保証する意味もあるからだ。


逆に、あまりにも安くすると「ヤバい客」が来るので、適正価格にして「ヤバい客」を切るべき、という話は身に覚えがある。
安い値段にすると安さ狙いのお客さんしか来ない。そういう人たちは、値段を上げたとたんに離れていくのだ。

以前個人で仕事をしていた時に、イベントなどに出てかなり値引きしていたこともあるが、そういうお客さんはリピーターになることはなかったし、私が来てほしいお客さんとは明らかに違っていた*6
だから、「お客様は神様ではない。誰をお客さんにするのか、自分たちで主体的に決めていい」という著者の言葉は心に響いた。


ここでは紹介できませんでしたが、ブルーオーシャン戦略の例として挙げられているイベリコ豚の生ハムのお店が興味深かったです。ターゲットを「52歳、経営者」に絞り、一般的な居酒屋とはまったく逆の戦略をとることで超人気店になったのだそう。

ほかにも面白い事例がたくさん紹介されています。
何かを売る時にどう値段をつけるかは案外むずかしいもの。知っておくとものの見方が広がりますよ。
私のアクション:ブルーオーシャン戦略の本を読んでみる
■レベル:守 「行動経済学」の入門書に最適です

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※この本のメモはありません

*1:ニトリはコストリーダーシップ戦略をとり、規模を拡大することでコストを下げてきた。 大塚家具は、コスト戦略を考えずに値下げし、企業規模がまったく違うため(ニトリ545店舗、大塚家具19店舗/2018年8月時点)敗退。

*2:本以外の雑誌やネット上の記事などもあるため、文献ではなく情報だと思われます

*3:楽天マガジン magazine.rakuten.co.jp を1ヶ月だけ。長時間読みふけってしまうので結局継続はせず…

*4:これは想定と違っていたようですが

*5:うっかり「現状維持バイアス」が働いて、大して使っていなくても毎月払い続けてしまいそうなので、有料アプリは買い切りのものに限定しています

*6:高いものを安く利用できた、ということに喜びを感じるタイプと言えばいいのか