毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

夢研究の軌跡をたどる☆☆☆

4270001208脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ
アンドレア・ロック著 伊藤 和子訳
解説 池谷裕二
ランダムハウス講談社
2006-03-16

価格 ¥ 2,310

by G-Tools

夢や睡眠、体のしくみなどにある程度興味がなければ読みづらいかもしれないが、私にとってはとても面白く、引きつけられる本だった。
この本を書いたのは脳や夢の研究者ではなく、医療分野を専門とするジャーナリストだ。しかし、研究者に丹念に取材をして書かれているので、論文を読んでもまったく理解できない一般人にもわかりやすい。ここが他の本との決定的な違いだと思う。

しかも、夢や睡眠の研究というのは、決まった方向性があまりない。脳科学からアプローチしてもいいし、心理学からでも可能だし、意識や視覚の研究を夢を分析することで行うという手法もある。要するに何でも在りなのだ。その、非常に多岐にわたる研究を年代順に並べ、各研究者の考えや手法の違いを示しながら1冊の本にまとめるというのはとてもむずかしいはずだ。著者のジャーナリストとしての才能と経験が光っている。学者の研究というのは無味乾燥なイメージがあるが、この本では研究者の人生まで生き生きと描かれていて思わず引き込まれる。

レム睡眠の発見から始まり、フロイトの提唱した夢は性的抑圧から来る、という学説をどう捉えるのかという大きな課題が現れる。さらに、脳科学の側面からの研究が始まり、夢が学習の助けになっていることや、記憶の再編を司っているなど、夢の役割が時代を追って少しずつ明らかになってゆく。
さらに、明晰夢*1の研究では、夢を見るメカニズムと現実を認識するメカニズムに何の違いもない、というところまで明らかにされ、衝撃的だった。「脳は手持ちの情報で自分に都合のいいように作り上げてしまう」ということを知ったら、自分の意識に対する考え方も変わる。

そして、現在の主流である海馬や扁桃体による記憶の取捨選択と経験の統合へと研究の流れは向かっていくのだが、不思議だと思ったのはこれだけ研究されていながら、未だに睡眠や夢のメカニズムは完全には解明されていない、ということだ。文中である学者が語る言葉が印象的だ。

「人生の3分の1は眠っている時間だ。その3分の1の質が残りの3分の2の質を決定する。それなのに、睡眠を理解することは国家的な課題になっていない。考えてほしい。私たちは人生の3分の1を眠って、夢を見て過ごす。なのに、なぜ眠り、夢を見るかはまだわかっていないのだ」

これは、助成金を国(=アメリカ)が夢の研究に対して出さなくなってきていることに対するコメントだ。睡眠の研究は進んでいるが、それは睡眠障害などに偏っていて、睡眠と夢に関する基礎研究にはほとんど出されていないのだそうだ。


夢と睡眠に関する大きな期待がこの本には書かれている。それは、うつ病が睡眠コントロールによって改善・軽減の可能性があることだ。
うつ病患者は一般的なレム睡眠時の夢とは違うパターンで夢を見ることが研究で明らかになっているそうだ。感情を吐き出し、対応していく機能が夢にはあるそうだが、うつ病患者の場合それがうまく機能しない。逆に、夢を見ることによってくり返しよくない感情を強化しているとも言える。これを、レム睡眠の時に起こして夢を見させないことで改善できる可能性があるのだという。

このように、夢にはまだまだいろんな可能性を秘めている。読んでいてとてもワクワクする本だった。
このジャンルに興味のある方はぜひどうぞ。

*1:自分で夢を見ている自覚がある夢のこと。自由に夢をコントロールできる人もいるそうです