著者は東大名誉教授で、言語学が専門だ。
「新編」とある通り、以前出されたもののようだ。例文が新聞や雑誌、果ては音楽番組のコメントまで驚くほど幅広い。昨年世間を賑わした芸能人の薬物スキャンダルに関する記事まで取り上げられているので、例文も新しく採用したのだろう。
ただ、タイトルが「小辞典」なので、辞典的なものを想像していたが、50音順に並んでいるだけで雑多な印象だった。取り上げられている言葉も、確かに多くの人が間違っているものもあるが、そんな間違い誰がするの?というような学生の論文から採用した特殊なもの*1もあり、ひと通り読んだらもういいかな、と思ってしまった。
著者は辞書の編纂にも数多く携わっているからかもしれないが、誤用か誤用じゃないのかはっきりしないものが多い。読む側としては専門家にハッキリ白黒つけてほしいので、歯切れが悪いのも気になった。というわけで☆はひとつ。
ただ、「ラ抜き」は誤用ではない、という解説だけはしっかりしていてそれなりに根拠のあるものなんだな、ということはわかった。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
「おざなり」と「なおざり」
おざなり
その場のまにあわせ(にするようす)。いいかげん。
なおざり
真剣に取り組まないようす。いいかげんにほうっておくようす。
「おざなり」は、あまり真剣には取り組まないけれど、とにかく何かをする場合に用いられるのに対して、「なおざり」の方は、放ったらかしにして、必要なことをしない場合に用いられるという相違点が出てくる。だから、「修理をおざなりにした」と言えば、不じゅうぶんながらもいちおう修理はしたということであり、「修理をなおざりにした」と言えば、修理のことにじゅうぶん注意を払わず、修理をしなかったことになる。
耳ざわりのいい音楽は誤用
「耳障りだ」といえば《不快》に限り、「目障りだ」といえばやはり《不快》に限ることを意味している。一方「×肌ざわりだ」とは言えず、「肌ざわりがいい(悪い)」と言わなければ意味が完結しない。
(中略)
「耳触りのいい音楽」という言い方はすでに多くの国語辞典で認められているので、不満ながら筆者も認めざるを得ないが…(後略)
×知ってか知らずか
この句は「知ってか知らでか」の形で用いるのが正しい。この句の成り立ちがわかるように拡大してみると、「知ってするのか、知らないでするのか」ということになるので、「知らず」より「知らで」のほうが理屈に合う形ということになる。
×その段でいくと
「その段でいくと」というのは「その伝でいくと」とあるべきものである。この「伝」は《すでに実行されたことがあり、お手本とみなされる方法》を意味する。
*1:例:“霧が立ち込んだ森”→「霧が立ちこめた」の誤用