家族が借りてきた本。何度も書いているが私は齋藤孝先生フリークなので、これも喜んで読んでみた。
齋藤先生の本には時々あれっ、というものがあるが*1、この本は文句なしにいい本だった。
まず、章ごとに対象と目的がはっきりしている。たとえば
3章 ビジネスの文書力
4章 学生のための文章術(感想文・小論文・自己アピール文)
5章 メール
という風に非常に具体的なので、自分に関するところだけ読んでも即役に立つ。
読んで思ったのは、“人を動かす=心を動かす”ということ。タイトルだけ読むと、いかに人を(自分の)意のままに動かすかという内容かと思うが、違っていた。極端にいえば“いかに文章で人を感動させるか”について書かれた本だ。気持ちが動いた結果、人は動いてくれるのだ。
メールは身体性が低いから伝わりにくい、温度が伝わらない分大げさに書くという論には納得した。さすがは身体論が専門の齋藤先生だと思う。
以前読んだ浅野ヨシオさんの『たった1通で人を動かすメールの仕掛け』にも通じる。
全体を通したキーワードは「おトク感」。これが意外だが説得力があった。やはり人は「おトク感」で動く面があるのだろう。相手のメリットを考えて書くだけでも大きく差がつくのだ。
さらに、後半には村上春樹さんの『1Q84』がなぜベストセラーになるのか、どういいのかについてかなりのページを割いていて、これがなかなか面白い。私は読みたいがまだ読めていないので、ますます読みたくなった。
形式じゃないんだよ、気持ちだよという熱さが全編にみなぎっている。
小論文の採点基準など、部外者には「それ本当ですか?」と言いたくなるところもあるが、採点者の経験も豊富な先生だからきっと本当なのだろう。受験や就職試験をやる側の考え方も書かれているので、合格率を上げるヒントになるのではないだろうか。
文章術というと形式をあれこれ言われることが多いが、本質に迫る良書。ぜひ読んでみてください。
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
著者の考えるエッセイとは(P12)
エッセイとは、ひとつのテーマを決め、それについて語っていくうちにその本が引用される、という構造が必要なものです。
(中略)
…エッセイとは、作文よりももう少し知的な捉え直しというものが必要です。文章のテーマに関わるキーワードがちりばめられていて、何かしらの発見があるもの。それがエッセイです。
つまり、エッセイを書くには、あるテーマについて従来とは違った視点での捉え直しと、そこから得た新しい発見が必要なのです。
ものの見方を変える文章こそが、意味のある文章(P20)
単に書かれた情報の一部を受け取るのではなく、その文章を読んだおかげで、何かがインスパイアされる文章。
書くためのふたつの「考える力」(P28)
「書く」時の考える力にはふたつあると述べました。新しい認識を得る力と、文脈をつなげる力です。
(中略)
文脈をつなげる訓練はうまくこなすことができるのに、それでも文章が書けないと自覚している人は、発見する力、認識を得る力が足りないのです。
あるいは、文脈をつなげる訓練が苦手だという人は、発見する力はあるのに、つなげる力がない可能性が高い。
苦手分野がはっきりすれば、あとはその部分を集中的に鍛えれば、あなたの文章力は見違えるほど向上するでしょう。
知識には「受動的知識」と「能動的知識」がある(P29)
受動的知識というのは、「知っているけれども自分で活用できないもの」です。われわれの持っている知識というのは、この受動的知識の割合の方がずっと多いのではないでしょうか。
(中略)
その知識、ネタが外にあるもの、他人のものであっても、いったん自分で文章にまとめることで、自分で活用できるネタにしてしまうことができるのです。さらにそこに、あなた自身の知識や経験をからめていくと、他人の論だったものが換骨奪胎されて、自分自身のオリジナルなネタになってしまうのです。これこそが能動的知識です。
読書というのは、あらゆる視点を楽しむ行為(P105)
著者が一度書き上げた作品は、読み手がどのように読んでもいいのです。
多義的な解釈を許すものほど、テキスト性の高い質のよい作品なのです。
1冊の本で気の利いたセリフをひとつ拾えばいい(P115)
本というものに対してあまり過大な期待を持ってはいけません。おみやげをひとつ持って帰れれば上出来です。そのひとつのセリフで、文章が1本書けたら、私は「おトク感があった」と思っています。
「濃淡読み」でスピードアップ(P116)
砂丘で砂金を探すような感覚で本を読んでいくとすると、全体…をざっと見渡した時、その中には「この20ページは軽く済ませていいかな」という部分が必ずあります。そういう部分はパパッと目を通すくらいでかまいません。私は…全体を均等に読むのではなく、こうやって緩急をつけた「濃淡読み」をすることを勧めています。
「お中元・お歳暮」感覚のメールを出す(P169)
私はめったに会えない人には、お中元・お歳暮感覚のメールを年に1、2度出しています。
(中略)
私からの「お勧め情報」をひとつ入れておく。これは、メールの受け手が自分では得られなかったかもしれない情報で、おトク感を感じてもらえます。さらにその相手に対して、「なかなか会えないけれど、あなたのことをいつも気にしていますよ」というサインにもなります。…コストはゼロですが、メールをもらった相手がこれで嫌な気持ちになるはずがありません。こういうメールを出すことによって、めったに会えない人とも、「つながってる感」が生まれるのです。
文章を読む際の3つのポイント(P174)
・この人は「これとこれが違う」ということを言いたいんだな
・「これとこれが実は同じ」ということを言いたいんだな
・この人は「これがどうすごいのか」、そのポイントを言っているだけなんだな
このポイントで整理して読むと、だんだん頭がスッキリしてきます。
(中略)
「書く人が何を伝えたくてどんな思いで書いているか」という視点に立って読むと、文章は非常に読みやすくなります。
タイトルに具体的なモノと抽象的なものをうまく交ぜる(P203)
『プラダを着た悪魔』という映画があります。…それは「プラダ」という具体的なブランド名が盛り込まれていることがポイントになっています。
(中略)
具体性を持ったタイトルは小説でもよく使われます。スティーブン・キングの『ブルックリンの8月』は具体的な知名を盛り込んでいます。そういう具体性の中に「何かあるんではないか」と読者は思うのです。
*1:個人的には『15分あれば喫茶店に入りなさい。』はそちらです…