著者・トニー・シェイは台湾系アメリカ人で、典型的アジア系アメリカ人の家庭に育ったそうだ。学歴重視で、両親は医者になってほしかったという。
しかし、トニーは子供の頃からビジネスに興味津々。9歳で「ミミズ養殖」にはじまり*1、いかにしてお金を稼ぐかを常に考え、様々なものにトライする。
親の薦めでハーバード大学に入ってからも寮でビジネスをしたり、みんなで集まってコンピューターの仕事をしたり。それが彼にとって最初の成功となるインターネット広告ネットワーク会社、リンクエクスチェンジにつながる(のちにマイクロソフトに売却)。
その時の莫大な利益を元に投資家として活動するが飽き足りず、ザッポスの経営に関わってCEOとなる。
この経緯が私にはとても興味深かった。
最初に興した会社「リンクエクスチェンジ」がつまらなくなった理由は、急速に成長した結果自分たちのビジョンを共有できない人々が入社してきたため。
その後たくさんのお金を得て働かなくても生きていけるようになり、豪華な生活もしたがそれが楽しいわけでもない。手元のお金を元に投資事業に乗り出したが、それはどうもつまらなかったようだ。
それで結局、すでに投資していたザッポスの経営に関わっていくのだが、そこで彼はまた生き生きと仕事をするのだ。そして「自分は仲間と一緒にひとつの夢を作り上げるのが楽しいのだ」ということに気づいたそうだ。
ザッポスは今のような成功はおろか、いつつぶれるかわからないくらいの危機に何度も陥っている。それでも自分の理想とする会社を作るために邁進する。ここは本当に読んでいてハラハラドキドキする。
自分の信念に基づき、常識はずれなことを大胆に取り入れているのも素晴らしい。たとえば、信じられないくらい手厚いカスタマーサービスのため、コールセンタースタッフは外注ではなく要職に位置づけているし、自分たちのビジョンに合わない人が入社するのを避けるための特殊な面接*2や研修プログラムなど、自分たちが優先するものを明確にし、そのために時間も費用も投じている。
中でも印象に残ったのはコアバリューの徹底だ。
- サービスを通して「ワオ!」という驚きの体験を届ける
- 変化を受け入れ、変化を創造する
- 楽しさとちょっと変なものを創造する
- 冒険好きで、創造的で、オープン・マインドであれ
- 成長と学びを追求する
- コミュニケーションにより、オープンで誠実な人間関係を築く
- ポジティブなチームとファミリー精神を築く
- より少ないものからより多くの成果を
- 情熱と強い意志を持て
- 謙虚であれ
自分たちの文化がすぐに説明でき、社員が誇りを持って働けるように社員に意見を聞きながら練り上げられたものだ。
企業理念やクレドといったものを提唱する本は多いが、ここまで血の通った大切にされているコアバリューはないと思う。これがザッポスの成功の基礎になったのは間違いない。
この内容をそのまま使っても成果は出ないが、作り方や育て方は誰にでも参考になるはずだ。
個人的にもっとも心に残ったのは、「友人を大事にする」という実にシンプルなことだった。
学生時代、私はある集まりに参加してした。情報誌のページを学生が自由に作る、というサークルのような場で、いろんな大学の個性的な学生がたくさんいた。それぞれ特技も違い、とにかく楽しかったので「このメンバーで会社とかできたらいいのにね」と話していた。
しかし、当時はそんなに世の中甘くないか、と夢は夢で終わり、みんなそれぞれ就職した。
トニーはそれを実際にやったのだと思った。「信頼できる仲間と夢を実現する」ことを大切にし、彼はたくさんの常識を破って成功したのだ。
この本の中で彼は「友人を大切にしなさい」と書いている(くわしくは下のメモ“イヴァンカ・トランプの本より”をご覧ください)。ビジネスとは関係なく、友人を作り、友情を深める。そうすれば結果的にその友人がビジネスにも恩恵をもたらしてくれる。
時代は変わってきているのだ、と強く思った。
この本の最終章には、ポジティブ心理学の理論にもとづいたフレームワークがいくつか紹介されている*3。原著のタイトルは『Delivering Happiness』、幸せを届けるのが自分たちの仕事、という誇りを感じる。
この本はいろんな読み方ができると思う。これからのビジネス構築方法やカスタマーサービスの考え方を知ることもできるし、企業としてソーシャルメディアとのどう付き合うかのヒントも得られる。特に、お客様が何を求めているか、という意味で『女性のこころをつかむマーケティング』と同時期に読めたのはとても有益だった。
でも、単にビジネス本というよりは、生き方についても学べる本だと思う。
通販やネットビジネス関係者はもちろん、自分が何をやりたいかわからない人にもぜひ読んでほしい本。
私のアクション:ビジネスとは関係なく、友人を増やし大切にする
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読書日記:『HAPPIER』
読書日記:『女性のこころをつかむマーケティング』
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
お金=幸せではない(P97)
…私たちはみな、自分の属する社会と文化によって、どれほどあっけなく、自分で考えることをやめ、結局のところ幸せとは人生を楽しむことであるのにもかかわらず、規程のこととしてお金がたくさんあることイコールより多くの成功と幸せだと思い込むように洗脳されているのか(以下略)
イヴァンカ・トランプの本より(P143)
…私のアドバイスは、従来のビジネス感覚の「ネットワーク」作りをやめて、その代わりに、友情そのものが報いとなるところで、友人の数を増やし、友情を深めるようにすることです。友人関係が多様化するほど、いつか将来、その友人関係からビジネスでもプライベートでも得るものがあることでしょう。得られるものが何かはまるでわからないでしょうが、あなたの友情が純粋なものなら、友人関係ができてから2、3年後に魔法を使ったかのようにその恩恵を受けることになるでしょう。
顧客とのやりとりは最高の機会(P242)
私たちには毎日何千もの電話やメールが入りますが、どの電話やメールも最高のカスタマー・サービスと顧客体験を作るザッポスというブランドを構築する機会として考えています。
1日1%の改善を(CFO/COOアルフレッド・Fのブログ記事より)(P277)
私がみなさんにしていただきたいことがひとつあります。コア・バリュー・ドキュメントに立ち返り、ザッポスをよりよくするために毎週最低何かひとつ改善していただきたいのです。理想的には、毎日したいところです。恐ろしく大変なことに思えるかもしれませんが、決して劇的な変化でなくていいのです。1日わずか1%の改善を来る日も来る日も続けていき、成し遂げられることについて考えてみてください。1%の改善を続けることで、劇的な効果が生じ、1年後には私たちは37倍よくなっているのです。365%(3.65倍)ではありませんよ。
コア・バリューとは、本来、企業文化が明文化されたもの(P312)
個人にとっては、個性が運命です。組織にとっては、文化が運命です(P312)
著者が講演で用いる基本的なルール(P348)
- 情熱的になる
- 個人的な話をする
- あるがままでいる
ハピネスのフレームワーク3(P396)
幸福感の3つのタイプ:快感、情熱、崇高な目的
- 快感:「ロック・スター」タイプの幸福
3つのタイプの幸福感の中で、この類の幸福感が最も長続きしない。刺激を与えてくれる源がなくなったとたん、幸福感のレベルはすぐに下がってしまう。
- 情熱
…「フロー」という呼び名でも知られ、最高に集中している時に最高のパフォーマンスができるというもので、時間の感覚がなくなる状態。「ゾーンに入った」と表現することも。
- 崇高な目的
…あなたにとって意義のある自分自身よりも大きなものの一部になることで得られる。3つのタイプの中でこれが最も幸福感が長続きする。
多くの人が人生で、快感で得られる幸福感をずっと持ち続けられると考えて、快感で得られる幸福感を一生追求し続けますが…適切な戦略とは、最初に自分にとってのより崇高な目標とは何かを見いだして、追い求め(というのも、この類の幸福感が最も長続きするからです)、その後、その下に情熱、さらにその下に快感で得られる幸福感を据えることなのです。
自分を幸せにするための質問(P401)
あなたは毎日自分が最高に幸せになるために仕事をしていますか。
毎日、世界の幸せに対してあなたの存在はどんな影響を与えているでしょうか。
あなたの価値観とは何でしょうか。
あなたは何に情熱を傾けていますか。
あなたにやる気を与えるものは何でしょうか。
あなたの人生の目標は何でしょうか。
あなたの会社の価値観とは何でしょうか。
あなたの会社のより崇高な目的とは何でしょうか。
「あなた」のより崇高な目的とは何でしょうか。